第192話 ラスティン31歳(弊害)
何だか納得出来ないと言った表情のままのニルスが救出された兵団員達を連れて来た。ニルス自身は先ほどの会話について考えているのは構わないのだ。ニルスは生まれも育ちもレーネンベルクなんだが両親の教育方針があったのか、誰かの部下として動く事に向いている。ニルスと、レーネンベルク高等学校の卒業生を並べてみると良く違いが分かるが、ニルスにも自分で考えて自分の行動を決めてもらいたいと思う。
まあ、難しい表情のニルスは分かるんだが、開放された兵団員達の表情まで暗いのはどう言う事だ? まさか、(誘拐のしやすさと発覚のし難さからか)独身者が多いので、ゲルマニアに恋人でも出来たか? とてもそんな環境じゃなかった筈だが。彼らと対面している私は、”ラスティン・ド・レーネンベルク”なのだから何時も通りで行くしかないな。
「皆さん、今まで辛い目に遭わせてしまい申し訳ありませんでした。レーネンベルク魔法兵団はあなた方のお帰りを心から歓迎いたします。お帰りなさい!」
「殿下・・・」
何故だろう、反応が思わしくないぞ。30過ぎには今のは無理があったか?(盛大に滑った感がヒシヒシと感じられる)
「殿下・・・」
別の兵団員がもう一度同じ言葉を言った。そうか、彼らにとっては私は”副王殿下”のままだったのだな。懐かしい敬称だったがあまり違和感が無かったな。やっている事に進歩が無いからとかじゃないぞ、多分な!
「皆さん?」
「殿下、「申し訳ありませんでした!」」
謝罪の言葉だけは息がぴったりだったな。何故謝罪されるかは理解出来ないが? 救いを求めてニルスの方を見ると、”あっちゃ?”と言う感じだったぞ。これは私の国王就任を知らせて居なかったのを失態と感じたからだろう。こっちはまあどうでも良いんだが。
さて、謝罪された事って何だったかな? ああ、あの事か、彼らはその為に誘拐されたんだし、あの技術自体はノウハウ的な物を除けば見ただけで分かってしまう程度の物だし、ノウハウの方はやっている内に思い付く物でそれ程重要な技術じゃないのだ。
どちらかと言えば、マカカ草の種なんかを奪われる方が危険だったのだがあのハーブティーの効能に関しては、厳重に管理しているし、本当の意味での効果が分かるほどゲルマニアの現状は緩く無かったのだろう。それに、兵団の首脳部しか、本当の効果を理解していなかっただろうからな。
「なんだ、あの事か?」
「ラスティン様?」
「ワーンベル風の錬金を他人に教えるのは簡単だったでしょう?」
「はい・・・」
一番年長の女性が躊躇いがちに答えてくれた、当たりの様だな。
「それはそうだろうね、あの錬金方法は、誰にでも簡単に、効率良く錬金が出来る様に考え出した物なのだから。貴方達も最初は戸惑ったのではなかったかな?」
まあ、魔法と言う特別な力を安売りする人間が少なかったと言う背景と、時代錯誤な徒弟制度が幅を利かせている世界だったからな。そうでなければメイジが鍛えた剣が数百エキューもするはずが無いし、お陰で私も色々稼がせてもらったのだがね。
こんな事を考えていると、基礎錬金魔法の開発者ガストンさんに怒られそうだが、あの人はそう言う類で事では怒らないかもな。ああそうか、私達が考え出した方法を使ってさえ、人を使い潰さなければならない状況を見て”私自身”が怒りを感じたのだな。キュベレーの未熟な感情と同調した事で、怒りが抑えられなったという流れだったのだろうか? あの状態は私としては結構便利な気もしたが、不用意に使うのは拙いのかも知れないな。
「殿下? ラスティン様?」
「ああ、すまないな。何処まで話したかな? うむ、貴方達も分かっている通り、ワーンベル風の錬金はタネが分かればどうと言う事は無い技術だ」
「そんなことは・・・」
「そうか? 貴方達がきちんとゲルマニアのメイジ達に分子構造について説明出来たかな? 模型も無ければ、教本も無い状態だったろう?」
まあ、彼らが分子構造に関して十分な知識を持っているとは思わないがそれでも知識があるだけで錬金の効率は段違いだし、実際分子に関する知識が無くても青銅だって精製出来る。抽出(イクストラクト)や結合(コンポーズ)でさえ使用に堪えるらしい。(どんな原子や分子でもとは行かないが、目の前で見せられて周りのメイジが実際に使っているのを見れば何となく使えてしまうというのが、如何にも魔法らしい話なのだ)
「分かったかな、貴方達が漏らした情報と言うのはその程度の物なのだよ」
「殿下、それならば私は何の為に誘拐されたのでしょう。目の前で同じメイジが何人も死んでいくのを見て・・・、くっ!」
それを私に聞かれても困るのだがな、解答を持っていた人間は既に故人だし、一回り以上年上の兵団員も居るのにな。私の様な若造(若いぞ!)が生きている意味などを説いても説得力に欠けると思うんだが?
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