第191話 ラスティン31歳(リセット)
「ラスティン様、救出した兵団員達が面会を求めていますが?」
「構わないぞ、皆さんの方が問題が無いのなら、今すぐでもな」
「分かりました」
そう答えながら、ニルスは部屋を出て行こうとしなかった。まあ、彼らとは暫く同じフネに乗っているのだから直ぐでなくても問題ないか?
「ニルス、何か言いたい事がありそうだな?」
「いえ、あの・・・」
「あのルブリンの暴動の話だろうな、ニルスならどうした?」
「その前に1つ聞かせて下さい。ラスティン様はあの暴動に関与されていますか?」
ガスパードなら断定してくるだろうが、ニルスの性格だとこういう聞き方になるのだな。私が関与した証拠など、ああ、なのメッセージの話を聞いたのか?
「ああ、扇動したと言っても良いな」
「もう少し、方法は分かりませんけど、もう少し穏当な方法は無かったのですか?」
「穏当か、ニルスは看守の連中に同情するのかい?」
「いえ、そうでは無いのですが、どうも他人事と思えなくって・・・」
「そうか・・・」
ニルスだって、私の護衛隊の1人だ。私を守る為に暗殺者と戦った事だってあるだろうし、逆恨みを買う可能性だって無い訳ではない。看守の中にだってどうしようもなく任務を果たしていた人間だって居るだろう。他人事とは思えないと言うのはこの辺りか?
余談になるが、私自身は自分に向けられた暗殺者について知らない様にしている。こうしないと妙な所まで影響が出そうで恐ろしいからな。暗殺者の息子や親族が逆恨みしてとか考え出したら切が無いし、その”恐れ”自体が何らかの影響をこの世界に与える可能性だった無いとは言い切れないのだから。
「例えば、当初の予定通り特殊部隊で誘拐された兵団のメイジだけ救出したとするな?」
「はい」
「そうなると、新皇帝が地盤を固めてあそこに手を出すまでに何人もの平民メイジが犠牲になるだろうな。ニルスはそれでも構わないか?」
「・・・」
「意地悪な質問だったな、私自身最初の計画通り話を進める積りだったさ。だがな、目の前でおかしな動きをしたメイジが撃ち殺されたのを見て、それじゃいけないと思ったんだよ」
「それは、どういう意味ですか?」
「そうだな、現場を見なきゃ納得出来ないかもな。看守達は命じられて、不審な動きをしたメイジを撃ち殺したんだ。そうしなければ自分も周りにも危険が及ぶからな」
「そうですね・・・」
「だがな、それを見ている平民メイジ達はどうだろう?」
「えっ!?」
「メイジが居て、杖を持っているんだぞ。何も出来ないとは言えないよな?」
「はい・・・」
「エミルタの実の中毒なんて明日は自分なのかも知れないし、放置されれば自分が今仲間に殺されるかも知れないんだぞ?」
「・・・」
「何も無くても、銃を突きつけられたまま魔法を使うのはかなりキツイだろうな。仲間を見殺しにして生き残ったとか、知り合いを殺された恨みを抱えながら生きていくとか、幸せだろうか?」
「・・・」
「看守の方だって同じだな、あそこの看守をやっていたと知られればかなり酷い事になるだろう 上手く新皇帝があそこを解体したとしてもしこりは残る」
「はい・・・」
「それならばいっその事、総てをリセットするべきだと思ったんだ」
まあ、実際は殆ど後付けの理由だな、キュベレーと同調していたのが原因なのか、私自身妙に好戦的だった気がする。自分達の手で自由を勝ち取ったゲルマニアの平民メイジと手痛いしっぺ返しを喰らったゲルマニアの軍人達か、後でアルブレヒト3世に説明が要るだろうか?
「それで、全ての人が救われるのでしょうか?」
「そんなはずは無いな、物事はそれ程単純じゃないさ。復讐を考える人間も居るだろうし、心に色々な傷を負ったままの人間も少なくないだろうな。だけどな、多くの人がこれからどうするべきかと考える切欠になるんだと思うよ」
「陛下、私が浅はかでした!」
「ニルス、それは違うぞ」
「はい?」
「私のした事で多くの人が死んだのは確かだ。ただ、それが正しいかは現時点では分からないんだよ」
私としては、”あの状態”が少しでも早く終わる事だけを望んだ結果ああなってしまったという感覚なのだが、それを言ってはならないのだろうな。これから生きて行く人達の為にも、死んで行った人達の為にもな。
「ですが・・・」
「人生も政治も同じだよ、結果が全てさ」
まあ、国王などという商売は自分が死んだ後まで考えなくてはならないらしいがね? 先のガリアとトリステインの2人の国王の事を少しだけ思い出すことになった。私や愚痴王のこれからの行動で前王達の決断が正しかったのか評価される訳だ。
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