第157話 ラスティン30歳(攻略方法)
ジョゼット達が帰って行くと、入れ違いにロドルフと明人青年が私の客室にやって来た。まあ、隣なのだから人の気配で凡その様子は分かるんだろうな。(まさか精霊に探らせているとは思えないが?)
「始めましてかな、平賀 明人君」
「あの、ちょっと信じられないんですが、貴方が本当にこの国の王様なんですか?」
「まあ、そんなに緊張しなくてもいいよ。ロドルフ、説明は?」
「大体終わっていますよ、本人が信じているかは別ですけどね?」
「そりゃあ、簡単には信じられないだろう? 夢の中だって言われた方がまだ現実味がある」
「ははっ、それはそうかも知れないけど、残念ながらこれは君にとっても僕達にとっても現実だよ」
明人青年の言葉には、私達も笑うしかなかった。精神と言うより記憶だけが移動してきた私達転生者と違って、肉体も精神もそのままの形で召喚された明人青年にとっては、目が覚めれば夢だったというオチの方が現実味があるのだろうか?
「ところで、ラスティン様達が生まれる前に日本で生きていたというのは本当ですか?」
「別に私に敬語を使う必要は無いよ。公式な場面じゃなければ、呼び捨てで構わないしね」
「そうですか、じゃあ、ラスティンさんと呼ばせてもらいます」
「そうしてくれ、君は自分の記憶が正しいとこの場で証明出来るのかな、明人君?」
「それは・・・」
「だろ? ちなみに私達にとって日本での記憶よりも、今生きているこの世界の事の方が大事だし、それは君にも言える事だと思うけど?」
私のその台詞を聞いて、明人青年の顔が少し歪んだのが分かった。
「もしかして俺は日本に帰れないのか?」
「おや、どういう根拠で帰れるなんて思ったのかな?」
「ロドルフ、少し黙っていてくれ」
「やっぱり帰れないんだな・・・」
「明人君、正確な情報を君に伝えるのは難しいんだが、今、現在は君を日本へ帰す方法は無いと思ってくれ」
「今は?」
「そうだね、言い方を変えれば条件が整えば帰す事が出来るかも知れないと言った所かな?」
ヴィットーリオ・セレヴァレが虚無の力に目覚める可能性は限りなく低いのが現状だし、明人青年に妙な期待を持たせるのも、逆に絶望させるのも良策では無いと思えたのでこういう返事になってしまった。(ロマリア王国と宗教庁に始祖の秘宝が分けられてしまったらしいから、仮にヴィットーリオが教皇になったとしても虚無に目覚める可能性は低いとしか言えない)
「そうか・・・、貴方達は日本に帰りたいとは思わなかったのか?」
「さっきも言ったけどね、私達はこの世界に生まれた人間なんだよ。ここが故郷なのに何処に帰るって言うのかな?」
「はぁ、なんか憂鬱な話だな・・・」
「そうかな、私達はココで自分なりの生甲斐を見つけて、概ね有意義に生きているんだが、君にはそれが出来ないのかな?」
「勝手に呼び出しておいて・・・、すまないこれは貴方に言っても仕方が無かったな」
「いいや、それをルイズには言わないでくれ。それに君もこの世界に来て何か思う所があったんじゃないかな?」
「・・・、どうしてそう思うんだ?」
「使い魔っていうのは、そう言うものだからかな?」
特に虚無の担い手の使い魔はその傾向が強いのではないかと思えたのだが、明人青年の様子から間違いでは無いと確信出来た。使い魔召喚を行う時には、呼ぶ方と呼ばれる方の望みが噛み合う必要があるんじゃないかと、何となくだが感じていたのだが、その証明が目の前に居る訳だ。
「俺は、強くなりたかった。幾ら竹刀を振っても、自分が強くなったって実感できなかったからな」
「剣道の大会で良い所まで行ったんだろう?」
「それじゃあ、駄目だったんだ。さっきの決闘で分かったよ。俺は強い奴と本気で戦いたかったんだ」
「ぷっ!」
ロドルフが思わず失笑をこぼしてしまった。私は何とか我慢したが、少しは顔に出たかも知れない。明人青年は少し顔を赤くして言い訳をしだした。
「いや、その自分の限界を知りたいっていう意味だぞ?」
「それも十分に恥かしいと思うけど」
ロドルフが堪らず突っ込みを入れたが、私も同意見だった。
「ルイズもそんな事を言っていたな。あれはどういう意味なんだろ?」
「その話なら、ミス・ヴァリエールから少しだけ聞きだせましたよ」
「そうなのか? それでルイズは何て言ってたんだ?」
「何でも、自由に恋をする為らしいです」
「? あの娘は特に家を継ぐ訳でも無いはずだが?」
ラ・ヴァリエールはエルネストが継ぐ事は確実だし、公爵にはもう孫が居る訳だしな。そう言えば、ノーラからはルイズの婚約者探しと言う話題さえ聞いた事が無かったな? 公爵家の娘となれば、相手を選ぶのが普通なのだろうが、いまいち繋がりが見えてこないな。
「ミス・ヴァリエールが言うには、”お母様に勝たない限りは私に未来は無いわ!”だそうですよ?」
「お母様ね」
「ルイズの母親って言うんなら、ラスティンさんの義母って事になるんだろ、どんな人なんだ?」
「一言で言うのは難しいな、私も以前決闘をした事があるけど、手も足も出なかったな。ちなみに手加減されてだよ」
「ここでは決闘が良く行われるのか?」
「まあ、当時の私も若かったからね、無茶をする事もあるさ。確か13歳だったかな、大怪我はしなかったから問題は無かったけどね」
「魔法を使ってだろ、それって虐待じゃないのか?」
「うん? 残念ながらこの国には人権という概念が乏しくてね」
「貴方は国王なんだろう、何とかしようと思わないのか?」
「そうだね、色々考えさせられているよ。ただ、まだその時期では無いと思っているんだ」
「よく分からないんだが?」
「まあ、この国の現状を見れば分かってくるよ。それより今はルイズの母親の事だろう?」
「そうだったな、要はルイズが母親に決闘で勝てば良いんだろう?」
明人青年は気軽に言ってくれたが、あれに勝つのは難しいと思うぞ? いや、あの人もいい歳だし、ルイズと明人青年が組めば可能性があるか?
「あの人は手強いよ、ルイズにはまだあの人と対抗するのは難しいだろうね。君1人では手も足も出ないだろうね、例えデルフを持っていたとしてもね」
「そんなになのか!」
「ああ、付け込む隙があるとすれば、あの人にとっては刀を持っているとは言え君なんかは路傍の石に過ぎないと言う所かな?」
「傲慢な人物なのか?」
「さあ、身分的にも実力的にもピカイチだからな」
「なんだ、国王でも頭が上がらない人がいるんだな?」
「はははっ、私は国王とは言っても、お飾りだからね。他にも頭の上がらない人は多いね」
「ここって封建制度の時代っぽいよな、貴族とか王様とか居るんだから」
「封建制度から中央集権君主制への移行時期かな、社会制度的に言えばだけど」
「国王がお飾りで問題無いのか?」
「部下や、ロドルフみたいな同志が優秀だからな、私が居なくても殆どの事は回っていくよ。王様なんて、サインをするのと、最終的な責任を押し付けられる為に居るような物さ」
私が必要なのは、転生者達を支え、動き易い様に環境を整える場面位かな? これだけは多分私にしか出来ない事だと思う。
「なんだ、王様って言っても大した事無いんだな」
「そうさ、王様になりたいなんて人間が居れば、変わってあげたい位だ」
そう半ば本気で言ったんだが、ロドルフが何故かニヤニヤしているのが目に入った。これは有る事無い事吹き込まれそうだな。
「まあ、なんと言うか、私に関しては根拠の無い噂が耳に入るかも知れないけど、信じない方が良いよ?」
「何言ってるんですか、ラスティンさんの武勇伝は国中で話題になっているじゃないですか!」
「ロドルフ、あんまりからかわないでくれ。私が英雄やら勇者やらに見える人間の方がおかしいんだよ」
「確かにラスティンさんは、そうは見えないな。育ちが良さそうという感じを受けるけど」
「明人君は人を見る目があるね」
そう言ってみたが、ロドルフの方は不満そうに口をむにゅむにゅさせている。明人青年も私と言う人間と話しているんだから、妙な噂を頭から信じる事は無いだろう。
「まあ、この話はここまでだ。本気のラ・ヴァリエール公爵夫人に勝てたら、是非知らせてくれ」
「頑張ってみるよ、何かもう少しアドバイスは無いのかな、先輩として」
「先輩ね、まあ良いが、そうだね、うーん?」
あれをまともに相手するのは難しいだろうな、今の私なら搦め手で行くだろうが、それであの人がすんなり納得するとは思えない。私もエルネストも何とかあの人に認められた訳だが、それは何もあの人に決闘で勝って認められた訳じゃない。
あの人がルイズにそこまで入れ込んでしまったのは、やはりルイズの”魔法”が特別だという事が原因なんだろうな。ルイズが成長してあの人を自力で打ち負かせれば良いんだが、経験不足は時間でしか補えないからな。魔力でも体術でも隙が無さそうだからな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます