第158話 ラスティン30歳(空想の中の日本)



「うん、正面からぶち当たってみるんだな」


「はぁ?」


「守りに回ったら負けだと思うから、攻めて攻めて攻めまくるんだな」


「それがアドバイスか?」


「ああ、ただ今の君達じゃ相手にならないだろうね」


「今の?」


「そうだろ、ルイズの母親にはルイズの手の内が丸見えなんだぞ? 君が決闘に参加しても別々に当たっていたんじゃ、望み薄だろうな」


「ルイズの母親って言うのは、そんなに凄いのか?」


「ああ、この国でも有数の実力者だろうね。現役、ああ、昔は近衛隊みたいな所に所属していたそうだけど、現役を引退しても腕は鈍っていないし、経験も積んでる様だからね」


「そんな女性と決闘するのか、俺は?」


「何言ってるんだい、君は強い奴と戦いたいんだろう?」


「うっ!」


 ロドルフの突っ込みは的を射ていた様で、明人青年も微妙な表情になってしまった。


「まあ、いきなり決闘を挑めとは言わないけどね、私の方で練習相手は手配するよ。君は自分の力を生かすことを、ルイズとのコンビネーションをとれる様に考えてくれ」


「そうか、ああ、やってみるよ! でも、なんで貴方はそんなに俺の力になってくれるんだ?」


「前世の、日本の人間がこの世界に来たのに無視しろと言う方が難しいだろうね、それに君には手を貸して欲しい事もあるからね」


「嫌な予感がするぞ?」


「まあ、君が嫌がる事をさせる積りは無いが、働かなければ生きて行けないのは、何処の世界でも同じだと思わないか?」


「働く国王様が言うと説得力があるな?」


 そう軽く皮肉を言うと、明人青年は部屋を出て行ってしまった。気になって行き先を見ていると、デルフを担いで中庭の方へ向かった様だ。早速自分の力を確かめる積りの様だ。どうやら勤勉な性格の様だな、明人青年は。


===


「あれで現実逃避になるんですかね?」


「ああ、その可能性もあったな、ロドルフ。まだ何か用か?」


「はい、少し気になった事があって、ラスティンさんの意見を聞きたいと思ったんです」


「気になった?」


「ええ、平賀明人君と日本の事を話していたんですけどね」


「ほう、何か共通点でもあったかい?」


「ええ、明人君の大学、○×大でしたけど、そこの教授がどうも私の大学の頃の恩師と同一人物らしいんです」


「それは、面白い偶然だな」


「ええ、でも、あの先生、確かもう教職を退いたって聞いた覚えがあるんですよ」


「何か事情があったんじゃないのかな?」


「そうですよね、明人君が西暦201X年から来て、私が学生だったのは200X年だったから、もう亡くなっているんじゃないかと思ったんですけど、元気で良かった」


「まあ、後進の指導の為に老人が再登場するなんて話は、魔法兵団でもある話だろ?」


「そうですね、はい、変な話をして申し訳ありませんでした!」


 そう言ってロドルフも明人青年の様子を見に行った様だ。しかし、気になる話だな・・・。ロドルフにはああ言ったが、多分老齢を理由に引退した老教師が10年近く経っても教鞭を握っていると言うのは少し信じられない。


 もしかすると、そう、もしかすると、ここが本の中の世界にしろ、その平行世界にしろ、そこに出てくる日本が私達の生きていた日本と同じと言うのは普通なんだろうか? 明人青年が来た”日本”も本の中の日本だと考えることも可能かも知れないが、これは考えても埒が明かないんだろうな、気分転換にちょっと外の空気を吸うとしようか?


 ああ、ミコト君の目の事がきになるな、エルネストを呼びつけてやろうか? 私の使い魔に伝言を頼むには簡単なんだからな。


===


 中庭の方は明人青年が居て多分騒がしいだろうから、私は裏庭の方にやって来た。こちらは私が学生の頃もあまり来なかった所だ。使い魔達が普通に生活しているんだが、私の使い魔は世話の必要も無かったしな。


『ラスティン、呼びましたか?』


『いいや、ちょっとキュベレーと始めて会った頃を思い出していたんだ』


『そうですか、あの頃は私も自我に目覚めたばかりで、おかしな事を沢山しました』


 今は常識を身に付けたと言いたいんだろうが、私から見てもまだまだ非常識な所が多いんだがな。知識欲はあるし、かなり機転も利く様にはなったと思うんだが、偶に妙な知識を仕入れて来るんだよな?


『なんですか?』


『いや、ノトスの方は大丈夫かい?』


『はい、きちんと精霊として、使い魔として教育しています』


『キュベレーが、テティスやニルヴァーナや兄弟に教わった様にだな』


『はい、今度は私が教える番です、ちょっと風とは相性が良くないですけどね』


『そうかもな、そうだ、ノトスにやってみて欲しい事があるんだが? ロドルフの方には話を通しておくから、後でワーンベルに向かってくれるか?』


『はい』


『ああ、その前にエルネストの所へ寄ってくれ、”重大な事件が発生した”と伝えて欲しいんだ』


『?』


『こう言わないと、テティスのマスターは動かないだろうからね』


『そうですね、先にテティスに伝言して来ますね』


 エルネストには不良メイジの件の話を相談したいし、ちょっと”風石”を始めとする精霊石の生成に関して実験をする事をここに来る前に列車の中で思いついたんだが、ノトスの成長具合を聞いて実行する気になった。まあ、色々手配が必要だろうが、別に研究してくれそうな人材には事欠かないしな。


 そんな事を考えていると、裏庭に到着したのだがそこには先客が居た。何やら私の登場に驚いている様子だったが、そうでなければ見落としたかも知れない。(まあ、でっかい竜は見落としようがないだろうが)

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