第151話 ラスティン29歳(戦争に向けて)



 さて、来るべきゲルマニアとの戦争の為に我が国の中でも色々と準備が進んでいる。実際の所、その時まで大規模な行動は起こさない予定だが物資や人員の移動を効率良く行う為に鉄道の増設や訓練は地味だが順調に進んでいると言うべきかも知れないな。


 ゲルマニアが編成しつつある大規模な空軍に対抗する為の準備は少しずつ進んでいる。本来なら大規模にと言いたい所なんだが、どうも諜報戦に突入しているからなんだなこれが。我が国にもゲルマニアにも内通している人間が居るから仕方が無いと言えば仕方が無いのだろう。まあ外交なんてものは騙し合いの側面もあるから仕方が無いが不便な事だな。(と、報告に来たアンセルムの奴が愚痴っていたが、奴もあの人物に愚痴られているらしい)



・空軍


 空軍は、ワーンベルを中心にコルベール先生とミネットが中心に行った新発明の結果を兵器として運用する方法を立案するという方針になっているのだが、少々手間取っているらしい。竜騎士達の訓練方法を真似ていたらしいが、ほとんど暗中模索の状態で戦法などを考案しているらしい。

 無線機があればもっと上手く運用出来そうなんだが、手持ちでは足りないから、最悪はガリアから”声を伝える者”を借り受けなくてはならないだろうな。(いつも愚痴を聞かされるんだから、それ位は・・・、無理かな?)



・陸軍


 陸軍の方は、ごく普通の訓練を行っているのだが、傭兵団を幾つか組み込む事に成功したので錬度もかなり上がっているらしい。しかし、傭兵団を受け入れるなんて某元帥も丸くなった物だな。

 ゲルマニア戦では戦略的にはあまり実戦を行わせる積りは無いのだが、これからも軍事力はそれなりに必要なのだ。諸侯軍を集める事も考えたが、運用そして維持が大変だから国王軍を再編成して新兵を募集する形に落ち着いた。

 どうでも良いがデニスがやたらと張り切っているという噂を聞いた。特に新兵をいじめじゃなくて鍛えるのに熱心だとか・・・。(夫婦仲が上手く行っているのかいないのか、私には分からないがノーラはその話をした時に楽しそうだったから問題は無いだろう)



・魔法兵団


 レーネンベルク魔法兵団の方も再度戦闘訓練を開始した。警備隊に人員を回せるだけの余裕が出来たのがこれを可能にした訳だな。主に陸軍の補助的に使う予定なのだが、一部空軍にも人を送る形になった。空軍だけでは無く魔法衛士隊にもかなりの人数を送り込む形になった。警備隊の隊員はグリフォン、ヒポグリフ、マンティコアの3種の幻獣以外の使い魔を持った者が多く衛士隊でも空軍でも学ぶ事が多かった様だ。



・諸外国


 諸外国の状況は、着々と、と言った感じだろうか?


 ガリアに関しては、随分前から準備は整えているし切欠さえあればガリアだけでも戦いを始めそうな勢いだ。先のゲルマニアとの紛争では犠牲者が多かったから、我が国とは戦争への意気込みが違うと感じるな。それだけ、ジョゼフ王が国を上手く動かしているのだろう、これに関しては宰相の働きも無視は出来ないんだろうな。


 ロマリア王国に関しては、基本的にゲルマニア包囲網には直接は参加しないという方針を変えない様だが、ゲルマニアへの物資の供給も行わない事で同意が取れているからゲルマニアにとっては地味に効くボディーブローの様なものだろうな。誰かがゲルマニアに物資を送ろうとしても表向きには送る経路が途切れた形になるからな。(我が国でも密輸等は増えているが、それは厳しく取り締まっている。上手く行けは、ゲルマニアと繋がりのある貴族なんかも炙り出せるからな)


 アルビオンは全面的な協力を約束してくれている。まあ、そうしない訳には行かない事情が事情なんだが。(ジェームズ1世はこれからアルビオンをどうする積りなのだろうか、いや、これは余計な心配だな) アルビオン王立空軍の派遣まで約束してくれたが指揮権までは貸してくれなかったからどう使うかが難しい所だ。

 ゲルマニアとアルビオンの空軍同士を正面からぶつけたら被害だけが大きくなりそうだからな。こんなつまらない戦争で被害を大きくしても無意味だし、おとり役が良いんだが露骨にやるとアルビオン側も気を悪くしそうだしな。(この辺りは気を付かなくてはいけないだろう?)


 その他の小国は、その時になって見ないと動きが掴めない様だ。ゲルマニアに協力的な国も少ないが、包囲網に積極的に参加する国も殆ど無い。日和見な事だが、小国の生き残り方としては適切なのだろう。下手に味方になっていたのが突然裏切られるよりはマシだと思う事にしている。(国土だけ見れば、トリステインも十分に小国だが、現在のトリステイン王国を小国と呼べる国は無いだろうな)


 後はどのタイミングで、どちらの陣営が仕掛けるかの問題という気がするが、出来ればゲルマニアに攻め込めさせたいというのが我が国の方針だった。勿論そのまま侵略させる積りは無いが、その後の政治的な動きを予想すれば、正義はこちらにあるとしたいしな。



・ゲルマニア


 ん? 戦争が始まってもいないのに、取らぬ狸の皮算用じゃないかって? 今の国際情勢やゲルマニアの国内の状況を見れば至極自然な考えだぞ。陸軍の総数でガリアと同等、空軍のフネの数でアルビオンと同等なんて状態を作り出すにはゲルマニア国内でかなりの無理が出ている。


 経済的な混乱は勿論、政治的にも混乱の兆しが見えるし、平民メイジだけでは無く普通の平民もゲルマニア周辺国への難民として逃げ出している程だ。この状態でもまだ、国が成り立っていて、軍備も整えられるというのはゲルマニア首脳部の間違った有能さをしめしているのだろうな。


 マテウス・フォン・クルークは自分の行動が異常なのを気付いているのだろうか?

 そして、ナポレオン1世は自分が”オリヴァー・クロムウェル”の二の舞を踏もうとしている事を理解しているだろうか?


 全く本当に下らない戦争だ! あの親子を暗殺出来れば話は早いんだがな。ガリアは既に試したそうだが、失敗に終わったらしい。優秀な護衛がいるだろうし、普通にナポレオン1世を暗殺するのは多分この世界では難しいだろうな。(転生者の誰かが直接手を下せば可能だろうが、そんな人材はいないしな)


===


 ゲルマニア国境付近がキナ臭さを増している時期だというのに、トリステイン国内でも少々問題が発生しつつある。一応予想はしていたんだが、国や領主に管理されないメイジが少しずつではあるが増えていて、その”不良メイジ”達が色々問題を起こしているのだ。


 我々には、ほぼ100%の確率でその人が”隠れたメイジ”かどうかを見分ける手段があるのだが、それが無くてもほぼ20%弱の確率で未だに”隠れたメイジ”が普通の平民として暮らしているのだ。そんな中で少し前まで自分と同じ”非メイジ”だった隣人が、急にメイジになったとしようか?


”自分もメイジになれるかも!”


と思っても責められないが、現実は性質が悪く5人に1人はメイジになれてしまうのだ。


===


 魔法兵団に入れなかった様な性質の悪い平民メイジの下でこっそり魔法を習う事が秘密裏に行われていたらしく、あらゆる意味で質の悪いメイジ(不良メイジ)が少なからず生まれてしまったのだ。こっそり裏でメイジになろうという人間が善良である筈も無く、それを指導するメイジも性格に難ありだから、生まれるメイジがまともな筈も無い。


 幸い腕の方もお粗末で魔法学園の卒業生であれば十分圧倒出来る程度だが、非メイジの人々から見れば十分に脅威なのだ。見つかれば簡単に排除されるのだがこの問題は根本解決が難しいのが頭の痛い所だ。新たに生まれた不良メイジが更に不良メイジを生み出すという悪循環が予想出来てしまう。(なるべく嫌な想像はしないようにしているのだが、これは対策を考えない訳にはいかない問題になるだろうな)


 今は、魔法兵団や領主直属(正確には領主代行指揮下)の平民メイジの評判を上げる役に立っているが、それも何時まで続くのやら。選択肢が無かったとは言え、本当に難しい問題である。とりあえず不良メイジには厳しい刑罰を与える様にしているが、それ自体が恨みを買う事になるのだから救われないよな?


 機会があれば、エルネストに相談して見よう。メイジを非メイジにするなんて方法があるとは思えないが・・・、いや奴の事だから何かアイデア位は持っているかも知れないぞ。何せ私の義弟はマッドだからな!


===


 もうすぐ、例の実験結果が出ると言うのに色々問題が山積みで(私に周りが)忙しい。私自身はこの国の将来をどうすべきかも考えなくてはならず、落ち着かない毎日を過ごしている。

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