第150話 ラスティン29歳(文化振興)
「それで、そのミス・ボヌーという女性は、今はどうなさっているんですか?」
「はい、去年は、ミスタ・レーネンベルクや、ミスタ・アンジェと一緒にいらっしゃる事が多かったですが、今年に入ってからは姪御さん達と一緒にいるのをお見かけしますね」
「”タバサ”がね?」
「???」
転生者にしかこの気持ちは分からないんだろうな? ”タバサ”と仲が良いイザベラ姫なんて、2次創作ネタでしか有り得ないだろうしな。
「そのタバサですけど、何か変わった所はありませんか?」
「そうですね、あの、言い難いですがミス・マーニュは、もしかしたらミス・ヴァリエールに敵対とは言いませんが・・・」
「???、競争意識ですか?」
「そう、それです。そんな意識を持っていらっしゃるんじゃないでしょうか?」
コラリーさんが言い難いと言ったのは、学生時代の私とノーラの関係を知っていたからか? ああ、普通に考えれば今は王妃となったノーラと、昔、親しかった男性と言うのは歓迎出来ないだろうからな。
しかし、コラリーさんが言いたいのは、それだけでは無いかも知れないな、ジョゼットがどうして今年魔法学院に入りたかったかという話も納得が行く気もする。似た境遇の異性と言うのは引き合うものがあるらしいが、それが同性だった場合、ライバル心が芽生えるというのも私自身経験があるからな。私の場合は相手が悪かったのか、今では親友などになっているがね。
「僕にとってのミスタ・オーネシアが、タバサにとってのミス・ヴァリエールになっただけですよ、心配は要りません、きっとね」
「そうですか? エルネスト様でしたか、次のラ・ヴァリエール公爵になられると噂を聞きましたが?」
「そうらしいですね、今でも時々会いますが、雲上の人になってしまった感じですよ」
「ふふふっ、そうだ、面白い話をお聞かせしましょうか?」
「タバサについてですか?」
「そうです、ミス・マーニュはですね、時々他の生徒さんから告白されているんですよ?」
「へぇ、随分ともてるんですね、あの娘も」
ノリスが聞いたらどう思うだろうか? 何と言うか、あまり男子生徒にもてそうに思えないんだけどな。自分より強い女性に憧れる生徒が多いんだろうか?
「はい、特に上級生の女生徒の皆さんに大人気で!」
「はぁ?」
何やら雲行きが妖しくないか?
「何でも、弟にしたいと言う方々が多いそうで」
「妹では無いのですか?」
「はい、勿論です!」
力強く断言されたぞ? テッサの出方の方が要注意だった様だ、ノリスの作戦勝ちなのか? コラリーさんによると、潔癖症の女生徒には”男”を感じさせる男子生徒より、男を感じさせない”ボクっ娘”の方が人気があるらしい。そう言う女性が何かの拍子であっちに転んだり、腐ってしまうのだろうか?
「あの何時も、タバサと一緒に居る女生徒が居ませんか?」
「えっ、えーっと確かにいらっしいますね、確か・・・あら?」
「テッサ・ド・ガイヤールではないですか?」
「そうです、ミス・ガイヤール! 確かその方でした」
テッサも随分と徹底しているみたいだな、父には”ジョゼットを陰から支える”と言ったそうだが、プロであるメイドのそのまた頭であるコラリーさんにまで名前を覚えられないなんてな。基本的に学院の使用人に名前を覚えられないようにするのは難しいのだが、全てを自分でこなしてしまえば、覚えられ難くはなるだろう。(もしかして、ジョゼットの身の回りの世話なんかもしているんだろうか? 毛染めとかは少なくとも手伝っているんだろうな)
しかし、テッサのジョゼットへの傾倒ぶりは以前から引くものがあったが、ここに来て、更に磨きがかかったらしい。ジョゼットの為ならば何でもするという気がするぞ? どうしてここまでと考えないでもないが、両親が私の知らない所で動いていたのは確実なのだろうな。テッサの希望を後押しした形だから文句を言う積りはないがねぇ?
それからしばらく、コラリーさんに今の学院に関して色々聞くことが出来たのは意外に収穫が多かった。やはり国王としてではこういった話は聞けないしな。
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学院からとんぼ返りした翌日から、”文化振興”に関連した政策を提言し始めた。美術,文芸,舞台芸術,音楽,建築などの多岐に渡る分野の専門家達を招聘して(時にはこちらから出向いてだな、芸術家と言うのも、変人が多いのが良く分かるな)連日意見を聞いて行った。
彼らは概ね、トリスタニア近郊かパトロンの貴族の領地に居たんだが、多くが支援者を失ってしまい。かなり困った状態なのが確認出来た。以前は教会から宗教画等の製作を請け負っていたが、それが無くなりやっと貴族と言う次の支援者を見つけたのに、その貴族自身が借金苦に陥った事で途方に暮れていたらしい。
芸術家と言う人種に偏見は持っていないと思うが、彼らはあまり自分の作品を商品とする事を好まないらしく、ロワイエさんとヨルゴさんの様な関係を構築するのは難しいらしい。人には見て欲しいが売り物にはしたくないという複雑な心境だそうだ。レーネンベルクで一時的に保護する形にしたがそれが正解だとは思え無い。(何せレーネンベルク家は芸術音痴の巣窟だからな、まあ質実剛健という長所の裏返しなんだから仕方が無いだろうな)
とりあえず、レーネンベルクに多くの芸術家が集まり、それを目当てに鉄道を使って全国から人が集まるという流れは出来たから、リッテンやヴァレリアンの不満は解消されるだろう。
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他の転生者達は概ね問題は無いだろう。リッテンとバベットとロドルフは説明は不要だろうな。
・アミラとフリード
この2人は最も早く結果を出している。翌年は無理だったがレーネンベルクに入ってから2年で劇的に農作物の収穫量が増え始めて今では2倍になっている兵団の活動で単位面積当たりの収穫量は他の領地の追従を許さないレーネンベルクだったんだから2倍と言う数字は本当に有り得ないと言っても良いかも知れないな。
最近は熱心に領外への農業指導に出かけている2人らしいが、兵団の施設隊の組んで活動することでより的確な活動が出来ると喜んでいた。植物の促成栽培などを行えば品種改良が年単位ではなく月単位で行えるとなれば驚くだろうな。他にも肥料なんかは用意して持っていく必要も殆ど無いしな。
きっと10年もすれば、この国の食料事情は今とは全く別になっているんだろう。国土の小さい我が国にとっては、輸入だけに頼っているのはあまり喜ばしい事では無いからな。
・サンディ
彼に関しては生徒の様な年齢で教師に対して意見をする事に当初は結構違和感があったらしい。今は亡き初代理事長が居なければとても困った状態になっただろう事は疑いないな。ローレンツさんが後の事を考えて公立学校の教師陣とサンディの橋渡しをしてくれていたお陰で、サンディと教師陣の間はほぼ信頼関係が出来上がっていると思える。(教育学に関しては、私やローレンツさんの知識がどれだけ素人だったかと思える程だな。まあ理想の学級などはなかなか理論やドラマ通りに出来るものじゃないがな)
問題は新しく理事長に就任した某男性の方にあると言っても良いだろうな。アンセルム自身もサンディも別に悪い人間とは思わないが、どうも相性としては最悪らしい。どちらかと言うと世間を斜めから見ている感じのアンセルムと、何事にも体当たり!的なサンディだから仕方が無いんだろうな。
現状では、アンセルムは対ゲルマニア戦略と戦術を練っている最中なので表面化はしていないが、問題が生じる可能性がなきにしもあらずだろうか? (アンセルムが排除されるような状態は我が国としても大きな損失だからな)
・ベレニス
ガリアに送り込んだベレニスだったが、伸び悩んでいた養殖方面で早速成果を出してくれたらしい。養殖で使う生簀等には苦労するのではないかと思っていたが、あっさりと解決してしまったらしい。海中には地上以上に結構物騒な海生生物が居るはずなんだが、何らかのマジック・アイテムが劇的に効果をあらわしたそうだ。(この方面ではガリアが一歩も二歩も先を行っているのだ)
話は少し外れるが、この世界で海運業が栄えないのはこの海魔の類の為だ。”クラーケン”,”レヴィアタン”なんて前世では架空の生き物だった物が実在しているらしい。特にシーサーペントの性質が悪くある程度以上の船(普通の海上を航行する方だぞ?)には積極的に襲い掛かってくるそうだ。
海魔除けのマジックアイテムがあれば海運業も盛り返すかも知れないな。漁業でも遠洋航海が可能になるかも知れない。今度のガリアの愚痴王との交信で、交渉してみようと思う。陸上で使えれば亜人おっといけないな、鬼の類を避けるのに使えるかも知れない。
・クロエ
彼女は平民メイジなんだが、ロドルフとは違いレーネンベルク魔法兵団や魔法学園そしてトリステイン魔法学院にも興味を示さずにエルネストの下で化学薬品の再現に挑んだり、カロリーヌの所で魔法薬の研究をしたり、母の所で魔法薬の知識を習ったりしている。
私の従妹モンモランシーとも仲が良いらしいのだが、誘われても魔法学院に行かなかったのは、如何にも転生者らしい行動だと思うぞ?
・ルネ
彼に関しては、結構無茶をしている気がする。街を1つデザインしてみろと言われて張り切るのは分かるんだが、不眠不休で建物の設計図や都市計画図を描き続けるのはどうかと思うぞ? お陰でマネジャーと化したカロンが苦労する訳だ。まあ、2人が噛み合っているからこそ、新トリスタニアが姿を現しつつある訳だがな。
新トリスタニアは完成までにまだ時間がかかると報告を受けている。まあ、事情が事情だから仕方が無いだろうな。トリスタニアの近くにもう1つ街を作れるほどの土地があるのには理由があるのだ。この国全体に言える事だが、海抜が低いというのが問題なのだ。
一応干拓は行われて来たのだが、規模は小さいものばかりだったし、それは国の中枢でも言える事だった。トリスタニアの南西には広大なとは言えないがかなりの広さの湿地があり水利の良さから所々で農場が細々と営まれていた。水稲でもあれば良かったんだろうがこれといった作物が無い為、王都の近くという条件の良さが全く生かされていなかったのだ。
そこにカロンが目を付けて、ルネの知識、魔法兵団施設隊の魔力、そしてレーネンベルクからの土石を使って、地盤の改良に乗り出した訳だ。当初は鉄道が開通していなかったから魔法で湿地に基礎を作っていたんだがどうにも効率が悪い上に、長期間の安定性という面でも問題があったんだが、鉄道が通ってからは使い辛い土や石を運んで来てどんどん地盤を固めていったのだ。
さすがに一気大きな平坦な土地が出来ると言う訳には行かないが、それでも数百年単位で安定して使える土地が毎日の様に広がって行くし、そこにはあっという間に近代的な(私の目から見てだぞ?)建物が次々に建築されていくのだ。ワーンベルを知っている人間なら兎も角、普通の人間には中々感慨深いものがある様だ。
新トリスタニアを端的に説明するなら、東西南北に鉄道が走り中央に大きなトリスタニア駅(ユトレヒト中央駅を参考にしたらしいが、全然知らないのだ)がある。それに加え、放射状に(3時、6時、9時、12時以外の方向だが)動脈とも呼ぶべき幅100メイルの道路が整備され、同心円状に50メイル?10メイルの道路が整備されて行く形だな。実に経済的な効率を優先した作りになっている訳だな。(将来自動車が走り回る事になるのが前提なんだよな)
純粋に戦術的にみれば攻め易そうな町になってしまうが、私(すまない偉そうな事を言って、私達はが正しい)はこの街をトリステインの経済的な中心にする積りなので、そこは目を瞑る事にした。ただ、新トリスタニアを抑えただけではこの国の経済を完全に停止させるのは難しいだろう。
一方旧トリスタニアは政治的な中枢にする予定だ、本気で国会議事堂(なんて呼ばれるか分からないし、本当に必要になるかさえも不確かだが)の様な会議場も建設を始めた。今まで不確かだった国の各部署を再編成して専用の庁舎を割り当てる事が可能になったのは、住民が少しずつとは言え新トリスタニアに移動し始めたのが原因だろう。(土地と資材さえあれば、建物を作るのは時間がかからないからな、実用本位であればだが)
まあ、ルネとカロンにはもう暫く頑張ってもらう事になるだろうが、期待に答えてくれると信じているし、それは現状を見れば過大な期待だとは思わない。
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