第123話 ラスティン24歳(蓮根)


 そして1日目だが、試作銃弾の量産については、弾丸と薬莢+雷管の生産と、それを備蓄してあった火薬を込めた上で銃弾として組み上げるの計3人のメイジが当たる事になった。てっきり全員でそれぞれの工程を順番に行うんだと思っていたが、1つの部品は出来る限り1人の手で作った方が狂いが少ないという事から、こう言うシフトになった。

 出来た試作銃弾を残りの2人が片っ端から試射していった。試射が危険だという事は分かっていたから銃弾を固定する台座を作り、そこに銃弾を固定して、人間大のゴーレムに金槌を持たせて撃針代わりに雷管を叩かせた。最初の頃は銃弾が文字通り爆発したり、逆に不発を連発した訳だが夕方頃には何とか9割強の銃弾が無事に発射出来る程になった。(火薬の量や、薬莢部の厚みの調整がなされた様だ)


 私が何をやっていたかと言えば、ぼーっと見ていた訳では無く、小型拳銃の試作の方に入っていた。まあ、設計図を一番長く見ているのだからこの役目が私自身に来るのは分かっていたから、頭の中で何度も想像していたので形を作るのは簡単だった。セレナが考案したのは”元折単身”式の拳銃だったのだが、素材は勿論チタン製で、強度を必要としない部分はアルミを使用した。

 そこまでは良かったのだが、試しに銃身を折って銃弾を込めようとしたのだが、口が小さすぎて銃弾が入らなかった。この程度は予想済みだったから、成形(フォーム)で銃口を大きめにしたのだが、大きくなりすぎたりして、何度か変形させているうちに、銃身が微妙に曲がってしまった。


「これはダメだな」


「どうしました?、ラスティン様?」


「見てくださいよ、この有様です」


「うーん、結構曲がってますね?」


 シルビーさんの主観では結構らしい、微妙にショックだな。


「くすっ」


「シルビーさん?」


「ごめんなさ?い、ラスティン様でも、こんな初歩的な失敗をするんだな?って思うと可笑しくって?」


「初歩的ですか?」


「はい、こう言う筒状の物を作る時は?、芯を用意すると良いんですよ?。銃弾の太さに合わせた真っ直ぐな棒を作ってですね?」


「棒・・・?」


「そうです、その棒を包み込む感じで成形(フォーム)するんですよ?」


「でもそれだと、棒が残りますよね?」


「そうですね?。今度は棒の方を成形(フォーム)で細くして抜き取るんですよ?」


「ああ、成程!」


 こう言うのが、現場の知恵なんだろうな。指示だけ出している人間には、中々分からない物だ。シルビーさんの色々な助言で何とかその日のうちに試射出来そうな小型拳銃が出来てしまったのは驚きだった。理論だけのメイジと日々技術を磨いているメイジの差を見せ付けられたな。まあ、シルビーさんも短期間で何とか形にしてしまった私の驚いた様だからお互い様なんだがな。(前世でCADなんかを使って3Dのモデリングをして遊んだのと、機銃の構造を理解しているのが、こんな所で役に立った訳だ。CGとかがワイヤーフレームを基礎にしている理由がよく分かった気がするぞ)


===


 そして2日目の朝から、早速試射を開始した。例によって、台座に固定した拳銃の引き金をゴーレムに引かせたのだが、これが中々上手く行かなかった。どうやら撃鉄の力が弱すぎる様だが、引き金を重くするのは避けたかった。結局雷管を小さくする事で対応したが、昨日の晩に作った銃弾が無駄になってしまった。(まあ、銃弾の作り直しをしている間に、引き金を重くした拳銃も作る事にしよう。発案者のセレナにプレゼントすれば機嫌が良くなるかも知れないしな)


 結局、銃弾の再作成で前倒し出来ていた工程が、予定通りになってしまった訳だが、4日目には何とか満足の行く試射結果が得られた。非力な女性のシルビーさんでも近い目標なら当てられる事が確認出来た。

 だが、問題が残らなかった訳では無い。機銃を知っている人間としては速射性は不満が残る、銃身を折って薬莢を落とし、新しい銃弾を詰めるとなると手間取るのだ。

 銃弾の精度の問題か不発となる銃弾がかなり出てしまうのも問題だな。命中度の低さもまあ、問題かも知れないが、そこは慣れで何とでもなる気がする。こうなると、回転式拳銃(リボルバー)が理想だな、弾倉が面倒だがやってみるか。指摘されて気付いたのだが、メイジが使う銃器ならば予め固定化(フィックス)をかけておけば、耐久性は大幅に増すのだから、その辺りは省略出来るからな。(ジョゼットが魔法を使えないままだったとしてもその隣には絶対テッサが居るはずだから問題ないだろう)


 チタン製のレンコンもどきを作るまでは簡単だったのだが、これってどうやって回すんだ? 6人のメイジが顔を突き合わせて、どうやって弾倉を回すか議論する事になった。(こんな事なら、ミネット辺りに話を聞いておくんだったな)


「ああ、こう言う時にあれが役に立つな」


「どうしたんですか?」


「いや、こっちの話だよ。弾倉の動作はちょっと考えがあるから明日まで待ってくれ」


「そうですか、それなら動かさないままでの試射を進めておきます」


 メイジの1人とこんな会話をした後、夜になると、王城に残っているノーラに”声を伝える者”で連絡を取り、翌朝ミネットと連絡を取る事に成功した。早々にダブルアクションを再現するのは諦めたが、音声だけで構造を伝えるのは難しいのが良く分かった。(おまけで、ミネットが少年時代?モデルガンを分解しまくっていたのも分かってしまったが、まあ、これはいいだろう)

 多少怪しいがシングルアクションの回転式拳銃(リボルバー)が次の日の昼過ぎには完成した。構造的にどうしても十分な小型化が出来なかった為、リボルバーの方はジョゼットがもう少し成長してから使わせる積りだ。


 結局6日で、何とか使える小型拳銃を作り出すことが出来た。予備を含めて、”元折単身”式の拳銃が3丁と回転式拳銃(リボルバー)が2丁だが当面この技術を広める予定は無いので、十分だろう。銃弾も150弾程用意する事が出来た。後は定期的に銃弾を製造してレーネンベルクの屋敷に届ける手配をして終わりだった。(考えてみると、実に充実した6日間だったな。必要なのは分かっているが、書類整理ばかりだと、やっぱり飽きる物だ)


===


 予定外の拳銃作りで余計な時間を取ってしまったが、本来の予定を進める事が出来る様になった。レーネンベルク山脈の視察なんだが、レーネンベルク領北西側には岩場が多く、ココから石材を採掘出来る事が分かった。地理的にはゲルマニアに近いのが気になるが、ここを起点に鉄道を引く事にしよう。この位置からならば、ワーンベルへもマース領ライデンへも行けるな、この3点を結ぶ形で実験線を作るのが良いかも知れないな。いや、いっそのことマリロットまで延長したいな。

 おや? 本来の目的はこれだったか? 違う! レーネンベルク山脈でマカカ草が育てられるかだったな。(うむ、色々あって、忘れる所だったぞ)


 一度、ワーンベルに戻って、翌日レーネンベルク山脈に登る事にした。折角なので、”アリエの大樹”の所にも顔を出そうと考えていたのだが、そこで予定外の事が起こった。別に危険だったとか言う訳ではないので安心して欲しい。

 キアラに何か言われたらしく、護衛を無くす事が難しかったから、ガスパードとニルスだけを伴って登山を開始した。登山と言っても、大体の位置は分かっているので飛行(フライ)で直接”アリエの大樹”の所へ飛んで、挨拶をして情報を得た後、更に高地を目指す予定だった。


『ラスティン、おかしいわ!』


『ニルヴァーナ、どうしたんだ?』


『一度山麓に戻った方が良いわね』


『? 分かった、そうするよ』


 私は後を付いて来ている2人に身振りで合図をして、来た経路を引き返す事にした。ニルヴァーナの口調は無視するには真剣すぎたからな。


「ラスティン様、どうかしましたか?」


「ニルス、心配は要らないよ。ただ、歩いて登る事に予定変更だ。ガスパードも良いか?」


「ああ」「はい」


 2人の同意をとって本当に登山を開始したんだが、あまり登らないのにニルヴァーナが再度警告を発してきた。


『おかしいわね、こんな所に結界なんて』


『アリエの大樹の結界かな?』


『そうなんだけど、そうじゃない感じかしら。後ろの2人は本気で帰した方が良いかもよ?』


『帰るかな?』


『それは、ラスティンが何とかする問題よ』


 ニルヴァーナの言い分は確かに尤もだな。結界となれば、他からの介入は考え辛いから、何とか説得してみよう。2人が結界内で遭難とかは避けたいしな。

 何とか結界の説明をしたが、納得はしてくれなかったのだが、無茶を承知で結界内に踏み込んだ2人が何故か直ぐに戻って来た事で、妥協してくれた。(真っ直ぐ山道を進んでいた筈なのに何故か元の位置まで戻ってしまったらしい。手を繋いでとか言い出したが、それでは咄嗟の事態に対応できないと反論する事になった訳だ)

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