第117話 ラスティン23歳(諍い)
「ラスティン殿の提案は本当に有り難い、だが、私はカグラを自分の手で守りたいのだ」
うん?何だか信じられない台詞を聞いた気がするぞ? 守るか、王の立場では中々上手く行かない時もあるんだろうか? そう決めたのなら、余計な世話は意味が無いのだろうな、仕方ないか。
「そうですか、それならば、これをジョゼフ殿に預けましょう。コルネリウス、あれを」
この場に残ったコルネリウスが、鞄からとあるものと取り出してジョゼフ王に渡しのは少し大きめな宝石箱の様な物だ。
「これは?」
「どうぞ開けてください」
「ティアラか?」
「どちらかと言えば、額飾り(サークレット)でしょうか?」
それが何を意味しているか、ジョゼフ王には分かったらしい。覚えているのと、クロディーからの情報を基にカグラさんの額のルーンをカバーする様にユニスがデザインし兵団の腕利き錬金メイジが作った、まさにカグラさんの為の額飾りなのだ。
「そうですね、我が国からの”婚約”祝いだと思って下さい。精霊の加護があるので常に身に着けていると良いと言う事で」
「精霊の加護と言うのは嘘なのか?」
「カグラさんには分かってしまいますが、ただのアクセサリーです」
「そうか、ただの”特別な”額飾りか・・・」
「化粧などで誤魔化す事は出来ますが、念には念を入れたほうが良いでしょう。何時か、必要が無くなる時まで」
「そうだな。ありがたく貰っておこう。だが、”使い魔を大切に”と触れをだすのでは、拙いだろうな」
「我が国では、何れ全ての”人間”を平等にという法が出るでしょう」
多分私自身が提案するか、学校の出身者の誰かが思いつく事だろうな。他の国でも同じ様な事を考える人間が居るのだろうが、”人間”の定義が多分違ってくるのだろうな?(意思疎通が出来れば、どんな生き物でも構わないと考えるのは、やはり少数なのだろう)
「ふむ・・・」
「まあ、かなり先のことになると思いますよ」
「”触れ”と言えば、生前に父が妙な物を出したな。双子に関するものだったが」
ジョゼフ王の目が父親そっくりになっているのだが、本人は気付いていないのだろうか?
「ああ、ガリアには双子に対する妙な習慣がありましたね?」
「ふん、まあ良い」
ジョゼットの事を聞いていないとは思えないが、とりあえず干渉する積りは無いようだな。やはり、こう言う腹の探り合いは疲れるな。
「ところで、1つ聞いても良いかな?」
「何でしょうか?」
「その者の事だ。ラスティン殿が単なる荷物持ちとして同席させたとは思えないが、何者だ?」
攻め方を変えて来たようだな、まあ、この件に関しては話の切欠を探していた所だから丁度いいがな。コルネリウスを見ると私の方を見ているようだ。任せると言う事なのだろうな?
「彼をどう見ます?」
「ふむ、トリステインの人間には見えんな。名前からすれば、ゲルマニアの出といった所か?」
「彼の本当の名前は”コルネリウス・フォン・ブラウンシュワイク”と言います」
そう言いながら、ジョゼフ王の様子を覗っていたが、表面上は何の変化も見られなかった。
「ほう、奇遇だな。あの間の抜けたブラウンシュワイク公爵と同じ家名とはな!」
「なに! 父を愚弄するか!」
「コルネリウス!」
ダメだ、私の制止の声が聞こえていない。
「やはりそう言う事か。だがな、宰相程度に公爵家が潰されたのだぞ、これを間抜けと言わずにいられるかな?」
「くっ!」
「ジョゼフ王!」
今度は、ジョゼフ王の方を制止しようとしたが、こちらは聞こえない振りを続けた。
「大方、ガリアにはゲルマニア皇位を継ぐ後ろ盾になって欲しくて来たのだろうな?」
「そんなことは無い!」
「ふん! では、敵討ちの手助けを願い出に来たのかな?」
「そ、敵討ちが悪いか!?」
コルネリウスが一方的に熱くなっているが、ジョゼフ王はわざと挑発しているのが傍からは分かる。ここは成り行きに任せるしかないか?
「ほう、貴様は、敵討ちはするが、皇位を継ぐ意思は無いというのだな?」
「・・・」
「止めておけ、貴様程度では、返り討ちに遭うのが目に見えている。将来を見据えた行動が出来ないのであれば、当然の結果だろうがな?」
「何を!」
「ゲルマニア皇帝と宰相を討ってしまえば、ゲルマニアが混乱に陥るのは目に見えている。ゲルマニアの民が苦しむのが分かっていて、先程の様な事を言っている時点で、貴様の将来は無い!」
「くっ!」
「どうした、言い返せないか?」
くっ! どうしてこんな展開に? 力ずくでコルネリウスを止めておけば良かった! そうしている間に、耐えられなくなったコルネリウスが部屋から飛び出して行ってしまった。
「コルネリウス!」
「放っておけ、衛兵が適当な部屋に連れて行くだろう」
「陛下、何故、あんな事を?」
「何故だろうな、何故かアイツの態度が気に入らなかったからだろうな?」
「一言も話していないのに何が分かるんですか?」
「ああ、アイツは以前の私と同じ目をしていたんだな」
落ち着けラスティン! お前まで熱くなってどうする?
「はぁ?、ふぅ。同じ目と言いますと?」
「そうだな、絶望した負け犬の様な目だな。鏡を見る度に憂鬱になったな、自分の顔が嫌いになると言うのは面白い経験では無かったからな」
「それで、わざと挑発するような事を?」
「何を言っている、お前が私にした事だろう?」
「えっ?」
「覚えていないか?」
言われてみれば、確かにやった気がするな。私に返すなら兎も角、コルネリウスに返すことは無いのに。全く性格が悪いのがガリアの王になった物だ。昔の自分に止めておけと忠告したくなるぞ?
「まあ、今ので懲りてしまえば、その程度の男だったと言う事だろう。もし、もう一度私の前に立つならその時は考えよう。ブラウンシュワイク公爵とは面識が無かった訳でもないからな」
「承知いたしました」
あの様子では、かなり難しいのだろうな? 面識があったならそれなりの対応があると思うんだが。
「話は変わるがな?」
「はい」
ふむ、こう言う話の持って行き方をするのだな。そんな事を冷静に考えていられたのはそこまでだった。
「トリステインからの工業品の輸入を増やしたいと言ったらどうする?」
「その件ですか?」
「まあ、あれが居る以上は、隠しても無駄だろうから言ってしまうが」
あれと言うのは、クロディーの事なんだろうな。いい活躍をしてくれているらしい、カグラさんの友人となれば、気軽に消せないだろうし、狙い通りだな。
「我が国の鉱山が軒並み閉鎖に追いやられているのだ、風石が採掘出来る様になっても元がとれん」
「鉱山が閉鎖ですか?」
「そうだな、特に北部が酷いな、3年ほど前から前兆はあったらしいぞ。王位に就いて最初に悩まされたのがこの件だな」
うん? 3年前と言うのには心当たりがあるぞ、それに風石も絡んでくるとなると・・・、まさか?
「ワーンベル風の錬金を使った工業品の生産を行いたい所なのだが、食料品などの方を優先しているからな」
「た、確かにトリステインとしても、ガリアからの輸入に頼っている部分がありますから、そうしていただいた方がありがたいです」
「だろうな、工業品の件、頼まれてくれるかな?」
「はい、善処させていただきます」
私には、そう答えるしか無かったのだが、後でユニスに怒られそうだ、本当に情けない副王様だな。しかし、大地の大精霊に依頼した風石対策がこんな事態を引き起こすとは思ってもみなかったな。大地の大精霊に”修正”を頼むのは、キュベレーからの感触でも難しいだろうな。錬金隊には無理を承知で働いてもらうしかないか?
そうすると、硬貨がガリアに流れていると言う話も、ゲルマニアの策略とかではなく、本当に貴金属が採掘出来なくなったという訳か。ハルケギニアを救った積りが、実は経済的に破滅させてかけていたとは、全く冗談ではないな。
考えてみれば、各地に散らばる風石をある場所に集めると言う事は、例の”精霊の道”を使ったとすれば、色々影響が出て当然なのだ。キュベレーによれば、あれは地中(接していれば地上も可)の等価な体積をもつ物を交換する事が前提らいいからな。
A地点からC地点まで風石を移動させる場合を考えれば、
A⇔C
ではなく、
A⇔B⇔C
と移動させた可能性があるのだ。B地点に鉱山があれば、そこにあるはずの鉱脈がA地点に移動してしまったと考えれば納得が行くだろうか?
風石がかなりの広範囲に分布していた事、そして風石とはいえないルイズが砕いた例の”岩盤”の事も考えれば、ハルケギニアの地中は全体的に大規模にシャッフルされてしまったと考えて間違いないだろう。これを元に戻すのは、普通に考えて不可能だろうな。(大地の大精霊と交渉する気は全く無いしな)
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その後、ロベスピエール4世の墓を参ったり、ローレンツさんの娘婿のセザールさんと会って転生者ベレニスの近況を聞いたりして、無事にトリステインへの帰途に着いた。一番印象に残ったのは戦場の痕だったが、それは私よりコルネリウスを暗くさせる結果になってしまった。
うーむ、コルネリウスの件と言い、鉱山の件と言い、身の安全は兎も角、私個人としてはかなりマイナスの大きかった旅行になってしまった。ノーラがカグラさんと仲良くなってくれたのは喜ばしい事だが、義母(ライル)になったノーラに義母(イザベラ姫)になるだろうカグラさんが色々聞いていたそうだ。
はぁ、トリスタニアに戻るのが憂鬱になってきてしまったな。ため息をつく度合いが、コルネリウスと同じと言うのが事態の深刻さは思い知らされる。
しかし、後悔しても仕方が無い、ライルにも言った事だが、失敗をどう挽回するかが大事なのだろうな。この件に関してはゲルマニアからの要請があれば、協力を惜しまない積りだ。ナポレオン1世辺りが素直に協力を要求してくれれば、応じるしかないのだがな、私の立場としては。
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ちなみに、王城へ戻って事情を説明すると、ユニスとキアラに交互に怒られた。私は何をやっているんだろうな?陛下への報告が済んでいなかったら、ガリアへ行って交渉し直して来いとか言われそうだったぞ?
「分かったよ、キアラ、すまないと思っている」
「はぁ、こんな事なら無理してでも付いていくべきでした」
一応私達に気を使ってくれたらしいのだが、恩を仇で返してしまったな。コルネリウスがツェルプストー辺境伯を頼ってゲルマニアに帰ってしまったから、秘書役をキアラにまたしてもらうことになった途端これなんだよな。だが、コルネリウスはもうトリステインに戻って来ないかも知れないな。
「それはそうと、ラスティン様、義弟(おとうと)君が面会を求めているそうですが?」
「ノリスが?」
「いいえ、次期ラ・ヴァリエール公爵様ですよ」
「ああ、エルネストか、彼も忙しいだろうに」
エルネストがやって来たか・・・、陛下の治療の見込みがたったんだろうか? そうすると私の副王としての役目も終わりかな、色々中途半端な気がするが今の私に立場なら幾らでもやり方はあるだろうな。
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