第108話 ラスティン23歳(視点の違い)


 何とかロワイエさんを丸め込んで(商会への利益は約束させられたが)、転生者達とその家族の権利を確保する事に成功した訳だが、当然それには責任が伴う。若き転生者とその家族の将来は私の手にかかっている訳だ。

 幸いと言い難いのだが、今の私なら多方面に顔が利くから、彼らの望みを、いや望みに近い生活環境を提供する事は不可能では無かった。部下達の手を借りる事が出来れば、簡単だったと言えたのだろうが、私は出来るだけ彼らの将来を縛りたくは無かったから、王城にいる4人の部下の力は借りなかった。


・農業系の知識を持つアミラとフリードとその家族は、レーネンベルクの父の所へ送り込んだ。兵団の施設隊と行動を共にして、レーネンベルクの農業を発展させてくれるだろう。成果が出れば、今度はそれを国全体に広める予定だ。


・リッテンとバベットは、エレオノールの下で助手をやってもらうことになった。自動車や列車の知識が活かされる時は絶対に来ると思っているから、ミネットやコルベール先生と技術の研鑽に励んで欲しい。


・ヴァレリアンはワーンベルの向かってもらい、あのホールを有効に活用してもらう事にした。その内、クリシャルナが首を突っ込みそうな気がするが、まあ、深刻な事態にはならないだろう。


・サンディは、普通に公立学校へ行ってもらった。ローレンツさんも、本職の教師を得ることが出来れば、安心だろう。


・ロドルフはマリロットへ向かい、魔法学園に入学する事になった。両親も兵団に入り、単なる平民メイジとして働き始めた。


・ベレニスは、扱いに困ったが、思い切ってガリアへ言ってもらう事にした。漁業はトリステインという国では、あまり盛んとは言えず、ローレンツさんの娘婿のセザールを頼る形となった。まあ、ロワイエさんは良い顔をしなかった訳だがな。


・クロエは、エルネストの助手的な立場をやってもらう事になった。魔法薬と聞いて思い出した友人は今、色々忙しいし、クロエが彼女の影響をそのまま受けるのは少し心配だったからだ。少し落ち着いたら、”新婦”の元に就いて貰う事にしよう。


・ルネは、ある目的があって、とある人物の元に行って貰った。まあ、隠すほどの事では無いが、トリスタニアを再建する事を目的とした王城の部署があったので、そこに送り込んだ訳だ。王都の実状を見れば、重要な部署だと思っていたのだが、そこはある意味島流し的な部署だった。

 ここに運悪く潜入させてしまったのが例のカロン君だったのだが、彼はその部署から去ろうとはしなかった。建築を専攻していた彼にも今の王都がこの国に相応しく無いと感じていたのかもしれない。彼から聞き出した一番の問題は予算だったのだが、ユニスの協力で何とか解決出来た。次は実際に王都をどうするかだったのだが、そこにルネが丁度良く現れた訳だ。2人の活躍を期待したいと思う。


 そう、私は基本的に若き転生者達とペアを組むように、色々な人達を割り当てた訳だ。幼いと言っても良い彼らの才能を引き出すには、これが必要だと思う。


===


 こんな事を2月ほどかけて、暇を見つけては手配していた訳なのだが、自分でもかなり疲労が溜まっているのが分かる。やはり、私は凡人の様だな、まあ、キアラなどと張り合う積りは無いが、少し無理をしすぎた様だ。政務も一段落した所で、今日から護衛の仕事に戻ったガスパードと年長の護衛の会話を何となく聞き流していた。


 私の机の右前方にも1つ机が置かれていて、そこでは新しく入ってきた秘書官殿が不機嫌そうな顔で、共通の友人ののろけ話を聞いていた。まあ、こう言えば分かると思うが、王城ではアルマント・フォン・リューネブルクを名乗って、その上、変装までしているコルネリウス・フォン・ブラウンシュワイクだった。(さすがに王城内では、彼や彼の両親を知っている物が居るかも知れないから、用心の為だ)


 ガスパードが今日まで護衛の任を外れていたのは、カロリーヌとの結婚に対するお祝いの意味と、新婚旅行やその他の準備の時間を与える目的だった(こちらの世界でも、あまりメジャーでは無いが、新婚旅行という習慣はあった)。2人は旅行などには行かず、両家の実家や親戚を挨拶して回ったそうだ。

 2人が結婚を急いだのも、副王の護衛隊長格と侍医の補佐まで出世した事で互いの実家が妙な動きをする前に先手を打ったのだが、態々挨拶回りまでするとは律儀な事だ。


 一方の友人コルネリウスだが、どうも私の秘書として働き始めた当初から、色々納得が行っていない様だ。もう少し真面目に仕事をしろと、何度か苦言を言われた事がある。先程の様に、休憩中の護衛達が、執務室に入ってきて雑談をする事などは、かなり気に入らないらしい。

 私としては良い気分転換と、世間の噂を聞ける機会なのだから気にはしていないのだが、コルネリウスはゲルマニア人らしくなく神経質な反応を見せてくれる。ゲルマニア人らしくないと言えば、コルネリウスには恋人の1人も居ない様だ。まあ、彼の立場では気軽に恋人も作れないだろうから、色々溜まっているのかもしれないな。そう考えると、友人の1人が目出度くゴールインとなれば、多少不機嫌にもなるのもしかたがないだろうな。


「物事の見方が変わるか?、スティン、そう言う物なのか?」


 コルネリウスが本音をこぼしたぞ。これは、さっき、ガスパード達が話していた内容だ。


「アルマント、気を付けてくれよ」


「ああ、すみません、殿下。そんな事より、婚約者や妻を持つっていうのは、そんな物なのか?」


「婚約者と夫婦は違うと思うぞ。それに、君だって公爵家の嫡子だったんだから、婚約者の1人位居ただろう?」


「嫌な事を思い出させるなよ、昔の俺はあんなだったからな、長続きしなかったんだよ」


「なるほどね」


「おい、そこは納得する所じゃないぞ!」


 コルネリウスが何か文句を言っているが、気にしないでおこう。それにしても、私も結婚したら、人生観が変わったり、物の見方が変わったり・・・! それだ! 急に立ち上がった私に、コルネリウスが驚いた様だが、それ所では無い。


「ニルス!」


 大き目の声で、部屋の外に居る筈のニルスを呼んだ。


「はい、ラスティン様。何か御用ですか?」


「すまないが、キアラに、ここに顔を出すように伝言してくれるか?」


「はい、急いでですね?」


「いや、ただここに来る様に伝えるだけでいいよ。キアラも忙しいだろうしね」


 それを聞くと、ニルスが執務室を出て行った。まあ、キアラの事だから、余程の事が無い限り直ぐに来てくれるだろう。


「おい、スティン、どうしたんだよ?」


等と、コルネリウスが言っているが、私の思考はもう1つの問題を、別の角度から考え始めていた。私とジェリーノを除く転生者達が、何故、積極的に物語(歴史)に干渉しないかと言う問題だ。しないのでは無く出来ないと考えたらどうだろう? 原因は分からないが、物語(歴史)に干渉するという思考を禁じられているとか、干渉したいと言う欲求を奪われているとかなら、彼らの態度に納得が行く気がする。

 かなり正解に近い気がするのだが、原因に関しても、何故2人の例外が居るのかも全く説明出来ていないな。まあ、神などと言う架空の存在でも居れば、話は簡単なのだが、私も多分他の転生者達もそんな話は一切していなかったからな。


「ラスティン様、お呼びと聞きましたが?」


 おっと、キアラが来たようだ。この考えは保留だな、答えが出ないような問題の様な気もするし、今はもっと実務的な話を優先すべきだろうな。


「枢機卿の手伝いは、大丈夫なのかな、キアラ?」


「はい、急ぎの案件はありませんでしたから」


「そうか、キアラに少し考えて欲しい事があって来てもらった。例のガリアの件なんだが」


 ガリアの件と言っただけで目の色が変わったな、キアラもかなり気にしていたから当然かな。


「ゲルマニアがガリアに攻め込んだのでは無く、ガリアがゲルマニアに自国を攻め込ませたと考えることは出来ないかな?」


 とても分かり難い言い方だったと思うが、キアラにはそれだけで通じた様だ。執務室の棚に向かったかと思うと、確か以前、クロディーから直接渡された、シャルル王子派の貴族の名前が記された報告書を引っ張り出して来た。それに、目を通したと思ったら、そのまま執務室から出て行ってしまった。


「あの小さな副宰相殿はどうしたんだ? それにさっきお前が言ったのはどういう意味なんだ?」


「彼女が何処へ言ったかは、僕も知りたいよ。さっきの僕の台詞はそのままの意味さ」


「”ガリアがゲルマニアに自国を攻め込ませた”だったよな? 本気で言っているのか!」


「僕に怒ってどうするんだよ?」


「いいや、お前がそう言う事を考え付くのが気に入らないな。お前だって、公爵家の嫡子だったんだろ! 自分の領地を敵に態々攻めさせるなんて、領民に顔向け出来んぞ!」


 う! コルネリウスが、さっきの仕返しも兼ねて正論を言ってきたぞ、冷静に考えてみればおかしな考えだな。まあ、かなり疲れていたし、ガリアの事で悩んでいたからこんな考えに至ってしまったのだろう。以前の私が父に同じ様な考えを述べたとしたら、確実に叱られていただろうな。だが、あのガリアの大王を相手にして領主の常識に囚われるのは危険な事だと思うのだが? あまり自信が無くなって来るぞ?


 コルネリウスに一方的に攻められていると、キアラがユニス、マリユス、そしてアンセルムまで連れて執務室に戻って来た。彼らの意見も聞きたいと言う事なのだろうか? キアラ達は、ガリアの地図(これもクロディーが極秘で入手してくれた物だ)に向かって早口に議論を交わし始めた。私とコルネリウスはその論理展開に付いて行けなかった。


 時々キアラから、私から見たロベスピエール4世の人となりや、私ならどう考えるかを尋ねられたが、まともに答える事が出来たか怪しいものだ。結局かなりの時間が4人の議論に費やされたが、何とか結果がまとまった。当然の様に4人を代表してキアラが議論の結果をまとめて報告してくれる事になった訳だ。

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