第62話 ラスティン20歳(ルイズ来る:爆殺!)

 あの、”大地の大精霊”事件から、一月程が経ちました。まだ、地震の爪あとは残っていますが、ワーンベルはほとんど日常を取り戻しました。

 被害の調査結果では、大精霊の起した地震は、見事なまでにワーンベルのみに被害を与えた様です。信じられない話ですが、ワーンベルから少ししか離れていない村でも、地鳴りは聞こえたそうですが、揺れは全く感じられなかったという報告でした。

 僕の感触では、あの存在は基本的に自らの力を積極的に使っていなかったんだと思えます。あれにとっては、僕などは一睨みで簡単に命を奪えたでしょうし、地震も怒りから力が漏れたと言った印象です。それでも、漏れた力が完全に制御されたいたのには、恐怖さえ覚えます。


 あの存在の力を、キュベレーやその仲間が抑えたと言うのは、何故か納得が行かない話です。あの時、キュベレーは”支配のルーン”の力を全開にしたんだと思いますが、これは逆に考えれば、仲間達を全力で支配した事になります。これは、あの存在の怒りを買う行為だと確信出来ます。それなのに、あの存在は僕を見逃した訳です。テティスが言っていた、”引きこもり”と言うのが何か関係しているのでしょうか?


 こればかりは、考えても結論が出ない問題の気がします。とりあえず、ロマリアのジェリーノさんに、僕が決めた風石の採掘予定地を知らせました。聖エイジス31世の名前で予言によって、”風石”の採掘できる場所が分かったという事にして、ロマリア,ガリア,トリステインの3国で採掘を行う事になりそうです。


===


 ”風石”絡みの話も、一段落した様なので、僕は先日のお礼も兼ねて、ラ・ヴァリエール公爵家を訪問する事にしました。ついでにルイズの様子も確認しておこうという位、ルイズに関しては軽い気持ちでした。

 エルネストの診療所に顔を出して、改めて救援活動を礼を言った後、ラ・ヴァリエール公爵の屋敷を訪ねました。


「ラスティン、良く来たな。この間は大変だったそうだね、ワーンベルの方はもう大丈夫なのかね?」


「はい、何とか以前の状態に戻ったと言った所です。今日は公爵に救援のお礼を申し上げたいと思いまして、こちらにお邪魔しました」


「そうか、君も領主らしくなってきたじゃないか。父上もお喜びだろう?」


「お言葉ですが、私は一代官に過ぎません。それに父には、まだまだ敵わないのは自覚しています」


 ラ・ヴァリエール公爵は、満足げでしたが、一方で少し不満そうでした。あれ、何か失言をしてしまったでしょうか? 自分としては、無難な対応だったと思うのですが。


「エルネストも、もう少し領地の経営等に興味を持ってくれると、良いのだがね」


 おや、エルネストに対する不満だった様です。エルネストは診療所で治療三昧(変な言葉ですね)ですから、公爵が心配するのももっともです。ですが、僕としてはその点を心配はしていません。先程見て来た、診療所の方も経営は順調の様でしたし、”エルネスト・ド・ラ・ヴァリエール”(まだ婿入りした訳ではないので、正確ではないですが、一般にはこう認識さえれています)の名声はこの国はかなりのものですから、カリスマという点でも、ほとんど問題は無いと思います。僕より、2歩も3歩も先を行っている感じです。


「公爵、エルネストならば大丈夫です!」


「そうか、君がそう言ってくれるなら、少しは安心出来るかな」


「公爵、今日はルイズにも会っておきたいのですが、宜しいでしょうか?」


「気を使わせてすまんな。あの子の機嫌次第だが、是非会って励ましてやってくれるか?」


 僕が、こんな聞き方をしたのには、訳があります。エルネストから聞いた話では、ルイズは少し前から魔法の練習を始めたそうなのですが、結果は予想通りだったそうです。ルイズ本人はかなり落ち込んだそうです。ラ・ヴァリエール公爵も、色々な家庭教師を雇ったそうですが、やはり結果は変わらなかったと言う事です。

 エルネストも医学的な面と、魔法的な面から、調べてみたそうですが、好転はしなかったと悔しそうでした。精神的な問題なのか、条件的な物なのかは、現在の所不明という結果です。精神的な問題という事であれば、僕にも何とかしてあげる事が出来るのかも知れません。


 そう思って、ルイズの所に向かいました。ルイズは、屋敷の中庭で魔法の練習をしていました。どうやら、基本中の基本、コモンマジックのライトを練習している様子です。屋外でライトを練習するのはどうかと思いますが、爆発の規模を見ると、屋外で行っている理由が良く分かります。

 その様子を確認して、ルイズに声をかけようとした時に、僕の杖の精霊ニルヴァーナの状態が尋常では無いことに気付きました。


「なんで、なんで、あんな事を・・・」


と、呟いている様です。杖がこの状態では、魔法の指導なんて出来るはずもありません。(微妙に震えている杖でまともな魔法が使えるとは思いませんからね)


「ルイズ、魔法の修行頑張るんだよ!」


とだけ、声をかけて、早々にワーンベルに戻る事にしました。多分、変な人だと思われたのでしょうね。


 帰りの馬上で、落ち着いたニルヴァーナから、何とか事情を聞きだす事が出来ました。


「目の前で、杖が爆殺されたのよ。動揺しても仕方が無いじゃない!」


という事でした。ライトの呪文というのが悪かったのかも知れません。帰りの道中、ずっとニルヴァーナを慰める事で、何とか機嫌を良くする事に成功しました。でも、彼女の考えも分かります、僕としても目の前で、人間が爆殺されたら、冷静ではいられないでしょうから。

 こうして、ルイズ救済作戦は、実行に移される以前で中断させられる事になりました。


===


 先日の雪辱の為に、僕が今、何処にいるかと言うと山中に居たりします。キアラが付いて来ると言い張ったのですが、護衛を連れて行くという事で妥協してもらいました。(キアラにどんどん頭が上がらなくなっている様な気がします)

 護衛の方々も、山麓で待機してもらっています。事情があって、余人を交える訳には行かなかったのです。僕のお供をしているのは、道案内役のニルヴァーナだけだったりします。僕は、ニルヴァーナと会話をしながら、山の奥へと足を進めます。


「そういえば、君はあの時、”なるべく早く、そして人には影響が出ないように”って言っていたね。どういう意味があったんだい?」


「あれ? 気付いていなかったの? 自信ありそうに、色んな指示を出していたみたいだから、分かっているんだと思っていたのに」


「どういう意味だい?」


「そうね、例えばクリシャルナと会った時の事を考えてみて」


そう言われて、少し想像してみましたが、なるほどと思いました。


「大地のお母様が、普通に物事を運んだら、それは何百年後に実行されるでしょうね。そして、逆に全力で”風石”を動かしたら、軽く人間は絶滅の危機に陥るでしょうね」


 ニルヴァーナが語ってくれた内容は、納得できますが、ちょっと寒気を感じるのも確かです。


「ニルヴァーナ、助言してくれてありがとう!」


「あの時、そう、あの時キュベレーは貴方を守るために全力を尽くしたわ。何の力も無い私だけど、少しは役に立ちたかっただけよ」


 そっけない声でしたが、少し照れた感じが伝わって来ました。


「そんな事より、お爺様の所に案内するのは、同意しちゃったから仕方が無いけど、本当に切り倒したりしないんでしょうね?」


 照れ隠しなのでしょう、強引に話題が変えられます。


「大事な妹達の為だけど、そんな事はしないよ。枝の2,3本ももらえれば十分だよ」


「まあ、ラスティンの言う事だから、信じる事にするわ。そろそろよ、結界があると思うから、指示通りに歩いてね」


「結界? 分かった、早めに指示してくれよ」


 そう答えた瞬間、肌が粟立つのを感じました。これが結界なのでしょうか? そこからの、ニルヴァーナの指示は奇怪な物でした。真後ろを向いて進めとかは良い方で、どう見ても断崖絶壁の上から、真っ直ぐ進めとかは従うのにかなり勇気が必要でした。


「ここよ」


 ニルヴァーナにそう言われた頃には、僕の現実感はかなり怪しくなっていました。


「これが、アリエの木?」


 別にアリエの木を始めてみたという訳ではありませんが、今、目の前にある大樹がアリエの木らしくなかったので思わず、口から出てしまいました。


『ほう、人間がここまで来るのは久しぶりじゃな』


 突然、頭に響いた念話に少しだけ驚きました。


「急な訪問で失礼します。目の前の木が貴方なのですね?」


『そうじゃよ。して、何か用かのう?』


「大変失礼だとは思いますが、枝を何本か頂きたいのですが」


『良いじゃろう、丁度伸び過ぎて、他の迷惑になっている枝があるからのう。これを切ってくれれば、礼として持って帰っても良いじゃろう』


「本当ですか? 喜んでやらせていただきます!」


 話が上手すぎの様な気もしますが、目的の枝が手に入るなら、問題はありません。僕は、レビテーションで浮かび上がると、木の精霊の言うとおりに、枝を切っていきます。15本程切った所で木の精霊から、


『もう、良いぞ。大分日光の入りが良くなったようじゃな。感謝するよ』


「いいえ、この枝が頂けるのなら、大したことではありません」


『所でのう、そなたはその枝をどうする積りなんじゃ? そなたには、必要ないものじゃろうに』


 魔法を使ったので、ニルヴァーナの事はばれると思いましたが、やっぱりでした。


「はい、確かに僕には”ニルヴァーナ”がありますからね。この枝を必要としているのは、僕の妹達なんです」


『そんなに妹が多いのかな?』


僕が抱えている、15本の枝を見て、そう言ったのでしょう。


「必要なのは、3本だけです。残りは帰り道に”挿し木”でもしようかと思っただけです」


『”挿し木”のう、それはどんなことかな?』


 僕は、簡単に挿し木の説明をします。


『わしが、何本も増えるというのじゃな。面白いのう』


 どうやら、気に入ってくれた様です。僕としても、自然のアリエの木の数が増えるのは、良い事だと思ったからなのですけどね。


『今日は助かったぞ、また十年後位に来てくれると助かるのじゃがのう』


 何故か、体良く庭師の真似事をさせられた気分です。


「分かりました。覚えていたら、また来ます」


 こうして、木の精霊の下を去りました。帰り道では、時々アリエの枝を地面に挿して、魔法で成長促進と地中の栄養素を増やしておきます。根付いたのは確認したので、多分無事に育ってくれるでしょう。帰りは結界の効果は無い様です。それとも、あの木の精霊が、何かしてくれたんでしょうか?

 丁度、木の精霊の結界を抜けた辺りでしょうか、それまで黙ったままだったニルヴァーナが、


「ラスティン、ごめんね。そして、ありがとう」


と不意に呟くように言いました。


「いいさ、気にしていないよ」


と格好を付けて答えましたが、何故、彼女が謝ったりお礼を言ったりするのかは、理解出来ませんでした。ここは雰囲気的に突っ込んではいけない所だと感じたので、無難な対応をしておく事にしました。


「で、でもラスティン、何故、枝を3本貰って来たの?」


 ニルヴァーナが少し照れ隠し気味に聞いてきました。


「ジョゼットだろ、ルイズだろ、そしてテッサだよ?」


「あの子も? ラスティンも随分とお人よしね」


 ルイズの所で何か言うかと思いましたが、テッサちゃんの方に驚いた様です。


「さあ、急ごうか。護衛の方々を待たせるのは悪いし、杖職人の方も到着しているかもしれないしね」


 こうして、僕たちはワーンベルへと帰るのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る