第10話 ラスティン10歳(元素周期表と錬金)

 ガストンさんはあれから3ヶ月ほどで、結合(コンポーズ)の呪文を完成させてくれました。今はその功績で、レーネンベルク魔法学園で錬金の講師として教鞭をとる傍ら、錬金の新しい呪文の開発に励んでいます。


 魔法学園の運営自体は順調で、毎年百人近い優秀な卒業生がレーネンベルク魔法兵団に入団しています。園長を務めるクロードさんも十分な仕事をしてくれていると思っています。やはり貴族のメイジより平民メイジの方が僕と相性が良いらしいです。


 問題は魔法兵団の方で、活躍も華々しければ、赤字の計上も華々しいというのが現状です。王国からは勲章や称号など名誉的な報酬は受けられるのですが、現金収入は得られず。レーネンベルク領内では活動が飽和しつつあって、早急に何らかの対策を打ち出さないとまずい状況になりつつあります。


===


 僕個人としては、この2年で土水系統ともにラインクラスまで昇格して、腕を上げました。魔法薬の調剤で多少の利益を上げているといった所です。


 僕個人が今一番熱心に取り組んでいるのが、前世の記憶にある元素周期表の元素を錬金の|元素変換(コンバージョン)で再現することです。前世の記憶を頼りに色々な元素を|元素変換(コンバージョン)で生成してみました。ラインメイジになったこともあり、どんな元素が元素変換可能なのか試し始めたのが切欠です。ドットメイジの頃にはまともに錬金出来なかった、鉄も容易にかなりの純度で錬金可能になっていました。


 そこで発見した幾つかの法則についてここで述べたいと思います。

・扱える魔力量が多いほど、元素番号が大きい元素を|元素変換(コンバージョン)出来る。

(ラインメイジでは、銅29、亜鉛30辺りが限界で銀47まで行くと変換出来るのは10%以下)


・元素番号が離れた元素を|元素変換(コンバージョン)しようとするほど、魔力の消費量が激しくなる。

(ケイ素14からアルミニウム13の元素変換は大量に行えるが、ケイ素14から銅29を元素変換するのは大量には出来ないし純度も落ちる)


・同じ元素に元素変換しようとした場合、元となる物質の純度が高いほど、純度の高い元素変換が出来る。

(純度80%のケイ素の塊の石と、純度100%に近い抽出(イクストラクト)済みケイ素の塊を元に鉄を元素変換しようとした場合、前者は85%ほどの純度にしかならないのに対して、後者ではほぼ100%の元素変換(コンバージョン)が行える)


・元素変換(コンバージョン)を行っても、質量は保存される

(ケイ素14を元素変換(コンバージョン)して鉄26にしても質量の変化は見られない)


 元素周期表は僕の知るかぎりウンウンオクチウム118で終わっているけど現在の僕の魔力では錫50までしか元素変換(コンバージョン)できません、これも何度も抽出を行ってやっと錬金したものです。

 一応、水素1~錫50までの標本をつくりましたが、この世界でどの程度認められるか疑問が残ってしまいます。せめて金まで錬金できれば、ある程度の評価は得られると思うんですが。

それはトライアングルクラスになるまでお預けかな?下手をするとスクエアクラスでしか金は得られないかもしれません。ちなみに常温で気体の元素は、固定化、密閉化したガラスビンの中で元素変換(コンバージョン)しました。また、すべての固形の元素は速攻で固定化をかけましたよ、有害だったり、危険だったりしますからね。


 とりあえず、土や石から抽出可能なケイ素で元素変換(コンバージョン)を行って、利用価値のありそうなアルミ、チタン、鉄、銅を出来る限り錬金して、鍛冶屋や商人に見せて見ましたが、アルミは強度、チタンは加工性が悪くあまり使い物にならないそうで、鉄と銅が普通の価格で売れたのが悲しかったです。

前世ではかなり有用な元素だったはずなんだけど。


 改良案としてアルミに銅を結合(コンポーズ)させたとジュラルミンもどきと、マグネシウムとケイ素を結合させた強度、耐食性に優れたアルミ合金、さらに亜鉛、マグネシウム、銅を結合させた超々ジュラルミンもどきを作ってみました。

 これらをまた出入の商人に見せたところ、かなり興味を持ったようで、サンプルを渡すと何処かへ持って行っきました。興味をもってもらえるといいのですけど。


 チタンの方は、鍛冶屋から加工性に問題があるという指摘を受けたので、いっそのこと錬金の成形(フォーム)を使ってそのまま製品の形にしてみることにしました。試しに剣の形に成形したチタン製の剣を作って、屋敷の警備をしてくれている兵士に使わせて見た所、軽さ、強度の面で鉄製や鋼製のものに勝るという好評を得て自信がつきました。


 父上を通して王国へ献上するという形で、ジュラルミンもどき製の盾と、チタン製の剣を5組提供してみました。(面倒なのでジュラルミンと呼んでしまいましょう)

 反響があるかどうか分かりませんが、反応は楽しみです。(後から聞いた話では、献上した剣と盾を使用した兵士が、御前試合でトップ3を独占して剣と盾の出来を絶賛してくれたそうです)


 王城からジュラルミン盾と、チタン剣を100組購入するというものでした、しかも1ヶ月以内にです。剣、盾それぞれ500エキューで購入するということですから、10万エキューですね。王国としてもかなり本気のようです。

 しかし、1ヶ月ですか無理ですね、父上にお願いして2ヶ月に納期を延ばして貰いましたが、それでも僕だけでは無理なので、ガストンさんに依頼して魔法学園の方から錬金を得意とする生徒を10人、魔法兵団の方からも錬金を得意とする土メイジを10人派遣して貰って計20人で大掛かりに錬金をすることにしました。


・まず屋敷の近くの町マリロットに20人ほどが寝泊りできる屋敷を工房兼宿舎として用意しました。

・食事やその他の身の回りのお手伝いさんとして、マリロットの女性たちを10人ほど雇いました。

・原料として石が必要だったので、町に大き目の石を1スゥで多数買い取るという御触れを出しました。


 これらの手配を済ませた後、実際の錬金に入る訳ですが工程は大まかに言って、


1.買い取った石から、比較的多く含まれる二酸化ケイ素SiO2を抽出(イクストラクト)する

2.二酸化ケイ素をそのまま|元素変換(コンバージョン)して、アルミニウムとチタンと少量の銅を作る

3.作り出したアルミニウムとチタンと銅を更に抽出(イクストラクト)して純度の高いアルミニウムとチタンと銅にする

4.アルミニウムと銅を結合(コンポーズ)させてジュラルミンを作る

5.ジュラルミンとチタンを錬金で|成形(フォーム)して盾と剣とする


の5工程にしました。


 先ず最初に、今回のメンバー一同を集めて、ジュラルミン盾とチタン剣の錬金を実演してみせました。一連の錬金は、地味な作業ですし、出来たものも単なる剣と盾だったので、メンバーの皆さんは、あまり感銘を受けなかった様子です。

 それではと言うことで、メンバーに各工程の錬金を行ってもらいました。


 1の抽出の工程では、ガストンさんの指導を受けた魔法学園の生徒が見事な二酸化ケイ素の抽出(イクストラクト)を見せてくれました。

 2の元素変換(コンバージョン)では、経験の差か魔法兵団の土メイジたちがまずまずの純度のアルミニウムとチタンと銅を元素変換(コンバージョン)してくれました。

(始めてみたアルミやチタンを元素変換出来るだけでもなかなかの腕でしょう)

 3の抽出(イクストラクト)と4の結合(コンポーズ)は魔法学園の生徒が何とかこなしてくれました。(純度にばらつきがありちょっと強度の面では不安ですが)

 5の成形(フォーム)では魔法兵団の土メイジたちがその腕を奮ってくれました。(はっきり言って僕が作ったのよりかっこいいです)


 最初の一週間はかなり失敗はありましたが、なんとか形になりそうです。得意分野がかなりはっきりしているようなので、完全に分業制で作業を進めて行った方が良さそうですね。

 完全に分業化をして作業を進めると、錬金にも慣れてきたのか効率がかなり上がってきました。その為、一週間で20組ほどのジュラルミン盾とチタン剣を錬金することができました。


 しかし、ここに来て問題が発生しました。魔力の枯渇です。メンバーのほとんどがラインメイジだったので、この辺りが限界のようです。

 数人いたトライアングルメイジはまだ余裕がありそうでした。仕方がないので、メンバー全員に3日間の休養をとらせて、魔力の回復に努めて貰いました。

 一方僕はと言うと、普通のメイジより魔力量が多いらしく、一人で黙々と錬金を続けていました。

 メンバーの休養が終わった後は無理をさせず、以前の2/3程度の錬金を1日に行い、十分な休養をとって魔力の枯渇という事態を回避することにしました。


 そして2ヶ月後、何とか注文があった100組のジュラルミン盾とチタン剣を王城に納品する事ができました。


 しかし、納品を終えて帰ってきた父上から聞いたのは、


「陛下は大変お喜びになっていたぞ、陛下からは引き続き剣と盾を納品するようにと下知があったぞ!」


という、無情な言葉でした。


「仕方ない錬金するメンバーを増やそう」そう決心する僕なのでした。


 ところで、今回の錬金騒動では意外な副産物がありました。


 一つは、石から二酸化ケイ素を抽出(イクストラクト)する際に、結晶構造を思い浮かべながら行ったら、見事な水晶が出来上がったこと。(はい、普通に抽出するのに飽きて来ていたんです。)

 工夫すれば色つき水晶なども作れるかもしれません。水晶の値段はピンキリなので、価格は何とも言えませんが、元手が掛からず水晶が量産できれば、そこそこの収入になるでしょう。

 もう一つは、これは全くの偶然なのですが、元素変換(コンバージョン)を始めた初期の頃に、二酸化ケイ素を元素変換する際に魔力が少なすぎた為かケイ素のみがアルミに変化して酸化アルミニウムを生成していたのです。

 これが偶然結晶化してルビーやサファイアの様なコランダム系の宝石を生成していたのが発見できたのです。

 出来た結晶は小さな物だったのですが、これを大きく純度が高く生成することが出来れば、魔法宝石(マジックジュエル)として大々的に売り出そうと考えています。


 とりあえず、出入の商人に水晶とルビーとサファイアを見せて品質の鑑定をして貰うとしましょう。しかし、アルミ合金を持たせたまま何の連絡も無いのは気になる所ですね。変な事になっていなければ良いのですが。

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