第9話 ラスティン8歳(母上による水魔法修行とその他)

 ガストンさんは、屋敷の客間を与えられその部屋を早々に工房へと変えてしまいました。工房の中には、色々な鉱石が溢れています。これらはガストンさんが、トリステイン中をまわって採集してきたものらしいです。


 ガストンさんへ科学の基礎を教え始めてから2ヶ月ほどしたある日の晩、眠ろうと思ってベッドに入りかけた僕の所に突然ガストンさんへがやってきました。


「ラスティン殿、とうとう完成しましたよ!」


 どうやら、”鉄鉱石から直接純度の高い鉄を抽出する”呪文が完成した様です。眠気も飛んでしまったので、実演して貰います。


「分解(デコンポーズ)」


 ガストンさんが呪文を唱えると、赤茶だった鉄鉱石が見る見る鉄色に変化して行きます。アナライズをかけると、ほぼ100%の純度の鉄が生成されたことが確認出来ました。


「とうとうやりましたね、ガストンさん!」


 ガストンさんはとてもうれしそうにしています。


「ラスティン殿のおかげですよ、酸化鉄を励起状態にして鉄と酸素に分離して、抽出(イクストラクト)する発想は私では出来ませんでしたからね」


「いいえ、僕はアイデアを出しただけです、呪文を完成させたのはガストンさんの功績ですよ、僕にも是非呪文を教えてください。後一つお願いがあるのですけど、分解(デコンポーズ)の逆の呪文も考えて貰えないでしょうか?」


「呪文をお教えするのは勿論かまいませんが、分解(デコンポーズ)の逆の呪文ですか?結合(コンポーズ)の呪文とでも言うのかな?」


「そうです結合(コンポーズ)です、溶液や熱等を使わずに合金が生成できたらすごいと思いませんか?」


「なるほどそれは確かに!分かりました引き続き結合の呪文の研究をさせて貰います」


 ガストンさんは興奮した様子で僕の部屋を出ていきました。


 元素変換と分解抽出と結合の呪文が完成すれば、前世にあったようないろいろな金属や合金が簡単に手に入ります。これらの金属でこの世界に産業革命を起すことも可能では無いかと思うと興奮して、その夜は中々寝付けなかったです。


===


この1年の新家臣のメイジたちの活躍も紹介しておきましょう。彼らは、”レーネンベルク魔法兵団”と呼ばれトリステイン中に有名となりました。


 土系統の呪文を使ったメイジたちのおかげで、領内のほとんどの町や村に立派な街道を通す事ができました。(固定化の呪文のおかげで保守にはほとんど費用がかからないのが助かります。)

 これで領内の物流も活発になり、商人たちからの税収が増えました。今後は、近隣の領主の領地の主な町に街道を通して、レーネンベルク領の経済の発展をより確かなものにして行きましょう。


 風・火のメイジ達は、領内の治安を安定させるほかに、腕利きの傭兵として亜人退治や盗賊団の討伐などで、近隣の諸侯や王国直轄地の代官からひっぱりだこです。


 水メイジたちは、領内の町や村をまわって、怪我や病気の治療、土メイジの力を借りて上下水道の整備を行っています。下水で集めた糞尿を発酵させ肥料にするのはお約束ですよね。

 水メイジの数が揃ってからは、牛や豚などの家畜の健康管理まで行えたので、レーネンベルク産のブランド肉の生産量もうなぎのぼりです。


 そして、彼らの名前を一躍有名にしたのが、レーネンベルク領の隣に位置する、モーランド侯爵領での水害時の救援活動でした。

 大雨が続いた為、水害を警戒していた最中にレーネンベルク領を流れるラセーヌ川の水位が危険なレベルまで達したことを察知したレーネンベルク魔法兵団では、下流に位置するモーランド侯爵領で堤防が決壊するのを予想し、子爵領の境界で団員を待機させていました。(レーネンベルク領内では堤防の強化などで危険は無いと判断)大雨が3日目に入った未明に終に、モーランド侯爵領の堤防が決壊してしまいました。

 予め兵団を子爵領内に入れることの許可を得ていた為、応急対策が団員の手で迅速に行われ洪水の規模は最小限で済み被害者も出さずに済みました。モーランド侯爵自身は、自領でレーネンベルク魔法兵団が活躍したのをあまり快く思っていなかったそうですが、この水害の被害を最小限に食い止めた功績は王国からも高く評価され、国中から平民メイジたちが魔法兵団への入団希望したのはうれしい誤算でした。


 しかし、レーネンベルク魔法兵団にも問題がありました。彼らはレーネンベルク公爵家の家臣なので十分な給料を払わなくてはなりません。兵団員が増えることは公爵家の支出が増えることに直結する為、手放しに兵団員が増えることを喜べる状況ではなくなりつつありました。

 さすがにすぐにレーネンベルク公爵家の財政が破綻するという状況にはならないと思いますが。これは、今後大きな課題として現れてくることでしょう。


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 僕個人としてはこの一年間で、更に魔法の修行を進めてきました。特に目覚ましい効果を上げたのが、水の系統魔法と魔法薬の調剤技術の向上でしょう。


 母上に受けた水の系統魔法の教育は、治療系の魔法がほとんどでした。最初は座学がほとんどでしたが、水のドットスペルを習得してからは、基本的に屋敷の周りの町や村をまわり、けが人や病人の治療に明け暮れました。(兵団員が定期的に巡回していますが、それでも突発的な病気や怪我は対応しきれないのが現状です)

 ある程度、治癒系の魔法を習得すると今度は魔法薬の調剤を習いました。原料となる薬草の採集の仕方から、調剤の仕方、そして出来た魔法薬に魔力を込める方法まで、かなりスパルタに母上から教育を受けました。


 それで分かったのが、僕が作った水の魔法薬は通常より効果が高いということでした。

 小さい頃受けた、水精霊からの治療で水精霊の一部が僕の体の中にあることが影響しているかもと母上は話してくれましたが、流行し始めた伝染病が僕の魔法薬のおかげで拡大せずに済んだことの方が僕としてはうれしいことでした。(伝染病が発生した町などでは、人の行き来が制限されるので、水メイジによる治療が行われないと言うのが今までの場合でした)


 僕の作る水の魔法薬は、水の秘薬とまでは行かないまでも、結構な値段で売れる様になりました。僕は自分が作った魔法薬に”アムリタの雫”をいう名前を付けて、貴族や裕福な商人たちにそこそこの値段で販売することにしました。

 これは僕個人の力なので、これで儲けようとかは思いませんが、魔法兵団が出している赤字の軽減にでもなれば良いかと思い、”アムリタの雫”の調剤に励んでいます。

 水の系統魔法の腕が上がればもっと効果のある魔法薬が作れる様になるかもしれません。

 杖の精霊のニルヴァーナも一種植物の精霊ですから、良い薬草とか教えてくれるかもしれません。将来的にはオリジナルの魔法薬なんかが作れたらなと思います。

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