第7話 ラスティン6歳(老師の遺志)
師匠の所を訪ねてから3ヶ月ほど経ったある日、師匠の訃報を父上から聞くことになってしまいました。それは僕にとってかなりショックなことでした。葬儀に出席しましたが、前男爵の葬儀にしては質素なものだったらしいです。
しかし、かなり地位の高い貴族らしい若者や、平民メイジらしい質素な服を着た少年までの幅広い参列者は師匠の人柄をうかがわせるものでした。しばらく落ち込んだ気分で日々を過ごしていると、屋敷に師匠の関係者を名乗る人物が訪ねて来ました。
会ってみると、ノワール魔法塾のクロードさんでした。クロードさんは師匠の手紙を持ってきてくれたらしいです。
手紙を読むと、
”ラスティンお前がどんな道を進むとしても、胸をはって生きて行きなさい。お前はワシの最後で最高の弟子なのだから”
の所では不覚にも泣いてしまった。
”お前には一つ貸しがあったな、それを返してもらおう、ワシのノワール魔法塾への支援をお前の口からも公爵に頼んでくれ”
の所は師匠らしいなと思った。
手紙を最後まで読んで丁寧に懐にいれると、今日までの沈んだ気持ちが嘘のように晴れ渡っているのに気付きました。
「クロードさん、とても有難い手紙をありがとうございます」
「いえ、私はただ手紙を運んできただけですから」
「ところでノワール魔法塾の経営は思わしくないのですか?」
「はい、マクスウェルさまが亡くなって以来、ノワール男爵家からの支援が途絶え職員一同食べるものにも苦労する有様です。先ほど公爵様にも手紙をお渡しした際にも支援をお願いしたのですが、良い返事は頂けませんでした」
「分かりました、僕の方からも父上に塾への支援お願いしてみます」
「はい、よろしくお願い致します。ああ忘れる所でした、こちらがワーンベルのガストンへの紹介状になります」
「ああ、錬金の専門家という方ですね、クロードさんはガストンさんの事を御存知ですか?」
「ええ、私も教えましたから。変わった生徒でしたよ、暇があれば錬金ばかりして他の呪文に興味を示さないし、訳の分からない理論を実証しようとしたりしていましたからね」
「そうですか、会うのが楽しみです」
「若様に失礼なことを言わなければよいのですが、それではこれで失礼します」
そう言ってクロードさんは帰って行きました。僕はそのまま父上の執務室に向かいました、父上は難しい顔をして何か考えている様子でした。
「父上、今よろしいですか?」
「ああラスティンか、いいぞ、なんだい?」
「先ほどみえた、クロードさんの話ですが」
「ノワール魔法塾の話か、お前は支援すれば良いと言うのかな?」
「はい、メイジが魔法を使うと言うことは当たり前で素晴らしいことだと思いますから」
「理想論だな、お前は我が家の領内で平民メイジによる犯罪が年間何件起きているか知っているか?」
僕は返す言葉がありませんでした。
でも、と僕は考えます、始めて魔法を使えた時の喜び、科学全盛だった前世では不可能だったことが魔法を使えば簡単に出来るという事実。これらを考えると、全てのメイジたちにその力を十分に生かせば、この世界中を幸せに出来るのではないかという考えが僕の中に芽生えました。これこそ僕がこの世界に生まれた理由なのではという確信を得た気がします。
僕は自分の考えを一生懸命説明しました。父上は呆れた様に苦笑すると最後には、
「いいだろう、この領地の次の統治者はお前なのだから、お前の思う通りにやって見なさい」
と言って、ノワール魔法塾への全面的な援助と、平民メイジの積極的な家臣への取り立てを約束してくれました。
新たに家臣となった、平民メイジたちはその能力に合わせた仕事を与えて、レーネンベルク領発展の為に魔法の力を使って貰うことにしましょう。
ノワール魔法塾はレーネンベルク魔法学園として生まれ変わりました。学園卒業後レーネンベルク家の家臣となることが条件ですが、平民メイジの子弟でも無料で高度な魔法の教育を受けられることもあって、レーネンベルク領内はもちろん、近隣の他の貴族の領地からも入園希望者が押し寄せるほどです。思想教育もきちんと行う予定なので、数年後には優れた家臣団が構成できると思います。
新たな家臣の給料や魔法学園の経営で、レーネンベル領はしばらくは赤字経営になるでしょうが、メイジたちが十分な力を発揮すれば黒字化は可能だと信じています。
とりあえず、
土メイジには、農地の土壌改良、河川の堤防の強化、道路の整備
水メイジには、領内の医療・衛生面の管理
火メイジと、風メイジには、その戦闘力を生かして領内の治安維持と万が一に備えての戦闘訓練を行って貰いましょう。
腕が確かではない、メイジたちには魔法学園で学ばせ、一人前のメイジになってもらわなくてはなりませんね。メイジたちを組織化して、優秀なリーダーを見つけ、魔法の有効な使用方法を模索する。当面のリーダー役は父上が派遣してくれる、古くからの家臣に任せるしか無いでしょうね。やることは山積みです。
平民メイジたちの活躍が広まれば、他の貴族領への有料の派遣なども考えておくといいかもしれません。まずは、貴族ではないメイジたちがどれほど役立つ存在かであることを、貴族や平民に知らせていくことを目的としていきましょう。
前世の記憶があるにしろ、6歳で沢山のメイジたちを指揮するのはかなりの重圧ですが、芽生え始めた夢に向かって少しでも近づいて行きたいと思います。
それから僕は、
・自分自身の魔法の勉強
・政治経済や宮廷作法の勉強
・レーネンベルク魔法学園の視察(同世代の平民の子供たちと過ごす貴重な機会です)
・新家臣への仕事の配分
などを忙しくこなして行くことになりました。
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