第6話 ラスティン6歳(系統魔法)
系統魔法の勉強を始めてから1月後、僕の系統魔法の特性が分かってきました。
風,火はドットクラスで、がんばればラインクラスには成れそうだそうです。水は母上からの遺伝の所為か、見込みがあるようで、今はまだドットの上くらいですが頑張れば、トライアングルまでいけると母上が太鼓判を押してくれました。
ここまでは予想通りだったのですが、問題は土系統です。はっきり言って、基本の錬金がうまく行きません。両親の良い所取りで土と水のトライアングルを目標にしていた僕にとっては大誤算でした。土のアルノー先生も色々教え方を工夫してくれているのですが、どうしても基本の青銅が錬金出来ないのです。
悩んだ末、土のトライアングルメイジでもある、父上に相談してみました。父上も、アルノー先生から報告を受けていて色々相談していたようでしたが、これといった対策が思いつかなかったそうです。そんな父上からマクスウェル先生に相談してみたらどうか?とアドバイスを受けました。
「しかし父上、師匠は系統魔法はあまり得意では無いとおっしゃっていましたが?」
「うむ、それはそうなのだが現在打てる手もないし、経験豊かなマクスウェル先生ならば何か良いアイデアを持っているかもしれないだろう?」
そう言われると、僕も特に代案がある訳ではないので、師匠の所へ相談しに行くことにしました。
===
次の授業の無い日に、師匠のお屋敷を訪ねることのしました。その時、始めて知ったのですが、師匠は男爵家の屋敷ではなく、屋敷の近くの町マリロットに開いた私塾に住んでいたのでした。私塾では、貧しいメイジの子供たちに無償で、魔法を教えているそうです。
私塾を訪ねると、かなりみすぼらしい建物が建っていいました。建物の庭で、沢山の子供たちが楽しそうに遊んでます。ドアをノックすると、40歳位の男性が応対してくれました。
「こちらは、ノワール魔法塾ですが、何か御用ですか?貴族様」
「こちらに、師匠、いえマクスウェル先生がいらっしゃるとお聞きしたのですが?」
「ええ、こちらに居りますよ。もしかして、レーネンベルクの若様でいらっしゃいますか?」
「はい、ラスティン・ド・レーネンベルクです、マクスウェル先生にお会いできますか?」
その男性は表情を少し暗くして、師匠が今寝込んでいることを教えてくれました。
「2ヶ月前まではあんなにお元気だったのに、それで御加減は?」
「今は安定しておりますが、歳が歳だけに」
「そうですか、ではお見舞いだけでも、よろしいでしょうか?」
「はい大丈夫だと思います、こちらの居間でお待ち下さい、汚い所で申し訳ありませんが」
と、居間に通されて、しばらく待っていると、師匠がやってきました。大分やつれているようです。
「師匠、御無沙汰しております、御加減の方はいかがですか?」
「まずまずと言った所ですな、ラスティン殿、この様な所まで御足労おかけしましたな」
「師匠、僕には殿も敬語も不要ですと言ったはずですが」
師匠は少し嬉しそうにすると話を続けた。
「そうじゃったな、してワシに何の用じゃ?」
「少しお知恵を貸していただきたい事があるのですが?」
「さしずめ、系統魔法でうまく行かない系統があるといった所かの?」
「師匠には、なんでもお見通しなのですね、はい土系統に行き詰っています。初歩の錬金がうまく行かないのです」
師匠は、しばらく何か考えた後、後ろにいた男性に、
「クロード、裏庭から石を何個か拾って来てくれるか?」
男性(クロードさん)はうなずくと居間から出て行き、しばらくすると石を何個か持って戻って来ました。師匠は石を受け取り、それをテーブルの上に置くと僕にこう命じました。
「それではこの石を青銅に変えてみなさい」
「はい、やってみます」
一応言われた通り錬金のルーンを唱えてみましたが結果はやはり失敗でした。魔力がすり抜けていく感じで、石に何の変化も現れません。師匠は難しそうな顔をしています。
「ふむ、ルーンの発音や魔力の放出には問題はないようじゃの、これはラスティンの今の教師も悩むはずじゃな」
「もしかして僕には土系統が向いていないのでしょうか?」
「そうとは限らんのう、錬金だけが不得意な土メイジがいてもおかしくはないじゃろうからの、一度試してみるか?」
そう言うと師匠は、僕を建物の裏庭に連れて行きました。
「これから、ワシが唱える魔法をよく見ておきなさい」
というと、ルーンを唱え始めました。
「石礫(ストーン・バレット)!」
の声と同時に、地面から小石が何発も弾丸のように打ち出されます。初歩の土呪文の石礫の呪文のようです。
「では同じ呪文を唱えてみなさい」
「石礫(ストーン・バレット)!」
と僕が唱えると、勢い良く地面から小石が何発も弾丸のように打ち出されます。やった!出来るじゃないか!と僕が喜んでいると、
「基本は大事だが、それに縛られていては進歩はないからの、初歩とは言え土系統魔法が成功するのじゃから、何かの切欠で錬金も出来るようになるじゃろ、焦らないことじゃ」
と師匠が、穏やかに呟いた。そうか、何かの切欠か、と僕が思いに耽っていると、師匠が思い出したように、
「”錬金”か、それならば、ガストンが専門だったな」
「師匠、そのガストンという方は?」
「ワシの弟子の一人での、鉄鋼の町ワーンベルで錬金の研究をしている変わり者じゃよ、紹介状を書いてやるから、一度訪ねてみるといい」
「はい師匠、今日は大変役に立つ修行ありがとうございました、このお礼は何時かさせていただきます」
「そうか、期待させてもらおうかの」
それからしばらく私塾の話をして、よい時間になったので、帰ることにしました。
===
屋敷に帰ると早速父上に、師匠との話を伝え、”石礫(ストーン・バレット)”が使えたことを報告しました。父上は大喜びで、さすがはマクスウェル先生と何度も頷いていました。
そして次回のアルノー先生の授業からは錬金を飛ばして、より高度な土系統魔法を習う事になりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます