魔法の正しい使い方
蒼樹
第1話 魔法使いにとって、季節は作るもの。
『昨夜、新たな魔法使いが認定されたことにより全国の公認魔法使いの数は1000人を超えました。』
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半年前、突如現れた『魔法使い』。その人物は、中学3年生の男の子だった。
『魔法使い』が現れた、というニュースは瞬く間にSNSなどを通して全国に広まり、テレビなどでも多く取り扱われた。
それからも、『魔法使い』は増え続け半年がたった現在では、1000人を超えた。
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そんなニュースを寝ぼけ眼で見ている彼―
高谷が使える魔法は『季節を変えられる魔法』。使い道は…全くない。夏場暑い時に体の周り3cmくらいを秋やら春やらにすると少し涼しいくらいだ。
しかし、全員がこんな可愛い魔法な訳では無い。物理法則を操る魔法もあれば、目視している物を自由に動かすことが出来るものもある。
魔法使いがテレビを賑わせているのは、魔法使いによる殺人事件なども数は少ないものの存在するからだ。
20XX年、4月。一つ学年が上がり、今日から高校二年生になるという朝。彼の部屋では-10℃を観測した。
「なんだこりゃぁぁ!」
大きなくしゃみをしながら1cmほど雪が積もった部屋を見渡す。服は濡れ、体は凍えている。
どうにかしないと、と思ったその時、無意識に口が「季節、夏」と唱える。
途端に部屋は、温度が30℃まで上昇し、雪は溶け部屋を濡らした。
こうして
原理はわからないが、寝て起きたら魔法使いになっていたのだ。
ちなみに、始業式から1週間、風邪によって休むことになり、見事クラスから浮いた存在という地位を獲得した。
同年、7月。
珍しく真夏日となり、20℃を超える気温で、暑さに耐えながら休み時間に本を読んでいた。
バン、と勢いよく開かれたドアから1人の女子生徒が入ってくる。
「あっ、
「
「
と笑顔を振りまき、クラスの人気者から自分と同類であろう本を読んでいるだけの人にまで話しかけている。きっと、あの女子生徒自身も人気者で、人脈が広い人なんだろう。僕とは無縁の存在だ。
再び本に目線を落とす。
その時、視界の端に手と、先程まで見ていた女子生徒の顔が映った。
「たかや君だよね!」
満面の笑みで話しかけられる。
「僕のことか?僕は高谷と書いて『たかたに』って読むんだ」
目の前の女子生徒は、はっとした顔を浮かべ、直後また笑みに変わる。
「あっ、そうなんだ!ごめんね!」
いや、別にいいよ…と言おうとしたところを、彼女の言葉に遮られる。
「君!魔法使いなんだって?」
クラスの喧騒が一瞬止む。僕は魔法使いであることを公表している訳ではないし、友達もいないからほぼ誰にも言っていない。当然と言えば当然の反応だ。
「うん、そうだよ。と言っても全く使えない魔法だけどね」
…クラスメイトの目線が痛い。嘘を付くなよ、という目が7割。馬鹿にした目が3割。
だが、目の前の彼女はキラキラした目で僕を見ていた。
「ねぇ!今日!暇!?」
物凄い勢いで聞いてくる。
「う…うん、暇だけど…」
自然とこちらも引き気味になってしまう。
「放課後!校門で待ってるから!」
そういい、鼻歌を歌いながら嬉しそうに教室を出ていく姿を、僕もクラスメイトもぽかんとしながら見送った。
その後は、昼休みいっぱいかけてクラスメイトからの事情聴取が待っていた。
ほんとに魔法使いなのかよ?嘘ついてんじゃねーぞ?今まで隠してたの?等々…
しかし、そんな質問には答えていられないほどに僕は驚いていた。人気者の彼女が僕を校門で放課後待っている?現実味のない話だ。
「おい!魔法使いって本当なのかよ!」
と、大きな声でクラスのガタイのいい男子が話しかけてくる。名前はわからない。
「うん、本当だよ」
隠すことなく素直に打ち明けても、周りは疑いの眼差しを向けてくる。
(季節を変えて見せようか…)
と思ったところで授業の始まりを告げるチャイムがなり、先生が入ってきたので、周りの人だかりは散り散りになって席に戻った。
午後の授業は何事も無かったかのように進み、放課後。
掃除を適当に済まし、足早に校舎を出る。
校門で待ってると言った彼女は、人だかりの中にいた。
「あっ!きたきた!」
昼休みと同じような満面の笑みを浮かべ、小走りに近づいてくる。
「ごめん、待たせた?」
「いや!ぜーんぜん!」
1度、人だかりに向かって「じゃーねー!」とひと声掛けてから、僕の方を見て
「それじゃ!行こっか!」
と言ってくる。
「…ど、どこに?」
「私の家!」
この時、僕は彼女がなにを考えてるか分からなくなった。
「君の名前も知らないのに、急に家に来いと言われても…」
「あっ!ごめんね、私は
校内で有名な人など知らん。なにせ友達がいないんだから情報が入ってこないんだ。
「わかった。ところで夏樹さん、なんで僕を家に?」
「んー、まぁ家ついたら話すね!」
会話はそれっきりだった。僕は会話を始められるようなタイプじゃないので、相手が黙ってしまうと会話は自然と無くなる。
「つーいたよ!」
学校から歩くこと10分。随分と近い。
「入って入って〜」
高校に入ってから初めての、女子…いや、人の家に少し戸惑う背中を押してくる。
こうして、僕は彼女の部屋に招待された。
続く
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