@01391364

第1話

一匹の蟻が、仲間達と、真夏の日差しの中、バッタの羽を掴んで引っ張っていた。

(あーあ。どうして今こんなことをしなければならないんだろ)

彼は、別に今貯蓄している食料だけで十分だと胸の中で呟く。贅沢をしたいわけではないのだ、と。

しかし他のみんなも働いている。誰しもこのようなことを考えているだろうに、まだ獲物に群がる。

ばたり、と誰かが倒れた。しかし、そこへ手を差し伸べる余裕とて、みんなにはないのである。結局、そいつは置いてけぼりにされて、のたれ死ぬのだろう。

(こんなことに、意味があるのか)

一匹の蟻は、ますます懐疑心を深める。ゆっくり休んでいた方がいいのではないか。そっちの方が実際みんなで生き延びることができるかもしれない。

(しかも)

その蟻はため息をつく。本当にぐうたら寝てばかりいる奴も、いるにはいるのだ。しかし、彼らは侮蔑の眼差しを受けることはあっても、死ぬことはない。

(俺もあちら側に混ざろうか)

何度そんなことを考えたか分からない。土の中の涼しい部屋で、好きな時に食べ物をつまめばいいのだ。こんな危険な仕事を放棄すると、たちまち桃源郷へ渡る切符が手に入る。

(………)

周りを見回す。みんな黙々と羽を運んでいる。疲弊しきっているから、蛙などでもやって来たらひとたまりもないだろう。常に、死と背中合わせだ。

これが「普通」であるということに、その蟻は憤りを覚えている。それでいて、この場でそんなことを叫んでも無駄だということもよく理解している。盲目的でなければ、成り立たないこともあるものだ。


巣への入り口が見えて来た。もう少しだ、もう少し。その蟻の顔は自然に緩む。この瞬間が幸せである。

結局、今回の狩りも、会話という会話は誰もしないままに終わった。

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