ガーゼ

 砂山の頬のガーゼを剥がしたら、どす赤い傷が現れた。砂山は読んでいた本からゆっくりと顔を上げて、私の顔を見る。

「どうして剥がすの」

「ごめん」わたしはとりあえず謝った。「ひどい傷だねぇ。痛いでしょう」

「返して」

 砂山はわたしの手からガーゼをもぎ取り、自分の頬に当て直した。一度剥がしたテープは、粘着力をだいぶ失っていたらしく、ガーゼはほとりと落ちてしまう。

「痛そうだねぇ」

 わたしは砂山の傷をしげしげと眺めた。こんな規模の傷を間近で見るのは初めてでったので、興味があったのだった。できれば触ってみたかったけれど、そんなことをしたらさすがに怒られるだろうな、とわたしは賢いので判っていた。うっかり触ってしまわないように、背中に回した自分の手を自分で握っておいた。

「痛そうだねぇ、じゃないよ」砂山は苛だたしそうに、わたしを睨む。「あんたが剥がしちゃった所為で、手当てをし直さなくちゃならんくなったじゃないか」

「ごめんね。悪かったよ。申し訳ない」

 わたしはとりあえず謝った。だいたい、謝っておけばなんとかなるのだ。なんで謝るのか、わたしが判っていなくても。

「空っぽだね」

 砂山は言う。

「空っぽの言葉だ、そんなもの」

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