ガーゼ
砂山の頬のガーゼを剥がしたら、どす赤い傷が現れた。砂山は読んでいた本からゆっくりと顔を上げて、私の顔を見る。
「どうして剥がすの」
「ごめん」わたしはとりあえず謝った。「ひどい傷だねぇ。痛いでしょう」
「返して」
砂山はわたしの手からガーゼをもぎ取り、自分の頬に当て直した。一度剥がしたテープは、粘着力をだいぶ失っていたらしく、ガーゼはほとりと落ちてしまう。
「痛そうだねぇ」
わたしは砂山の傷をしげしげと眺めた。こんな規模の傷を間近で見るのは初めてでったので、興味があったのだった。できれば触ってみたかったけれど、そんなことをしたらさすがに怒られるだろうな、とわたしは賢いので判っていた。うっかり触ってしまわないように、背中に回した自分の手を自分で握っておいた。
「痛そうだねぇ、じゃないよ」砂山は苛だたしそうに、わたしを睨む。「あんたが剥がしちゃった所為で、手当てをし直さなくちゃならんくなったじゃないか」
「ごめんね。悪かったよ。申し訳ない」
わたしはとりあえず謝った。だいたい、謝っておけばなんとかなるのだ。なんで謝るのか、わたしが判っていなくても。
「空っぽだね」
砂山は言う。
「空っぽの言葉だ、そんなもの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます