八の字の眉

 スーパーで買い物をしていたら、困っている様子の人間を見つけた。その人は精肉コーナーで、戸惑うように手を出したり引っ込めたりしていた。見ると、ひき肉のパックをつかもうとしているのに指がすり抜けてしまうみたいだった。

「どうなすったんですか」

 私はその人間に声をかけた。力になってあげられるかな、と思って。人間は私を見た。ものすごく困った顔をしていた。眉が綺麗に八の字になっている。

「取れないんですか肉が」私は人間の手元を一瞥した。

「取れないんです、肉が」人間はこくりと、悲痛に頷いた。「どうしてかな。判らなくって。今日はハンバーグを作ろうと思っていたのに、肝心のひき肉が買えなくては……」

「代わりに取ってあげましょうか」

 私は、ひき肉のパックをひょいと手に取った。人間のカゴにそっと入れてあげる。人間は目を丸くして、それから「ありがとう」と掠れた声で言った。人間の顔を伺うと、八の字の眉のまま微笑みを返された。私も微笑んでみせると、人間の、寄せられていた眉間がふわりと緩んだ。

「ありがとう」

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