多分、悪魔の子。

@hitsuji_sekaikan

多分、悪魔の子。

翼を持てと誰かは言うが、私には皮肉にしか聞こえない。

人間には、持てる量が初めから決まっているらしく、翼などという余計なものを持ったがために、私には足りないものがいくつもある。こんなもの、役にたった覚えはないのに。

そもそも、私は人間なのか?私のような存在は、もともと、人ほども持てない、他ほど持てない、許されないのかも知れない。


私は人間と天使の間に生まれた。両親のことは、もう、覚えていない。


周りに合わせるので精一杯で、人らしく振る舞うのはうんざりで。それに、みんな何考えてるか分からない。みんなまっさらで、本当の気持ちが見えてこない。私にはやはり何か欠けている。

だから、今日も静かな図書室へ

「みおりー」

と思ったら話しかけられた。


「ハァー」

ため息が漏れる。

人間のような名前を持つことにすら、ずっと違和感を感じていた。砂を噛んでいるようなとてつもない違和感とともに生きている。

私は何者か?

「どうしたの?そんなぼーっとして」

「いつものことでしょ?」

「そうだけど、今日はいつもより…凄い顔してたよ」

「寝不足なだけだよ」

「あ、そういうことか。確かにすごいくま」

いつも気さくに話しかけてくる里穂だけど、私には迷惑だ。悪気はない、それどころか、友だちのいない私に対する優しさなんだろうけど、人と関わっていける気がしないから。

「ちょっと、図書館いってくるね」

「あ、そう。わかった」

今日も静かな図書室へ向かう。図書室の隅っこのぼろい椅子へ。


本なんて持たずに直行する。速く、いつもの席へ。焦るぐらいなら、本を探すフリとかすればいいのに、とは、自分でも思う。でもなんだか、興味のない本を手に取る気はしなくて。

いつもの、本棚に囲まれた窓際の席…

「あっ」

珍しく、今日は先客がいた。誰かがいるとは思ってなかったから、少しドキッとした。本を持って来ればよかった……。

彼にも居場所がないが無いのだろうか?そうでもなきゃこんなところには、いや、それは私の偏見か。

背中に暖かい春の日差しを受けながら、彼はただ本を眺めていた。集中力のない視線は窓を見たり、本棚を見たりして、そして私と目があった。

『こいつ、友だちいねぇんだな』

っていう目をした。

「どくよ」

「あ、いえ、構いません」

体格や様子から、3年生、先輩だろう。

何だろう、初めて暖かいと感じた。

痛々しい黒色が、朗らかな優しさに見える。彼の心の内側は、見える気がする。

隣の席に座った。お煎餅を食べるようなな音がした。

彼も椅子をバリバリ鳴らしながら、

「あんた、何なの?」

その答えは私が一番知りたいけれど、それをそのまま言葉にしようとすると何故か

「ふふっ、何でしょうね」

私の言葉に、産まれて初めて優しい抑揚がついた。

彼が私から逸らした、なんだか少し悔しそうな目は、恥ずかしがり屋の小悪魔ちゃんってかんじだった。

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