異世界には夢が在った

カオミラ

第1話 その名はユビート


俺は追われている。

魔王軍の手下…暗殺を試みようとする雇われた殺し屋…。


その類のモノなら格好も付いたかもしれない。

俺が追われているのは…



「待て!!いい加減家賃を払えって!!これ以上は母ちゃんの怒りを抑えらんねーんだってば!!」


「お願いだからもう少し!もう少し待ってくれ!」




…住ませてもらってるアパートの、家賃滞納が原因の追っ手…だ。





俺は指糸。 里山 指糸。ゆびいとという変わった名前を持つ。

まだ高校生活を謳歌しきれてないただの男子高校生だ。


んでさっきから俺を追ってるのが 三代 宗馬という住ませてもらってるアパートの大家の息子だ。



「よし捕まえた!!」


「ちょっ…速…」


「はぁ、はぁ、おま…にげ…すぎ…」


「こっちも…必死なんだよ…」



「はぁ、はぁ…ふう。 あのな指糸。お前のことは昔から知ってるし母ちゃん達もお前のことは小さい時から知ってる。

それに…お前の母ちゃんが死んじまって 親父さんもお前置いてどっか行っちまったのもちゃんと分かってる。

でもよ、一応親父さん仕送りはまだしてくれてるんだろう?

その中に家賃もあるはずだ、なんで全部使っちまうんだよ!」


「それは…本当にお前の母親…大家さんにも悪いと思ってる…。でもよ、理由がーー…。いや、これは言えねぇ」


「…なんかやばいことしてんのか? 友としてそれは相談に乗るぞ」


「…大家さんに謝っといてくれ、来月こそはまとめて必ず払う。頼む。」


「いや…でもよ…。 …分かった、今月も何とか適当に言っとくよ」


「すまん、三代。恩に着る」


「今月までだからな!…後やばいことには手を出すなよ」


「ああ…」

(悪いな三代。それは守れそうにない…)





「ただいま。…家入る時大家さんの目がちょっと痛かったが…分かってくれてるみたいだった。

…ただいまか。お前を見つけてからまた言うようになったけど慣れないな」



「みゃー」



「よしよし。でもこいつ…本当に人の言葉が分かってるとしか思えないんだよな、俺が今までの人生で見てきたどの生物とも違う姿形をしてるし…」


「みゃー」


俺は先月あたり。こいつを拾った。

多分猫。俺の見たことのない猫。猫。猫と信じてる。

ぶっちゃけUMAとか幽霊とかは信じないクチだが…

実際目の当たりにしてみろ。信じるしか無くなるぞ。

猫としか俺の中でこいつを言い表す言葉がないから猫にしてるが…なんだこいつ


「どうみても翼…だよなぁ。んでよく食うよなお前。 おかげでこちとら今月も家賃払えなかったんだぞ…」


「みゃっみゃっ」


美味そうにキャットフードを食べる。

…ならいいんだ、こいつが食べるのはなんとお菓子。

しかも一度に相当大量のお菓子を要望してくる。

…金がもうないのはこのためだ。俺の2日分の食費を一度に使ってくる。


「おいみゃー。食ったら片付けて手を洗ってこい」


「みゃー」



そしてこいつは完全に俺の言葉を理解している。

猫の体、鳥の翼。でも犬みたいに懐っこい。

翼をパタパタと使いシンクに飛び移り蛇口を尾を使い回し手を洗う。そして食べたゴミ袋は咥えてゴミ箱へ吐き出す。


…俺より出来てる。



「…やっぱ大人に相談すべきなんかな」


「!みゃー! みゃっ、みゃみゃみゃ!」


「すっげー嫌がるんだよなそれ言うと。…なあみゃー。

お前、本当に地球の生き物なのか?」


「…」


「おふくろが2年前死んだ。 でも死因もわからず遺体すら見つかってねーんだ。もちろん生きてる可能性もつまりある。けどもう死んだと思って諦めてる」


「…」


「なんか知ってたり…。ってわけねーか。

ただの猫と鳥の新種みたいなもんだろ。俺が知らねーだけだ」


「…みゃっ!」


「ん?」


「みゃっ、みゃー」


「お、おい、引っ張るなって…

扉?開けんのか?」


「みゃー!」


「あんま鳴くな、大家さんにバレたら…」


「みゃっ!」


「わ、分かった。開けるから…」


俺はみゃーに流される様に 玄関の戸をいつものように開けたーーー。








降り注ぐ太陽の心地良い陽射し。

辺り一面は人で溢れ賑わう街並み。

獣の耳を生やした女の子、剣を持った大きな剣士。




「ここ…は…」


「みゃー」




俗に言う「異世界」。

俺が本の中でしかみたことのない「夢」の世界だった。




「…アホらし。思いつめてついにこんな妄想まで繰り広げるようになったか、俺の脳味噌も。」


「みゃー」ツネッ


「痛っ…え?痛い?」



「おう兄ちゃん どいてくれよ」


「なんだ?あー向こうの世界の子供か」


「かわいいエルフ連れてんじゃねーか!」



沢山の見知らぬ大人たちに絡まれる。

なんだここは、どうなってる。

俺は普通にいつも通り玄関を開けただけで……みゃー?


「おい…みゃー…どこ行った?」


周りの喧騒なんて気に留めなくなった。

ここに来て襲いかかる。「孤独感」。


「猫1匹いなくなっただけでこんなに不安になんのかよ…っ

おい、みゃー!」




「大きな声を出さなくても君は見えてるよ、ユビート」


「え…?」


ユビー…ト?



そこに立っていたのは…

二本の剣を腰掛けた、三代 宗馬だった。


「み…しろ? 何やってんだお前まで…こんな…」


「みしろ?誰の話をしてるんだい、ユビート」


「さ、さっきからユビートユビートって…俺は指糸だ!」


「ゆびいと?…発音間違えてた?僕。 君と出逢って十年以上経つけど、ユビートってずっと呼んでたんだけどな」


「ぼ、ぼく? お前…頭がおかしくなったのか!?」


「ユビートこそ落ち着い… あれ?ユビートじゃない…

魔力を全く感じない…まさか君… 。

よし、分かった。ちょっと付いて来て」


「お、おい、三代!?」






「…」


「落ち着いたかい? ここは僕の家。今君が飲み干したのはハーブティーの様なものだ。落ち着くだろう?」


「なあ三代…じゃないんだろ、もう分かった。

アンタは一体?ここはなんなんだよ…」


「まずは僕のことからだね。

僕はソーマ。レイズ・ソーマ。王都に仕える王宮騎士だ。

そしてここは「王宮都市」。君達の世界で言う「東京」だね」


「と、東京…!ここは東京なのか?」


「いいや、正確には違う。

ここは東京と同じ空間にあるけれど東京ではない。

まあ簡単にざっくり言うとさ。

ここは君たちにとって「異世界」。

そして、君らの住む世界地図の裏側さ。」



「…は?」


「これを見てごらん」


ソーマとやらが突如出したのは俺らのよく知る世界地図。

日本がありアメリカがありロシアがある。よくある世界地図だ。


「これが君たちの世界。分かるよね?」


「ああ…」


「そしてこれが…」



ソーマが世界地図を裏返した。

すると…裏側には、さっきと全く同じ世界地図が描いてあった。紙の裏表に世界地図が描いてあったことになる。


「さっきと同じ世界地図じゃねーか」


「ううん。よく見てごらん」



ソーマに促され俺は文字を見る。

するとどうだ。東京と書かれてなきゃおかしいところに…


「王宮…都市…」


「そ。ここは君らから見て裏の世界。僕らから見て君たちが裏の世界。

星は同じ地球でも表裏で僕らは別れて生きてたのさ」


「そんな…こんなこと…」


「でも君たちの世界の住人はこちらを知らない。君のようにね。

僕らには魔力と呼ばれる…つまり魔法だね、魔法のような力がある。

だから向こう側の空間も感知できてる。

だから向こうから人がこっちに転がり込んでしまうことがあっても別に驚きはしないのさ。

君たちが神隠しと呼ぶ現象もこの空間落ちだね」


「…それってさ、こっちから俺らの空間に落ちてくることも…」


「うん、あるよ」


「なら…猫…翼の生えた猫がいたんだ。俺らの世界じゃそれはありえねぇ。ここの生物ってことか?」


「猫?」


「あ…待ってくれ、写真がある」


携帯を取りだし撮っておいたみゃーを見せる。


「あーこれはエルフだね。妖精種のひとつだよ。

あ、妖精種って言うのは君たちで言う「日本人」「アメリカ人」みたいなものさ。

僕らは魔力で生きてる。魔力の届かないそちら側の世界に落ちたら魔力消費を抑えるためにエルフはそう言う動物の姿に変えるのさ。」


「ここに来たのもこいつが扉を開けろってうるさく鳴いて、根気に負けて自分の家の扉を開けたんだ。そしたらここについて 振り向いても扉はもうなかったんだ」


「うん、なるほどね。」


「あとアンタに良く似たのが俺の友達にいる。

偶然か?」


「そういえば僕にあった時みしろとか言ってたね。

これはまだこの世界の人たちもあかせてない事実なんだけどさ

そっちの世界とこっちの世界はリンクしてるところもあってね。

そっちの地球に70億の人がいるとするだろう?

そしたらこっちも70億いるんだよ

つまり…」


「俺たちの世界の人間…つまり俺の言う三代が俺たちの世界のソーマで…こっちの世界のアンタが俺たちの世界でいう三代ってわけか」


「凄い頭いいね君。こんな状況でも全く怯えず冷静だ」


「…もっと怖いものを知ってるからな」


「…?」


「とにかく…つまり、こっちの世界の「俺」に当たるやつもいるわけだよな?」


「ああ、でも世界は広い。人の寿命では1秒に1人会ったとしても全員に会うことはできないと言われてる。

でも君は運がいい、ユビイト。」


「俺のこと「ユビート」って呼んでたよな…

まさか…」


「ああ、そのまさかさ」







ー王宮ー



「いたか!?」


「いいや、逃げられた!」


「く、くそ…若様…あなたはお父上の立場をなんだと思ってらっしゃる!!ええい!はようさがせ!」


「はっはい!」




突然だか俺は追われてる。

魔王軍の幹部、俺の力を欲し狙うラスボス。

そんなのならカッケーんだろーな!


…でも俺を追ってるのはジジイどもだ。

親父が俺の監視と世話役に当てた死にかけの魔法使いどもだ。



俺は親父の後なんか継がねぇ。

俺はこの世界の真理を解き明かすんだ!



「俺の名前はーーー」



ドンッ…と大きな音をたて誰かとぶつかる。



「うわあっ」


「だ、大丈夫かいユビイト」



「お、すまねぇ誰か知らないけど今度詫びるよ!」


「…はあ、やっぱり君かい。ユビート」


「んあ?ソーマか! 俺を捕まえる気か!?」


「いや、今日は非番でね。

でも別件で君を探してた」


「別件?何の用だよ」


「紹介しよう。君がずっと探してたもう一人の「君」さ」



「…え?」


「な、なにっ?」



「「こいつが!?」」

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