異世界社会主義革命

角口総研

余は凶弾により死にて候

 ――某国某日にて

「通信途絶!」

 時勢に応じて攻勢に出る西側勢力。中立地帯であろうとお構いなしに進軍してくる。

 公にしてはならない作戦であるため任を受けたのは当然、特殊部隊である。秘匿性を保つためのバラグラバを着用したつわものが制圧行動にでる。


「帝国主義者め! 勝てば官軍とでも言いたいのか」

 シノダの発言は完全に自分らを棚上げしたものである。中立条約を無視した火事場泥など彼が標榜するソヴィエト・ロシアのお家芸なのだから。

「連中……恐らくはあのSAS」

「やべぇよ、やべぇよ……」「どうする、どうする……」

 迫りくるのは世界最強の特殊部隊。それに対してシノダ率いる革命義勇軍は単なる烏合のゲリラに過ぎない。まさに絶体絶命。

「同志らよ、弱気になるな。まだ手はある。奴らの目的は私だ。私が正面から活路を拓く。その間に同志諸君は脱出を試みろ」

「そんな、同志シノダを囮にするなど!」

 皮肉な話である。シノダは自ら悪書としていた葉隠にあるが如く自らのイデオロギーのために殉じようとしていた。

 彼は米帝の犬に成り下がった母国を、革命に失敗して捨て去った母国を何よりも軽蔑していた。

 そんな彼がカミカゼを敢行すると言うのだ。

「さらば同志、革命の火を絶やすな」

 ベトナム戦争よろしくゲリラが精強な正規軍を返り討ちにした例は枚挙にいとまがないがない。

 たとい最後の一兵になろうとも市民が味方である限り希望はあるのだ。


 ワイヤーと粘着爆弾を用いたブービートラップで時間を稼ぐも気休め程度にしかならない。

 だが、シノダは同志らの撤退に必要とする時間が稼げたことに十分満足していた。

 突入した敵部隊はシノダを確認すると正確に狙いを着けて機械的に引き金を引いた。

「урааааааааа!!」

 発砲音が廊下を抜けて木霊する。

 一矢報いるべくシノダも応戦する。しかし、歴戦の猛者たる最強の特殊部隊相手に早撃ちで勝てるはずもない。

 無数の弾丸がシノダを貫く。

「エネミーダウン、敵指導者と思われる男の無力化に成功」

「別動隊は敗走した敵の残存勢力の掃討に当たる。諸君らは男の身元を確認しろ。以上オーバー

了解サー

「馬鹿な男だ。今さら共産主義など掲げて」「無駄口を叩くな。さっさと男の遺体を調べるぞ」

 この男のシノダ評は尤もである。彼は自由主義陣営に与していたならそのカリスマから一代で大きな資本を築けていただろう。情熱を持て余したために生き方を変えることができなかったのだ。


 ――そして

 海岸に人溜まりが出来ていた。見慣れぬ格好をした男が海辺に打ち上げられていたのだ。

「おい、まだ息があるぞ」

「うっ……糞ブルジョアの犬どもめぇ」

 うわ言を繰り返しながら次第に意識を取り戻してゆく。

「おい、おっさんしっかりしろ。この指何本に見える?」

「三本……それよりもここはどこだ」

「ここはアトランティスだ。アンタ外来人だろ?」

 篠田玲人、灼熱の夏に第二の生を賜る。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る