迷宮の守り人
NEO
第1話 呪い
世界最強の生物。それが私たちドラゴンだ。それ故に、人間などの魔法使いに利用される事も多い。私もその一員だ。
「全く、ドラゴンが光り物が好きなどと、誰が吹聴して回ったのだろうな……」
私はため息を付いた。背後には宝物の山。この状態でこう言っても説得力はないだろうが、人間の喜ぶ宝物などに興味がない。人間の単位で少なくとも数千年前に呼び出され、この迷宮の最奥部に魔法で縛り付けられている。命令は1つ。「宝物を守れ」だ。
私を呼び出した当の魔法使いはとっくに死んでいるだろうが、この魔法というより「呪い」とでも言おうか、それは消えなかった。よって、私はこのジメジメした空間に取り残されている。全く、迷惑千万な話しだ。
「ん? 久々の『客』か」
とりあえず茶の1つでも出したいところだが、生憎それは出来ない。これから待っているのは、戦闘という作業だ。これは拒絶出来ない。呪いによって生み出された「もう1つの自分」が目を覚ました……。
「おい、いたぞ!!」
長剣を構えた青年に、いかにも魔法使いという風体をした人間が3名。斧を構えたドワーフもいる。恐らく、それなりに熟練した冒険者だろうが、この程度敵ではない。
連中が体勢を整える前に尻尾で一気になぎ払った。これだけで、パーティーのほとんどが壁に叩き付けられ、そのまま動かなくなる。
「回復急げ。動ける者は攻撃を!!」
叫ぶ青年を左前足で叩き潰す。リーダー格を潰せば、あとは烏合の衆だ。おなじみブレスを使うまでもない。大混乱に陥った「客」をあしらうのは、大した作業ではなかった。
「ふぅ、また下らない殺傷を……」
私は大きくため息をついた。この迷宮には様々な連中がおり、蘇生を生業としている者もいるようだが、さすがにこの階層までは入ってこない。つまり、この死体はそのまま朽ちていくだけだ。
……そして、「もう1つの自分」は消えた。
「また、こんな事を……」
目の前の惨状を見ても、泣かなく……いや、泣けなくなったのはいつからか。
ドラゴンと言っても大きく両派に別れる。戦うのが大好きな武闘派と、戦いはなるべく避けたい穏健派だ。私は後者である。何でもかんでも戦いたいわけではない。この呪いさえなければ、私はこんな財宝など守らないのに。無駄な殺生などしないのに……。
この財宝の噂は人間の間では有名らしく、1ヶ月に1回くらいは「お客」が来る。それを撃滅した回数は、1000を越えた辺りで数えるのをやめた。不毛だからだ。
「はぁ……」
嫌でも戦う呪いに支配されている私だ。しかし、敵が無力化されればただのドラゴン。せめて、自らが殺した死体の弔いくらいはさせてもらおう。死体を積み上げてブレスで焼く。罪滅ぼしにならない事くらいは、私だって分かっている。しかし、これくらいしか出来ないのだ……。
迷宮の中は気温が一定である。最奥部にいる私には季節を知る事も出来ないが、やってくる冒険者たちの服装をチェックすれば、大体分かる。今は冬か……。
いつも通り、忌々しい「もう1人の自分」が目覚めた。
今回のお客さんの数は8名。珍しく魔法使いはいないようだ。
「ソイヤ!!」
そのうち1人が私の体を斧で叩いたが、分厚い竜鱗はそんな攻撃を易々と弾いてしまう。 逆に、斧の方が折れてしまった。私は体を揺さぶってその人間を地面に落とすと、すかさず踏みつけて黙らせた。
「な、なあ、全員戦士ってやっぱり無理が……」
呪いに抵抗して激痛が走る中、私は何とか警告だけは出来た。
「に、にげ……て……」
しかし、遅かった。私の口にエネルギーが集中し、ドラゴンの証であるブレスが炸裂した。残りの人間を消滅させるのに十分過ぎる程の……。
「ああ、また……」
いっそ殺して欲しい。そう思う瞬間である。しかし、そこまで腕の立つ人間が来ない。普通の冒険者ではなく特別な存在である「勇者」と呼ばれる者でさえ、それを屠った数は50人を越える。お陰で人間の間では「魔竜」だの「悪魔」だのと、色々言われていることは分かっている。こうしてやっている事を見れば、そう呼ばれても仕方がない。いくら本意ではないと言っても、誰も聞かないだろう。
「完全に狂ってしまっているならいいのに、『本来の自分』を残すなんて…… 」
私を縛り付けた魔法使いに問いただしたいが、もうそれは叶わないことだ。1つ言えるとは、この魔法使いこそ本当の「悪魔」だと……。
こんな事をいつまで続けるのだろうか? 私たちの寿命は数千年とも数万年とも言われているが、少なくとも私の周りで寿命を迎えた者はいない。男の方が長生きとも言うが、真相は分からない。……あっ、一応断っておくが私は女だ。口調が男臭いのでよく勘違いされる。名前はない。必要ないからな。
「しかし、殺戮したあとでこんなに冷静なのも、『本来の自分』も狂ってきているのかもしれんな。昔は推定3日は泣いていたものを……」
私の苦笑いを見た者は誰もいなかった。そう、ここは孤独の地。私以外に誰もいないのだから……。
こうして、迷宮は再び眠りについたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます