ニート気質な私、なぜ『俺』はこんなことをやっている?

@Makai13524

理不尽さを謳歌してみましょう。

 私はこの世に生きる上で、はっきりとした目標が一つある。

 それは生きている間自由を謳歌し、死ぬまで自由を謳歌することだ。

 …少しばかり訂正しましょう。別に私は何かの革命家でもないし、この二十一世紀において自由なんてものが通用しないことは理解している。だから私は私の人生を語るとき、とある漫画の人物の名言を借りることにしている。

 『植物のような人生』。そう、元からは若干異なった言葉だが、私の人生目標はこの一言に尽きる。これを言っても分からない人間には適当に言葉を濁すのが吉である。わざわざ一から説明するぐらいなら第四部を読めと言うし、そして女子仲間でそんなことを言われれば最悪周りからの評価が少し下がる。あの丸出しの彫刻を元にしたような絵を好きという女子は少ない。そして残念なことにそういった類の人間はクラスにおいて主流のグループとはなりえないのだ。

 長々と語ったが私が目指す人生とはそういうものだ。激しい喜びも無ければ深い絶望も無い。と言っても別に個人的に趣味がないわけでは無い。もちろん殺人趣味じゃないよ?人の手を日常的に持ち歩くような人間にはなりたくない。私が興味を持っているのは二次元が関わるあれやこれやである。まぁ典型的なオタク趣味といやつだ。

 さて、ここまで言ってもらえれば分かると思うが私は争いというものを好まない。今年受験生である十八歳となるまで、明確な目標を持つ前の段階から徹底して私は模範的というべき人間像を作り上げてきた。成績は優良、部活でもそこそこ賞などを取る、生活態度も良好、人間関係良し、性格も人付き合いの良いと言っていいだろう。

 決して波風立てぬよう必死で頑張って来た。だがいつでも波乱というものは他所からやってくるものだ。全くもって腹立たしい。なぜ私がこんなことで一々頭を悩ませなければならないのか。

 問題は一つ。今現在私が所持しているスマートなフォンに送られてきたメッセージ。ここまで長かったので完結に言おう。付き合ってくださいという類のものだ。

 別にそれ自体はまぁよくあるものと言っていいだろう。何といっても私の人生設計の中には私の私自身の容姿も入っている。決してクラス一番などではなく、目立たない程度に、しかし女友達から適度に褒められる程度に。当たり前だ、そのために時間も金もかけているのだから、効果が出てもらわなければ困る。私が巧妙に隠しているように見えて実は割とすぐに探りだせるブックマークの中には美容関連のものが大量に入り込んでいるのだ。

 今回の件はその効果が男子に対してもしっかり働いている証拠ともいえる。決して悪い話ではない。そして私は従来色恋に対して全くと言っていいほど無頓着なのだが、あまりにもなさすぎるのはそれはそれで目立つ。今までだって交際の一度や二度はしたことがある。

 そして送って来た相手。別に悪い人間ではない。そもそも私は男に対してほとんど要求するものは無い。顔も体系もキモデブだって構わない、むしろ私としては話しやすそうな人種だ。それもこれも私がキモデブ系やらおっさん系の同人誌がそこまで嫌いでもないことに所以する…いややっぱりやめよう、乙女のする話じゃない。

 話がそれてしまったが、相手の男子は決して悪い人間ではない。顔もそこそこ、運動部で体はしっかりしてる。性格だって悪い人間を思い浮かべれば悪くないだろう。むしろ良い部類なのだろうか、色恋となると全く興味がないためどうとも判別できない。告白をメッセージだけですませるなんてどういうことかと思う人間もいるかもしれないが、最近の若者はそんなものである。校舎裏だの放課後の教室だの今時似合わない。そもそもどっちとも意外と人間がいるものである。屋上は封鎖がデフォなので論外。

 では一体何が問題なのか。一体私は何を悩んでいるのか。答えは簡単である。ここまで長々と言っておいてなんだが簡単なのである。

 この男子、友人の女子が狙っている男子なのである。

 もちろん私もこの男子を狙っていれば喜んで返事をするだろう。だが何回も言った通り私はそういったことに興味がない。となれば解答は一つ。そう、改めてここまで長々と言っておいてなんだが答えは決まっている。

 もう受験生だから今はそういうことをしている余裕がありません。申し訳ありませんが貴方との交際は不可能です。これをやんわりとした口調で伝えればミッションコンプリート。日ごろの女子グループでの権力争いに比べれば軽いものである。

 それにしても受験生という立場は良い。ほぼあらゆることを合法的に捌ける。いや違法行為をしたことはないんだけどね?せいぜい十八歳以上のサイトに出入りしてたくらいだよ?

 まぁ何にしても終わったこと。今回の問題は実に簡単なものだったと悦に浸りながら、私は意識を眠りに沈めることを決めたのである。


 ―――どうしてこうなった。

 先日私が極々短時間の間に終わらせた出来事があったでしょう?え?短くなかった?無駄に長かった?。まぁご容赦下さい。人間心底やりたくないことのために長々としたエピローグを入れることがあるのです。そうしないと死んだ目で指一本も動かせなず、もう不貞寝してやろうという状況から立ち直れないことだってあるのです。

 だって考えても見てください。特に興味もない男子から何故か二時間ほど個人チャットで拘束されたと思ったら、何を勘違いしたのかいいムードと思ったバカから告白され、しかもその対象が友人の恋愛対象なのだ。めんどくさいことこの上ない。

 え?また長いって?当たり前じゃないか、なぜなら…

 いつものように教室に入って三歩ほど歩いた段階で、『昨日○○を振ったんだって?』などと聞かれた私は、死んだような目をしてその場を一歩も動けずにいるのだから。今すぐ帰って不貞寝したい。つまり再起動に少し時間がかかるのだ。

 まぁ何が起こったかは分かる。悲しいことに分かってしまうのだ。今回も起こった出来事は簡単。私がフった後、男がチャットで男仲間相手に広めたのである。

 噂と言うものは広がりやすいものである。特に人の不幸と色恋話は。あのクソ男子いつか締めてやると、私の中で告白してきた男子のランクを一段階下げておく。

 何にしてもとりあえずその場は曖昧なことを言って立ち去る。だが人の噂に蓋はできない。王様の耳はロバの耳というやつだ。程なくして、朝のホームルームを待つまでも無く、例の男子を狙ってた女友達にその出来事は知られてしまったのである。


 私の女友達の一人の話をしよう。

 彼女は、まぁはっきりと言ってしまえばパッとしない女の子だ。今時どこにそんなテンプレがいるんだと思うほどにザ・文学少女。縁の大きい黒ぶち眼鏡に、校則通りに切りましたと言わんばかりの揃った黒髪。得意科目は古典。私も時折お世話になっている。

 そしてどこまでテンプレを詰め込めばいいのか、休み時間は予習か復習をするか、さもなくばタイトルを読むのにも苦労する文学小説を読んでいる。

 もちろん人付き合いが苦手で、他人に合わせて相づちを打つ程度はできるが、陰口系の話になると露骨に顔がしかめられる。自分から話すのは苦手で、何度か会話の空気を止めたことだってある。言葉を選ばずに言うのならば、いつ虐めにあったっておかしくないほどだ。

 だが実際にはそうなっていない。そもそもこのクラスにおいて虐めのようなものは一切と言っていいほどない。なぜか?別にそれで胸を張るつもりはないが、半分ぐらいは私がやったことだ。

 当たり前と言いたいところだが、私は虐めというものを好まない。と言っても目の前で行われているのを止めるほど正義漢ではないのだが、それでも好きではない。特に虐めが関連するパワーバランスなどごめん被る。やる側だろうがやられる側だろうが日々私の精神を削ることが容易に想像できる。

 そこで私が考えたのがクラス全体をなんとなーく顔見知り以上の関係に持っていき、さらにやばいことがあったらすぐ間に入る緩衝材となることだ。しかしやりすぎると私が目を付けられる。現に陰口で偽善馬鹿だの笑顔はお得意だのいつもウザいタイミングで口挟んでくるだの言われているが、陰で言われる分には問題ない。むしろそうやってストレス発散してもらえれば色々とやりやすくなるというものだ。

 さてさてまた長くなりましたね、話を戻しましょう。

 今回問題となったのは、その友達が狙っている男子が私に告白してきたこと。そして私がそれを断り、その話が彼女まで広まってしまったこと。

 悩ましい話である。もし自分が彼女の立場だったらどうだろう。…うん、好きな男子とかいたためしがないから分からない。じゃあこれが自分の推しキャラだったら?もし推しキャラが同じような目にあったら…うん、その弱みに付け込んだ同人誌の発売を願うだろう。ついでに創作垢で気持ちの悪い妄想文を垂れ流すだろう。なんにしてもこの想像も却下。

 まぁ別にそこまで深い問題でもない。幸い今まであの男子と露骨な関わりを持ったことは無い。なればまず友達と接触。第一にまず事実関係を認めよう。これを認めないことにはなにも始まらない。

 そして第二にその上で完全に彼をフッており、彼女と彼の関係を邪魔する気はないとフォローする。完璧だ、今までだって似たようなフォローはよくしてきた。…いや、やることは元から分かってるんだけど、何というかやはりやる気が起きない。困った話である。

 だがそれもここまで長々と一人思い悩むことである程度解消された。なれば後は行動するのみ。善は急げである。

 私は一度だけ深くため息をつくと、未だに私の話題が囁かれているクラスの中を歩き抜けるのであった。


 ―――フォローは完璧のはずだった。昨日までを振り返っても、さらにその前の私の人生を全て遡っても悪いことはなかったはずだ。

 そのはずだ。そのはずだというのに…

 なぜ私の前には、包丁を持った女友達が立ちすくんでいるのだろう?

 思い出せ。ことは三十分ほど前。突如夜に今日のことで話があると言われた私は、まさかの外に出ての直接対面を申しだされたのだ。

 正直チャットで済ませたかったのだが、そこは人間関係に必要以上の力を割く私。こういう時ぐらいは素直になってやろうと、親にはコンビニに行くと告げ待ち合わせ場所の公園へと出向いたのである。

 そしていざ出向いてみたらこの状況だ。落ち着けというほうが無理な話だろう。

 と、とにかくなにか行動を起こさなければ。気分としては時限爆弾を前にした爆発物処理班のような気分だ。選択肢を間違えるか、もしくは時間経過で代償を払う羽目になるだろう。もちろんこの場合の代償とは命である。残念なことに刺されても大丈夫な可能性もある、なんて言葉で私は騙されない。

 行動選択 → 話しかける。ありとあらゆる交渉事において最重要な要素だ。先ほどのたとえで言えば、ドライバーでネジを外して中の回線を露出させるぐらい重要事項である。懸念点があるとすれば私はネゴシエイターでもなんでもなく、後の展開が全く読めないことぐらいだ。


「そ、その…どうしたのこんな時間に?そんなもの持って…?」


 私の声は震えていただろう。当たり前だ。こんな状況で平然とできるような人間は人として大切な部分をどこかに忘れてきているに違いない。先ほどからの一人語りだってただの現実逃避だ。


「落ち着いて…話そう。私達にはそれがひつよ…」

「うるさい!!」


 私が一語一語区切るように冷静に話していたら急に怒鳴られた、理不尽だ。いやこんな状態でネタに奔るのもどうかと思うが、思うように口を動かせないのだ。


「貴女が羨ましかった…」


 私が沈黙していると、彼女はぽつぽつとその心の内をさらけ出した。


「私と違って人と上手く喋れて」


 処世術として必須ですから。


「私と違ってスタイルが良くて」


 時間と金をかけてきましたから。


「私と違って頭が良くて」


 それに関しては異議を申し立てたい。私と貴方でそこまで得点の差は無かったはず。数学は私が高いが、古典では貴方の方がよく点を取っていた。


「私と違って誰とでも仲良くできて」


 だから処世術ですと。そして誰とでもではない、表面上の付き合いみたいな人はかなり多い。


「私なんかにも気を使ってくれて」


 別に私は他者を差別するような気はない。むしろ自分が最底辺クラスに属している人間だと考えているわけでして、そこまで卑屈になる必要はないのですよ。


「私が持ってないものを全部持ってる!!」


 それは誤解ですよ。むしろ私に持ってないものを貴方も持ってるでしょう?少なくとも私はタイトルすらまともに読めなさそうな古典小説を読める気がしない。


「ずっと羨ましかった…妬ましかった!!」


 それは逆恨みですよお嬢さん?いいからいったん落ち着きましょう?

 ええい!頭の中でこんなに言葉が浮かんでるのになんで一言も口に出せないの!?何でこんなに乾いてるの!?言葉でなだめるしかないって分かってんだろ私!!


「それでもずっと抑えてた…諦めてた…私と貴女は違うって…でも、でも!貴女はあの人の心まで奪っていった!私が持ってなものを持ってるのに!最後に残った私の心まで!!」


 落ち着きましょう!?落ち着きましょう!?さすがに理不尽極まりない!

 私は両手を前に出し、必死に声を上げ―――


 ―――体に、衝撃が奔った。


 体当たりするように攻撃してきたせいか、最初は体全体を衝撃が揺さぶった。私の体はその攻撃であっさりと自分の体を支えられなくなり、後ろに倒れていく。

 妙に倒れていくのがゆっくりに感じた。涙を浮かべる彼女の姿がはっきりと見える。

 倒れる。背面の衝撃は、その衝撃が体の中心部に到達した途端灼熱の痛みに変わった。

 ―――刺さっている。その事実を認めることすら脳が許容を拒む。はっきりと見える。赤い、血。体から生える異物。包丁の柄。

 お腹が痛かった。だけどそれ以上に頭が痛かった。

 この包丁はどこに刺さってる?内臓は大丈夫?痛みでショック死とかは?血ってどれだけ流れたらダメなんだっけ?助けは?救急車、救急車。

 まとまらない思考。だがその思考すら消していくように、指先が冷たくなってくる。感覚がない。この手の先についているのは、実はマネキンか何かなのではないか?

 ダメだ、まとまらない。分からない。なんだアレ。なんだコレ。分からない、まとまらない、わからない、まとまらない、おちる、おちる、おちるおちるおち―――




「―――で、何で『俺』はこんなところにいるのかな」


 のどかに広がる田園を見て、『私』はそう呟いた。

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