第1話 凛と姫美子

「こんなこと全然気にしないで、頑張れ!」

「落ち着いてね」

「はい! 頑張ってきます!」




 道で転んでしまった女子高生。その様子を見ていたりんは、すぐに彼女に声をかけた。


「大丈夫!?」

「すみません。うぅ……」

「きみちゃん! 手当てお願い!」

「はい、凛さん!」


 凛に呼ばれた姫美子きみこが救急セットを取り出し、すぐに手当てを始めた。手当ては手際が良く、あっという間に済んだ。


「あ、ありがとうございます……」

「ね、今転んだから絶対試験ダメだって、思ってる?」

「え! 何で分かっ……」


 驚く女子高生に、凛はニコッと笑う。かっちりとした黒いスーツ姿とは真逆の、柔和な笑顔。そんな二人の様子を、姫美子は温かい目で見ている。

 凛は女子高生に言う。


「こんなこと全然気にしないで、頑張れ!」


 続けて、姫美子も言う。


「落ち着いてね」

「はい! 頑張ってきます!」


 元気を取り戻した女子高生は、二人に手を振って、試験会場へ向かっていった。

 そして、今に至る。

 

「さすがですね、凛さん」

「え、何が?」

「転んだことだけじゃなく、彼女の心まで助けるなんて」

「おれだって、もし昇段審査とかの前に転んだとしたら、あの子と同じ気持ちになるよ」

「合格すると良いですね」

「頑張り屋さんだと思うから、きっと大丈夫だよ」

「……その言葉……」

「ん!」


 凛は、また何かを見つけたようだ。


「きみちゃん、次はあっちだ」

「は、はい!」


 凛は姫美子の手を引き、急いだ。


「それにしても……」

「はい?」

「きみちゃんの手当てはいつも上手で丁寧で、本当にすごいね」

「あ……、ありがとうございますっ」



 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る