第21話 ヤヨイ・スズネ対レオン・エミリ
「こんにちは」
「まさか、人に出会うなんて思ってなかったな。こんにちは」
十代後半の女性が挨拶し、二十代後半の男性が続いた。
「こんにちは」
ヤヨイが挨拶し、三人も続く。
皆が名前を告げる。女性はエミリ、男性はレオンと名乗った。
なごやかな雰囲気になる。
「この先に行くんですよね?」
細身ながらも
「心の強さには、色々な経験を積むのがいいと思って、来た」
「なるほど」
すこし背の低い少女は納得した様子。何かを考えている。
「いつもならすぐ勝負を挑むのに、落ち着いてるね」
普段から落ち着いているカケルが言った。
「俺は疲れたから、休むぜ」
タクミは動く気配がない。
「せっかくだから、
「なんでもいいよ、うちは」
淡い
二人は洞窟の中に入っていく。
緊張感が感じられなかった。
洞窟の中は、真っ暗ではない。
ほのかな明かりがある。人工的な光にまざって、あたりを照らす光る植物。
男女二人組と戦うことになったのは、ヤヨイとスズネ。
レオンとエミリは2対2の戦いを望んだ。
お互いがルールに同意し、洞窟内の開けた場所に、戦闘空間が形成された。バスが4台おさまる広さだが、でこぼこしている。
光る壁につつまれる肉体。
精神体が分離していく。濃い黄色の服になったレオンと、桃色の服になったエミリが現れる。
赤い服のままのヤヨイ。黄色の服になったスズネが現れて、準備が整った。
しかし、相手はそれを知る
「分離は?」
スタイルのいいエミリが、のんびりとした口調で聞いた。
「最初は、分離せずにこのままで戦います。よろしくお願いします!」
「最初はとか、そういうことは言わないほうがいいと思う」
元気よく手の内を明かしたヤヨイに対して、カケルが呟いた。タクミも見守っている。
いつものように、分離しないことを驚かれた。
ヤヨイとスズネが同時に動き出す。
だが、別々の相手を狙っている。
レオンは、エミリに向かって弾が飛んでいくのを見た。
身体のあちこちから光を
エミリの前に立って、迫る弾をガードするレオン。
「何あれ。誰かさんとは比べものにならない格好良さだわ」
スズネが呟いた。
ヤヨイはレオンを狙う。剣で動きをとらえきれない。
躍動する、細いながらも鍛えられた身体。
ひかる相手は壁にいた。
予備動作もなく向かってきて、ダメージを受けるヤヨイ。レオンの手に握られているのは短剣。
壁を使った多角的な攻撃にほんろうされ、スカートが揺れる。
分離しなければ物理法則の影響が強い。と同時に、精神体は実体への影響がない。体当たりでも衝撃を受けない。
すばやい動きに、スズネが援護を
一旦引いて、二人が近付く。
エミリが能力を使うと、レオンのゲージは満タンになった。そして、エミリのゲージが4分の1減った。
「
見守っているタクミが呟いた。たれ目ぎみの目が細くなる。
宙に浮く縦に長いゲージ。その3分の1が空になったヤヨイは、好機を待っていた。
エミリのそばから向かってくるレオン。
ヤヨイが反撃しなかった。
受け流して、すぐに精神体を分離させた。身体のあちこちから光を噴射し、一気にエミリへと接近。剣で斬りつける。
スズネが動きを制限するための弾を飛ばす。
レオンは、まっすぐ向かうことができない。
近付いたあと、力を節約して戦う白い服の少女。黄色い服の少女が、弾を発射して援護する。
二人は連携してエミリを撃破した。
すぐに、レオンとヤヨイがぶつかり合う。高速戦闘で火花を散らす。
洞窟の壁も移動範囲にふくまれる、
ヤヨイのほうが精神力を削られている。
手の甲を光らせ、豆粒ほどの弾を放つスズネ。針の穴に糸を通すような射撃で、高速弾を当てていく。
ヤヨイの分離が切れる前に、二人はレオンを倒し、勝利した。
「便利な能力だ」
戦いのあとで、淡い黄色の服の青年が言った。
ヤヨイは、いつものように感謝の気持ちを伝える。
「ありがとうございました!」
「こいつの能力も便利だから、貰っておけ」
「いいよ。あげる」
細身の青年の言葉に、淡い桃色の服の女性は反対する
「ありがとうございます!」
「どうして、こんなことを?」
お礼を言った少女とは対照的に、短髪の少年は相手の狙いを探っていた。
ヤヨイとエミリが模擬戦を始める。
「言っただろ? 色々な経験を積んでおくに越したことはない」
エミリの能力を受け、ヤヨイは精神力を
「ヤヨイの性格的に、使うことはないだろうな」
カケルが呟いた。
ヤヨイたち六人が洞窟を抜けた。
わずかに上り坂になっていた洞窟のさきは、崖の上。
眼下に、大きな湖が広がる場所に出た。
ふくざつな形をした大小さまざまな岩が、誰かが作った彫刻のように浮かぶ。
青空と雲と水面が、独自の風景を作り出す。緑も
「何だか強くなった気がする!」
心が成長したような気がしてヤヨイは叫んだ。
絶景の雰囲気を楽しんでいない様子に、みんなで笑う。
その後は、皆あまり喋らなかった。景色を楽しんでいた。
エミリとレオンがいい雰囲気だったので、四人は去ろうとする。
気付かれ、六人で再び洞窟に入った。
大きな道を目指した六人は、森の中をしばらく歩く。笑顔で繰り広げられる世間話。
停留所までやってきた。
「おれたちは乗らないから、またな」
「楽しかったよ。またね」
「はい。また、よろしくお願いします!」
再戦を誓い、レオンとエミリは去っていった。
荷物を持ったヤヨイたちの前に、バスが停まる。
ドアのさきへ進む四人。乗るときに料金を支払うことにも慣れた様子。
能力者の聖地と呼ばれる町の、一つ手前の町で降りた。
食堂を探し始めたヤヨイ・カケル・スズネ・タクミ。背負った荷物は、それぞれ形が違っていた。
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