♯38 天使を下さい

インターホンを鳴らし、緊張の高まりを深呼吸で分散する。

隣には、白い髪の小さな天使。

俺と、今から会うであろうレノの両親しか知らないだろう笑顔を、俺に向けてくる。


向城には先日、事情を説明した。

『俺とレノが付き合う』事は言えなかったが、旅にレノが加わる旨を伝えると、


「悪いが、俺はここに残る。約束しろ、生きて帰って来るって」


と、俺たちの帰りを待つという選択をした。

そして、俺はこう思った。


旅に勝手に連れていくのは、親に悪いかな。


レノも『親に紹介したい』と、この考えに賛成してくれた。

そして現在に至る。


「タクマ、緊張してる」

「大丈夫だよ、レノが一緒だから」


と、玄関の戸が開く。

「……レノ、この人は?」

出てきたのは予想より若い、眼鏡の男性だった。

「タクマ」

「どうも、私は五十和拓舞という者です」

「うちのレノに何のご用で?」

きた、本題。

深呼吸を挟んで、問いに答える。

「貴方の娘さんを、私に下さい!!」




「……すいません、私、兄なのですが……」




気まずい空気だ。

まさかレノのお兄さんをお父さんと間違えるとは。とんだ失態だ。


「……うちは、両親がいないんです。」


お兄さんのユドさんいわく、両親はユドさんがまだ幼い頃に事故で亡くなってしまったという。

まだ赤ん坊だったレノは親戚に引き取られたが、ユドさんが重労働を耐え抜いた末に、再び連れ戻す事ができたという。


「……私にとって、レノは天使なんです。

この妹がいなかったら、私は多分今まで頑張って来られなかったでしょうから」

「……その気持ち、同じ長兄としてお察しします」


そう。俺も2人の妹を持つ兄である。

俺も多分、妹がいなければ頑張って来られなかった。


「……でも、レノの元に来た男が貴方で良かった。彼女を愛し、私の気持ちも解ってくれている。タクマくん、貴方ならレノを任せられる」

「ありがとうございます」

「……ですが、1つ条件を付けさせて下さい。

――――レノはまだ10歳にも満たない、まだ家事も家守りも満足に出来るとは言えません。はっきり言って心身ともにまだまだ未熟です。

そんな彼女を愛し続け、守り続け、共に成長していけると、ここで証明して下さい」


もう俺に、迷いはない。


「分かりました。見せましょう」

俺は自分の右腕を差し出し、言った。

「さぁ、斬って下さい。利き腕ですから」

「な、何を言ってるんだ……?」

ユドさんは戸惑っている。

「私は、レノの為なら腕や脚の一本くらい、差し出す覚悟は出来ています。

必要とあらば、全て捧げます」


「……十分だ。君には負けたよ」


俺とレノは顔を見合わせ、微笑む。

そして俺は、天使を手に入れた。




幸せの絶頂、拓舞とレノは旅路に戻る。

妹を取り戻す前に花嫁を手に入れた彼は、果たして奏を取り戻す事は出来るのだろうか?

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