第42話新楽府其十七 五絃彈(2)

  遠方士      

  爾聽五弦信爲美 吾聞正始之音不如是 

  正始之音其若何 朱弦疏越清廟歌  

  一彈一唱再三歎 曲澹節稀聲不多  

  融融曳曳召元氣 聽之不覺心平和  

  人情重今多賤古 古琴有弦人不撫  

  更從趙璧藝成來 二十五弦不如五 


  遠方から来られた客人のお方

  あなたは この五絃の曲を聴き 本当に美しいと感激なされておられる。

  しかし 私の聞くところでは 始原の正しい音楽はこんな音楽ではない。

  その始原の正しい音楽とは さてどのようなものか。

  それは朱色の絃に底穴を減らした瑟に乗り清廟で奏でられる歌なのだ。

  一たび奏で 一たび 歌えば 二度も三度も 感嘆の声があがる。

  曲は淡く ゆったりとした速さで 音などは大きくはない。

  それでも なごやかにして のびのびとする。

  宇宙の崇高な気が呼び起こされ 

  これを聞けば 心のなかには 自ずと平和が訪れる。


  人の情けとは 概ね 今を大事に 古を卑しむと決まっている。

  古代の瑟に絃がついていても、爪弾くものもいなくなった。

  そのうえ 趙璧の芸風が創られはびこった後は 

  二十五絃の瑟は 五絃の琵琶にかき消されてしまった。



※正始原之音:正しい始まりの音楽

※朱弦疏越清廟歌:先祖を祀る廟で、演奏される瑟(琴に似た楽器)は、赤い練糸で、音を濁らせ、瑟の底の孔の数を減らして音を緩やかにした。

※節稀:リズムがゆっくり 速さもゆっくり。

※声不多:控えめな音量。

※二十五絃:瑟のこと。



○白楽天は、激しい当世風の音楽に、古来のゆったりとした音楽が駆逐されていることを嘆いている。


 人は新奇なものにとびついてしまう。

 その諦めも、この詩には込められている。

  

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