第41話新楽府其十七 五絃彈(1)
惡鄭之奪雅也
五弦彈 五弦彈 聽者傾耳心寥寥
趙璧知君入骨愛 五弦一一爲君調
第一第二弦索索 秋風拂松疏韻落
第三第四弦泠泠 夜鶴憶子籠中鳴
第五弦聲最掩抑 隴水凍咽流不得
五弦並奏君試聽 淒淒切切複錚錚
鐵擊珊瑚一兩曲 冰瀉玉盤千萬聲
鐵聲殺 冰聲寒 殺聲入耳膚血憯
惨氣中人肌骨酸 曲終聲盡欲半日
四坐相對愁無言 座中有一遠方士
唧唧咨咨聲不已 自歎今朝初得聞
始知孤負平生耳 唯憂趙璧白發生
老死人間無此聲
俗悪なる鄭声が雅な音楽を陵辱することを憎む。
五絃の琵琶の調べ 五絃の琵琶の調べ。
あなたたたち 聴く者は 耳を傾け その心は奪われるのみ。
趙璧は あなたたちが自分の音楽の虜となったことを見抜き
五絃の一本一本を あなたたちが更に虜になるように音を調える。
第一の絃と第二の絃は さわさわとした響き
まるで 秋の風が松の枝を揺らすように 涼しい音を聴かせてくれる。
第三の絃と第四の絃は 冷え冷えとした響き
夜の鶴が 我が子を思い その籠の中で鳴く声のようだ。
第五の絃は最も重苦しい。
隴頭の水が凍りつき ゴツゴツと咽び 流れも滞るような重さを感じる。
しかし 五本の絃が一斉にかき鳴らされるのを 聴いてみるがいい。
すさまじく 追い立てられ ガンガンと とんでもなく喧しい。
固い珊瑚を鉄で引っぱたくような一曲目と二曲目だ。
氷が玉盤に落ちているような 何千何万の凄まじい音が響き渡る。
鉄の厳しさにあふれた音 冷たいだけの氷の音。
そんな厳しい音を耳にすると この肌も血も凍えてくる。
寒々とした音は 我が身にあたり 肌も骨も痛めつける。
曲がようやく終わり 長い時がたつけれど
座にいて聴き入っていた者たちは 何もできずに向き合い
その心が痛むのか 一言も話すことができない。
この座には 遠方からの客が一人。
ああとか、むむとうめき声を漏らす。
この音楽が心に響いたのだろうか。
その思いを述べるには
「私は今日始めてこの曲を聴いた」
「これを聴くと今まで聴いてきた曲など、偽物でしかないと知った」
「それでも心配なのは趙璧が白髪となり 年老いて亡くなること」
「この世から この曲が消え去ること」
※五絃:琵琶は一般的には四弦。本来はインド発祥。
古くはバチで演奏。太宗の時期から手による演奏になった。
※鄭:猥雑(みだら)な音楽。
※寥寥:聴き惚れて虚ろな状態になる。
※趙璧:貞元年間の五絃琵琶の名手。
※索索:秋風のような乾いた涼しい風。
※疏韻:枯れた味わいの音。
※掩抑:低く抑えることをいう
○伝統的な甘美な音楽が、猥雑な流行の音楽に取って代わられる様子を批判を込めて書いている。
●次回、白楽天の反論と嘆きが詠まれます。
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