第16話長恨歌(7)

天旋日転迴竜馭 到此躊躇不能去

馬嵬坡ばかいは下泥土中 不見玉顔空死処

君臣相顧尽霑衣 東望都門信馬帰



天は巡り日も移り 天子の御車は帝都へ帰還することとなりました。


しかし この楊貴妃に死を賜った場所に差しかかると 


彼女の涙が目に浮かび 悲哀の泣き声が聞こえてくるのか ためらい とても立ち去ることなどできません。


その哀れな楊貴妃の身体は ここ馬嵬坡の泥と土の中にあるのですから。


生きていた時の光り輝く玉のような美しい顔も今はなく 空しく命を散らしたこの場所だけが 残るのです。 


天子も家臣も この哀しさには耐えきれません。

顔を見合わせ 衣を涙で濡らすのです。


そして 東にある都の門を目ざし 


沈んだ心のまま 馬の歩みに身をまかせ 都へ帰るのです。 



※竜馭:天子の乗る車

※馬嵬坡:馬嵬の町。楊貴妃が死を賜った地。

※信馬:進もうとする人間の意思ではなく、馬の歩みに任せて進む状態。馬嵬の町で、楊貴妃が死を賜った時の悲惨な状況を思い出し、哀しみと後悔に心が覆われてしまった。

そうなると、沈んだ心のまま、馬の進むに任せて帰るしかない。


○安禄山の乱が終わり、情勢は好転したものの、楊貴妃への哀惜の念は、楊貴妃に死を賜った馬嵬の地に差しかかると、都へ戻る行軍も馬に任せなければできなくなるほど、強くなる。


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