第14話長恨歌(5)

翠華揺揺行復止 西出都門百余里

六軍不発無奈何  宛転蛾眉馬前死

花鈿委地無人収  翠翹金雀玉搔頭

君王掩面救不得  迴看血涙相和流



翠華すいかを飾る天子の旗は ゆるゆると進んでは すぐに立ち止まります。


そして都の城門から出て 百里の場所となりました。


しかし 近衛兵は そこで歩みを止め 全く動こうとはしなくなりました。


天子でさえも これには どうすることもできず


この上なく麗しい蛾眉の人は 馬の前で 死を賜ることになりました。


その花のかんざしは 打ち捨てられ 拾う人もなく


続いて翡翠の髪飾り 金雀の髪飾り 玉のかんざしが 地に散らばり落ちています。


天子は玉顔を覆うばかりで 救いも何も出来ず 振り返り振り返り 血の涙を流すのです。



※宛転蛾眉:楊貴妃の眉が美しく湾曲している様子。楊貴妃そのものを表現しています。


※当時の中国の一里は諸説ありますが、概ね400㍍~500㍍程度。

 都の城門から百里はおよそ、40キロ㍍から50キロ㍍、馬嵬ばかいの地。

 その時点で、近衛兵たちが歩みを止め、楊貴妃は馬の前で死罪を賜りました。

 玄宗皇帝と楊貴妃以外にとって、安禄山の乱の原因は、玄宗皇帝の関心が楊貴妃を寵愛することだけに向けられ、政務を全く怠ったことと捉えられていました。

 そうなると、その原因である「楊貴妃」が生きていれば、ますます危険な状況になる、したがって死罪とする以外に危険を回避する手立ては考えられない、そういう判断での死罪を「臣下より要求された」と言われています。(玄宗皇帝の了解を得た上での処刑)

 楊貴妃は車から引きずり降ろされ、半狂乱となり逃げまわったものの、逃げ切れるものではありません。

 組紐で首を絞められ、絶命となりました。

 まず花のかんざし、続いて翡翠の髪飾り 金雀の髪飾り 玉のかんざしの順で地に落ち散らばる様子と、楊貴妃の斃れ行く姿が対比されているのだと考えます。


〇あれほど寵愛した楊貴妃の命を救うことが出来ない玄宗皇帝の後悔、無力感、楊貴妃への哀悼、哀惜の想いが、「顔を覆い血の涙を流す」という言葉で、詠みあげています。







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