うなぎが失われた未来

ゆたりん

第1話

館内で1組の親子が会話をしている。

「ねぇ、おかあさん。あの細長くて黒いのなーに?へび?」

「えーとね、これは『eel』っていう魚みたいね。『うなぎ?』とも呼ばれていたみたい」

「ふーん。ねぇ、あっちの大きな骨のお魚見たい。いこいこ」

「はいはい。お姉ちゃんもそっちにいるから一緒にいるのよ」

「はーい」


「うなぎ、ねぇ。なになに?こんなのでも食用だったの?ヘビみたいだし、あんまりおいしくはなさそう。昔の人は何でも食べていたのね」



国立絶滅生物博物館の一画に魚類の展示コーナーがある。そこに75年前に絶滅したうなぎの標本が展示されていた。

国内で最後に見つかった個体である。四国の川で資源調査漁の際に罠に入っていたのが捕獲される。その後しばらくは研究所で飼育されていたが捕獲から数カ月後に死亡。

解剖研究が行われた後に標本にされて、こうして展示されているというわけである。


資料によると、絶滅の原因は急速な地球温暖化に適応できなかったためと記されている。また同時期にマグロの絶滅も起きている。ただ温暖化の記録に基づくと、水産資源の研究者によれば絶滅に至るまでの変化とは言い切れないらしい。


「大量消費のための乱獲」が招いた結果という指摘もされていたが、当時の水産技術レベルでも絶滅を回避するような資源管理は可能だったはずとされている。

まぁ50年前に起きた世界規模の情報戦争により我が国のデジタル資料の1/3は失われてしまったため、詳細は断片的にしか分からないが。


それでも資料や文献によると、まず流通規制と天然資源に対する課税強化が行われたとのこと。その後、稚魚や天然のうなぎ捕獲漁が全面禁止の法律が成立する。


稚魚を大人になるまで育、産卵させ、生まれた稚魚を再び大人にして産卵させるという完全養殖研究はある程度進められていたようだが、研究所で稚魚に感染症が蔓延して大量死が発生。そのまま計画は凍結された。

それでも河川では天然のうなぎが生き残っていたようだが、そちらも温暖化に耐え切れずで死に絶えたとされる。

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