自転車を漕ぎながら

春野きいろ

食わずに死ねるか

 突然にこんなことを言うのはナンだけど、口に入れるものを作ることが大変に好きだ。食べるものを作るのは、快感である。ここで断っておくけれど、『お料理が趣味』ではない。そして女子力は非常に低い。盛り付けなんかも構わない性分だし、凝った料理にも興味はない。調味料も通り一般しか持っていない。面倒くさがりなので、飾り切り云々も絶対しない。実は計量もしてない。それで『好き』なんてよく言えたものだと、呆れないでいただきたい。


 休日に買い物に行くと、必ず買ってしまうものがある。塊の肉、これに弱いのだ。豚でも牛でも、バラでもロースでも良いから、とりあえず買う。そして家に帰ると嬉々として煮たり焼きつけたりする。豚だと焼き豚か煮豚か茹で豚になり、牛だとローストビーフか酒と煮込むか。

 そしてその日の夕食になるのかと問われると、ならない。作って満足してしまうので、平日のストック用に冷蔵庫に入る。


 常備菜のつもりで作るものも多い。大根葉は細かくしてゴマ油で炒め、醤油で味付けして鰹節を混ぜておく。切干大根の煮つけは息子の好物なので、一袋煮ても一日で消えてしまう。ニンジンは千切りにしてバター炒め、厚揚げは白だしで煮て冷やすのが好き。五目ひじきも好きだな。大豆を多めにして、蛋白質も補給しよう。


 季節限定もある。果物で作るシロップは、夏の必需品だ。青梅の時期になると、いそいそとガラス瓶を消毒して、氷砂糖を用意する。梅のなり口を爪楊枝で取り、漬け込むときのワクワク感はひとしお。毎日瓶を振って、まだかなまだかなってニヤニヤする十日間である。

 お友達から格安で譲っていただく北の果実は贅沢品で、出来上がったシロップの瓶の一本は、必ず『母用、飲むべからず』とシールが貼ってある。けち臭いことを言いなさんな、なんて言わないでいただきたいと思う。次のシーズンまで作れないのだから。

 他にはキウイやオレンジみたいに、年間通して手に入るものたち。これは小さなジャム瓶で作って、無くなれば次のフレーバーを作れて楽しい。

 それから、ジャム。アンズをたくさんいただいたときは、とても幸福だった。完熟の梅も美味しい。言い出せばキリがない。


 梅干しも漬ける。我が家はあまり空気の良くない場所なので、外干しができない。だから室内に自家製乾物用のネットを吊るしている。大丈夫、ちゃんと日光当たってるから。それくらいの時期に新生姜が出回るので、残った梅酢でそれも漬けちゃう。


 さて、先日コキアの株を入手したのだ。寡聞にして知らなかったのだが、トンブリってコキアの実なんだね。ってわけで、秋になったらチャレンジしようと思う。ホウキグサって名前は知っていて、手箒を作ってみたいなと思っていただけなんだけど、良いことを聞いた気がする。

 うん、ちゃんと作れるかしら。

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