第3話 ロシアンボトル【3】
「さて、じゃあゲームを始めようじゃない。闇のゲームを」
「そんな魂を喰われてしまいそうなゲームは
「その時はあなたに最後の一本を男らしく、グイッと飲んで貰うわ。ファイト一発とかなんとか叫びながら」
「出来るかっ!口の中が一発で爆死するわっ!!」
魂は失わないものの、その後に支障が出そうなほどの自滅行為など俺はやりたくない。
「それにもし、両方セーフだった場合に俺が飲む事になったら、確率から考えたら天地は三分の一、俺は三分の二になっちまうじゃねえか!これは明らかにフェアプレーに反しているっ!!」
俺が椅子から立ち上がり、天地に人差し指を突きつけると、天地もそれに対抗し、椅子から立ち上がり、そして自分の机を両手でバンッと叩きつけた。
「異議ありっ!岡崎君、さっきから勘違いしてるようだけど、これはただのゲームじゃない、岡崎君を
「うわっ!開き直りやがった!!
たかがイタズラに死刑判決を本気で求める高校生の姿とは、一体傍聴人はどんな目で見ているのだろうか。
少なくとも、裁判長は厳しい目で見ていたようだ。
「静粛にっ!たかがイタズラに死刑だなんて、岡崎君言い過ぎっ!!」
俺と天地の間に割り込んで来たのは、一年五組の首領にして、リーダーにして、クラス委員長の
「それに天地さんも、ゲームならフェアプレーを徹底するべきだわ。確率が平等じゃないゲームなんて、イカサマと同等なんだから」
「む…………」
あの天地でも、ドンの持つ統率力と放っている威圧感には逆らう事が出来ず、屈服し、大人しく椅子に座った。
すげえ……あの天地を一言で宥めるとは。やはり早良は、人を纏める立場になるべくしてなった、生まれながらにしてリーダーなのだと、この時俺は確信をした。
「でも早良さん、このままではもし二人共普通のスープを引いた際、その時の楽しみというものが無くなってしまうわ。それは主催者側としてはつまらないというか、むしろここまで用意したのにという、後悔すら残ってしまう結果に成りかねないのよ?」
天地は静まったとはいえ、やはり何の抵抗も無くその刃を収める気は、毛頭無いらしい。
というかそれ、俺が苦しめば万事解決するのにって言ってるようなもんだからな。
「そう言ってるのよ」
上目目線で、しかしギンと睨みつけ、まるで興が削がれたと言わんばかりに、天地はその視線だけを使って、俺に着実に、確実に、悪意だけを伝えてきた。
やっぱりコイツは紛うことなき悪魔だ……。
「確かに、せっかくここまで用意してどちらとも大丈夫でした~ってなっちゃったら、天地さんとしてもがっかりだろうし、ゲームとしてのエンターテイメント性は失われるわよね」
うんうんと、早良は腕組みをしながら一人首を縦に振る。
この委員長ノリノリである。俺には一抹の不安を、感じざるを得ないのだが。
「だったらこうすれば、フェアプレーも守られつつ、エンターテイメント性も失わずに済むんじゃないかしら?」
すると早良は、天地の用意した三つのタンブラー型の黒い水筒のうちの一つを、自ら率先して手に取った。
「それはどういうつもりかしら?」
天地は先程俺に向けていた、女豹が獲物を狙うような鋭い視線を、今度はそのまま早良の方に向けた。
しかし早良は全く動じず、むしろイキイキしてるような、そんな表情でこう答えたのだ。
「参加するわ、わたしもこのゲームに!」
この展開においては必然な解答であったが、むしろ何故、このような展開になったのだという疑問は深まるばかりである解答だった。
どこからこの因果は歪まれたんだ、誰か分かる奴がいるなら俺に教えてくれ。
「ほう……それは良い考えだけど岡崎君、この場合誓約の第一項はどうなるのかしら?」
俺と天地の間で交わした、悪戯をする際の誓約。その第一項には『他のクラスメイトに迷惑をかけない』というものがあったのだが、多分この点の事を言っているのだろう。
「いや、この場合はいいんじゃないか?早良が承諾しての事だし、なんせ今日のはイタズラじゃなくてゲームだからな」
「そう……なら早良さん、それと岡崎君も、これに署名してもらってもいいかしら?」
すると天地がまた自分の鞄を探って取り出したのは、一枚の紙切れだった。
一番上の行には誓約書と記述されており、下の段には『私はこの件において身体に異常な事態、もとい、その他の損傷及び死亡事故などが発生しても、天地魔白には一切責任を問いません』と、なんとも物騒な誓約文が羅列されてあった。
「おい天地……これ本気か?」
「わたしはいつでも本気だし、いつでも全力よ」
「そうかい……だったらそれは、正気の沙汰じゃねえな」
「狂気の沙汰ほど面白いものよ」
天地はもしかすると、漫画を読むのが好きなのかもしれない。少女漫画、妖怪漫画に続き、麻雀漫画のネタまで引っ張り出してくるとは。
それが分かってしまう俺も、結構漫画を読み漁っている方なのだろうけど。
「……分かった、いいでしょう。署名するわ」
そう言って、早良は誓約書に自分の名前を書き記す。コイツも大概、正気じゃないよな。
「じゃあ俺は誓約したくないんで……」
「岡崎君は強制よ。書かなければ社会的に殺す」
「社会的にって、お前俺に何をするつもりだっ!!」
まるで息をするかのように、平然とえげつない事を言ってのける天地。
いつもの事ではあるのだが、本日この時に限っては、本気で何かやらかしかねないような気がしたので、大人しく、何の抵抗もせず(いや出来ず)、泣く泣く俺は誓約書に渋々署名をする事にした。
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