第1章 悪魔の女との出会い【4】
天気予報の通り、日曜には大雨が降ったため、今年の桜シーズンはその雨と共に見納めとなってしまった。
並木道には桜の花びらが乱れ散っており、まだ雨によって路面が渇いていないせいか、まるで押し花の様になってアスファルトにへばり付いている。
そんなじっとりとしたアスファルトを蹴って、俺は学校への通学路を何気なしに歩いていると、後ろから不意に声を掛けられた。
「やあチハ、どうだった高校生最初の土日っていうのは?」
俺よりも僅かに背が小さい、中学からの同級生、
「おう、いや……別にこれと言って義務教育時代と土日は変わらんよ。弟と一日中ゲームやってたよ」
「相変わらず
俺には元という、四つ下の小学六年生の弟がいる。徳永は俺の家に何度も遊びに来た事があるので、俺の弟の事を知っていた。
「そういうお前はどうだったんだよ?何か高校生らしい土日は過ごせたのかい?」
「いや、僕もほぼ変わらないかな。ただ、昨日図書館に行って本を探してたらクラスの子に会って色々話したくらいで……」
「おいっ!それを変わらないと言わずに何て言うんだ!!」
「あっはっはっ!そういえば確かに変わった事だったのかもしれないね。でもほら、話しただけだからさ」
満面の笑みで、徳永は笑っていやがる。しかし昔からの付き合いだから分かるのは、徳永は別に嫌味を俺に言っているのではなく、最初からコイツはこうなのだ。
例えば昨日徳永が旅行に行ったとしても、俺がほぼ変わらない日常を過ごしていたらコイツはいつもとほぼ変わらなかったよと先に着けておき、そしてその後本当に在った事を話す。そういう奴なんだ。
相手への配慮なのかは知らないが、コイツは相手の会話のテンポに合わせようとしてくるんだ。最初は回りくどい奴って思っていたが、もう慣れてしまったものだ。
「そうだチハ、昼休み一緒に食堂でご飯食べようよ。クラスが違うからそっちの方が良いと思うんだ」
三日前までは新入生は短縮授業であり、昼までには帰らされていたのだが、今日からは一年生も上級生同様平常授業となり夕方まで授業は行われる。
結局あの血糊事件の後、他の生徒に話し掛ける事は出来るには出来たのだが、皆が皆俺に向けてなんというか、憐みの言葉を最初に掛けて来たんだ。そのせいで俺は天地に遊ばれる哀れな青年という、不名誉極まりないクラスでのポジションを獲得し、最悪の高校デビューを果たしていたのだった。
正直な所、この四月のスタート時点でクラス替えはまだ来ないのかと職員室に泣いて抗議したいくらいだ。
「あぁ、確かにそうだな。俺もあんまりクラスに居たくないし、それがいいかな」
「そういえば一年五組、この前なんだかホームルーム前に騒ぎになってたみたいだね?何があったの?」
「……それは俺の口からは訊かないでくれ」
話したくない程、俺には既にあの事件は黒歴史と化していたのだ。
こんな事ならもっと派手な黒歴史であって欲しかった……いや、十分派手だけどさ。
「ふうん……そっか、じゃあ別の人から訊く事にしておくよ」
「ああそうしてくれ」
どうせ訊いたって、笑い話にしかならない話だけどな。だけど当事者として一言言っておこう、笑い話になるだけでもまだマシだと。
そして三日前同様、一年三組の教室の前で俺は徳永と別れ、四組の前を一人歩き、自分のクラスである一年五組の教室へと入っていくと、これまた自分の座席にどっこいせと着いて机の鞄掛けに通学鞄を掛けようとしたまさにその時だった。
「
あんな事件を引き起こしておいてもこちらは全く懲りることも無く、学校に来て早々、如何にも怪しい仕掛けが施してありそうな板ガムを、これでもかと言う程平然に
差し出された手前、俺も受け取らざるを得ないだろう。どうせ何か目論んでるに決まってら。
俺は板ガムに触れる。その刹那、板ガムからは軽い静電気程の電流が流れ、俺は板ガムから即座に手を払いのけたのだ。
「いってぇっ!」
声をあげると、天地はニヤニヤと、してやったりといった顔付きでその電流装置付き板ガムを自分の机の中に隠し入れる。そんなツラしてるけどな、俺は最初から分かって、敢えて乗ってやったんだありがたく思え。
と、……ここまでは回想であり、ここからは今現在起きている俺の現状を語っていこうではないか。
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