第1章 悪魔の女との出会い
第1章 悪魔の女との出会い【1】
まだまだ桜咲く、四月の下旬頃。俺は特にと言って頭も良くなく、しかし努力していない訳でもなく、周りと同じ様に勉強をし、学習塾にも通い、そして晴れて自分の学習レベルに見合った学校、県立東高等学校への入学を果たしたのだった。
まあ立地条件も悪くなかったし、家から一五分で登校出来る場所ってのがかなり魅力的だったというのはあるがな。
学校に入るや否や、これから配属される組ごとに整列させられた俺達新入生は、これから世話になるかどうかは分からない教師連中や、絶対世話にならないだろう来賓、そして保護者共々が詰まりに詰まっている体育館へと入場し、入学式はつつがなしく始まった。
頭の薄い校長が、これまたテンプレートの様な薄い新入生への歓迎の言葉を、まるで催眠音波の様に壇上で発している中、俺も例にも漏れずうたた寝をかましていた。
やはり前日に弟とゲームを深夜までやっていたのが敗因だろうか……いや、間違いないだろう。
そんなこんなで俺がぼけぇ~っとしてる間に入学式は終了し、俺達一年五組の列はそのまま教室の方へと移された。
担任の
そして無事最初のホームルームも終わり、新品ピカピカの黒の学ランを身にまとった俺は他の生徒同様、これまた新品ピカピカの通学鞄を持って帰宅の途に着こうと座席を立ったその時だった。
「ねぇ、
すぐ隣の席、そこから声は聞こえた。
そこに居たのは、黒髪を肩の長さの所まで流し、顔立ちは可愛いと言うよりかは美しいに近いだろうか、非常に整った目鼻立ちをしており、凛とした黒い目は俺に向けられ、その薄桃色の唇はどこかにやけている様にも見えた。
学校指定の下地は白で、襟元が黒いセーラー服から映し出されるシルエットを見るからに、なかなかのボディラインをお持ちのようで。
気づかなかった、というか俺が無頓着過ぎたのか。まさかこんなどえらい美人が隣に居たなんて。
確か
だから自己紹介しようとしたさ。だけどな、その前に俺の言葉をまるで制すように天地は言いやがったんだ。
「あなた、他人に本気で怒りを覚えた事って無い?」
……唖然呆然とさせられたね。不意打ちとも言っていい。
初っ端出会った人間にこんな質問を吹っかける奴は、後にも先にも多分彼女しかいないだろう。そう断言出来るほどに、俺は面食らった。
「いや……そんな事は一度も無いかな?この沙汰人をそこまで恨んだ事も無いし」
引き気味に俺は答える。心の中ではドン引きだったが、そこは建前だ。
お近づきどころか、颯爽とその場を去りたい気分になった俺は如何にも適当そうな建前を言っておき、お茶を濁してエスケープしようとしたまさにその時だった。
ダンッと、突如天地は両手を机に大きく突き、まるで身を乗り出す様にして俺に顔を近づけて来た。その音で周囲の生徒が俺達に振り向いたのは、言わずとも分かる事であろう。
「決めたわ!わたしこの三年間であなたを本気で怒らせてみせるわっ!!!」
突然の宣言。さすがにこの時は、驚愕を通り越して恐怖を感じたね。
いきなり見ず知らずの女に、あろうことかこの三年間で本気で俺を怒らせると宣言されたもんだ。薄気味悪い恋愛映画なんかでよくある、突然の愛の告白の方が何十倍もマシだったと切に思う。
周囲もそれを聞いてビックリ仰天、まるで宇宙人やらなんやらと遭遇したかの様な視線をこっちに向けている。
「あの……どういう意味だ?」
恐る恐る俺は尋ねる。別に関わる事は無かったんだろうけど、なんか俺が変な事でもやったのかと訴えてくる様な空気を周囲から察知したからな。
入学早々、はぐれ者にされるのは流石に辛過ぎる。
「どういう意味?というと?」
コイツ、問いに対して問いで返した来やがった!
……もしかして既に怒らせる事に専念してやがるのか?
「いやだから、そもそも何で俺を怒らせる必要があるのかって事を聞いてるんだよ。君と俺は他人同士だろ?何でそんな必要があるんだって聞いてるんだよ」
「あぁそういう事、結論をあなたは聞きたいのね。そういえば男ってよく結論を聞きたがるってテレビかなんかで言ってた気がするわ」
男は単純と言うが、そんな安い感覚で一括りにはして欲しくないもんだね。とハッキリ言ってやりたかったが、敢えて言わなかった。
今は妙な事を口走るだけ、俺が不利になるのは目に見えていたからな。
「結論から言うと、わたしはあなたとどこまで仲が良くなるのか、それを知りたいの」
「…………はっ?」
宣言どころか、それって告白じゃねえのか?
この世にこれ以上に羨ましがられない告白があったものだろうか、いや、世界中探しても無いと自負できるね。
「あっ勘違いしないでね。恋煩いとかそんなんじゃなくてあくまで実験。ほら、よく学者って実験テーマを証明するために自分の体を実験台にするじゃない?あれと同じでわたしとあなたを実験対象にしようと思ったのよ」
勝手に人を実験マウス兼モルモット扱いかよ。
「そんな勝手な事を独断で決めるな!第一、そういうのは互いの了承があってこそ成り立つもんだろうが!」
「それじゃあ面白みに欠けるじゃない。わたしはこれをいつか論文にして全世界に発表したいとも思ってるのよ?」
「世界にそんな醜態晒すんじゃねえ!」
本当に醜態そのものじゃねえか。恥晒しにも程がある。
「とにかくそんなもん俺は認めねぇからな。というか、もうこれ以上俺に関わるな!」
「関わっては無いわ、関わらせただけ」
「どっちも同じことだろ!」
「同じじゃないわよ、例えば友達と遊ぶ時、誘ったのと誘われたのじゃ大違いでしょ?誘ったのならこちらが自然と優勢に着いて、遊ぶ場所の指定なんかが出来るけど、誘われたのじゃ劣勢になって下手に提案なんて出来ないじゃない?」
むむむ……その例えに少し心当たりは無い事も無い。
……いやいや待て!しかしそれとこれとは別の話だ!危うく言葉の綾に絡め取られる所だった。
「とにかく、俺は一切関わらないからそのつもりでな!!」
まるで俺は言葉を吐き捨てる様にして、さっさと教室を出た。
入学初日からどえらい奴に目をつけられたもんだ。しかも離れていたらまだ良かったものの、隣の席だから尚更タチが悪い。
ただ、まだこの時の俺は奴の言っている事は冗談半分の可笑しな挨拶程度としか思ってはいなかった。いや、普通ならそう思うだろ?
だけどあいつは、
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