第2話 広がる戦火と調子のいい商人

 あれから三日、召喚され城に向っている。

 今回の北伐は、小さな作戦の部類だと考えていた。なので、王から直接お褒めが与えられると聞き、驚いたというところが事実であった。

 だが俺は、王に会えそうだと分かったので、この機会にもうひとつと思う。

 それは、だいぶ前に南西方面で行われた作戦から続く話だ。

 あの時の作戦は、街道の街とそこを中心として活動する村までも一気に制圧するという比較的大きなものであった。そのため、帰還したときには出迎えがあり、当然手厚い褒賞もあった。

 今回の作戦程度では“礼”という、つまらない言葉だけで済まされてしまうだろう。

 そこで部下まで褒美が行き届くような、面白い作戦の提案をすることにしたのだ。

 案の原点は、その遠征時に自ら面会を求めてきた現地の商人だ。自分の街が戦禍にさらされ気分がいいわけもなかろうに、いやしいのか商人魂なのか媚びへつらう調子のいい奴で、そいつから教えてもらった話だ。

 当時は俺も『いいだろう』と、調子を合わせて利用することにして、作戦終了後もしばらく仕事を回してやったことがあった。実際その後の活動では、街に付随するような小さな村々に住む者たちと違って協力的で助かったのも事実だ。古い考えの持ち主が多い集落では、長老などがうるさくて本当に困ったものであったからだ。


 王の間に通される。

 自信に溢れる大きな体は、座りっぱなしで食事がいいからだけではないだろう。

 その王の前で片膝をつくと、粛々と俺を褒める言葉が続いた。

 形ばかりの話が終わる前に、提案をしなければ帰されてしまう。だが部屋の中に老人とまでは言わないが、肩にかかりそうなチリチリに痛んだ白色が混ざる髪に、むけるような左目と小粒な右の目をしたいけ好かないのがいるものだから切り出しにくい。

 あやしい占い師と噂され、地下室に研究室まで割り当てられているこいつの横では話したくないのだが、仕方がない。

「ありがたきお言葉」

 俺は礼を言うと続けた。

「王様、進言したい議がございます」

 先ほどの商人から聞いた、南に行けば港を生かし繁栄している町があることを話すと、続いてそこへ侵攻することを提案したのだ。

 商人は金儲けのためにけしかけてきたのだとは分かっているが、久々に乗っかってやろうというわけだ。

 だが王は、難色を示すように考え込んでいる。

 意外だ。拡大路線の王にとって良い話なのに。

 正直俺は困った。

 何故なら他の作戦に従事していた俺は、その商人とは三年ほど連絡を取っていなかったので古い情報であったからだ。

 功を逃したくないと搾り出してしまったが、無理があったか?

 引き下がれない俺は、それでも王の態度を見て情報の信憑性を説くことにした。

 すると簡単なことに、王は情報の出所を聞くとすぐに了承したのである。

 彼もただの商人ではなく、行商の許可証を持っている。王もどこかで奴の名を聞いていたのだろう。

 そして離れ見ていた占い師も微動だにすることなく、話は決まったのであった。


 即決してもらい、高揚したまま王の間を出る。

 扉が閉まるとそこで見張りをしていたのは、親衛隊長であった。

「なんだ、うれしそうだな」

「はい。思い切って進言したのですが、その話を受け入れてもらえたので」

「そうか。よかったな」

「ところで親衛隊長。あの、あやしいのは何なんですか?」

「はっはっは。はっきり言うな。王のそばにいるんだから肩書きぐらいある。そんな言い方、聞かれたら立場によくないぞ」

「そうですね。これは失礼」

「だがな、俺もそう思う」

「隊長?」

「それでだ。噂だが、昼間だっていうのに同じように布をかぶった部下を二人引き連れて、星を見る筒や装飾の入った竹の棒を持ち出て行くと、しばらく帰ってこないなんてことが続いたときもあったとか」

 同じように布をかぶったと言っているが、王の前だからとっていたのであろう。たしかに首の後ろにフードのようなものがついている服装であった。

 こうして相変わらずの親衛隊長から話を聞き出すと、光っている鎧と別れるのであった。

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