第27話 小島の探索

『オヤブン コレ』


 黒い玉が中に取り込んでいた物を表面へと浮かび上がらせた。


 先ほどまで緋色の熱線を放って攻撃してきた小さな玉である。全部で6個もあった。

 

「小さいな・・」


 ちょろちょろ飛び回って熱した光線を撃ってくるのがウザいため、アンコに捕まえて貰ったのだが・・。質感は金属のようだが、やたらと軽くい。表面には模様か文字か分からない物がびっしりと刻まれている。


 ウルが言うには、魔導だけでは無く、何か別の力も混合した物らしい。普通の防陣では防げない性質だということだ。理屈は分からないが、そういうものだと理解した。


「まあ、何かに使えるかも知れないから、俺が持っておくか。もう危なくないんだろ?」


『ダイジョウブ モウ トマッタ』


「うん」


 俺は頷きながら周囲を見回した。方形の小さな板だけで、あちこちの床や壁が灼け溶けている。なかなかの威力だった。ただ、届く距離が短く、少し離れたら怖くない。


(でも護身用だと思えば、良い武器だよなぁ)


 何しろ、初見ではウルの防陣を貫いたのだ。まあ、2撃目は防ぎ止め、3撃目では反射していたが・・。


(誰が使ったんだ?)


 部屋を見回すが、人が居たような痕跡は無い。


(これだけが浮かんでたんだよな?)


 握っている小玉を見つめる。


 まさかの生き物?

 玉っぽいけど・・これが生きてるとか?


 俺はじっと握った玉を見つめつつ、両手の指で表面をなぞり、彫られた文字をなぞる。


(あぁ・・こいつ、中に意識?・・何か変なのが入ってるな)


 魔瘴の時にも感じたが、魔力には流れがある。それが玉の中にもあった。ただ、生き物の体内のような乱れた流れでは無い、規則正しい流れがあった。


(・・なるほどぉ)


 おおよその把握は出来た。要するに、こいつはちょいと変わった魔導具なのだ。仕掛け罠のようにして、この場所に設置されていたが、本来は俺が直感したように護身用の魔導具なのだろう。

 使用方法は簡単だ。玉に魔力を込めて、命令を与えるだけだ。

 罠として設置するときは、射程範囲内に敵が入ったら攻撃しろ・・と思念を込めておけば良い。ただし、罠として使用すると魔力の補充が出来ないので使い捨てになってしまう。なので、魔力を与えられる場所に置いて使うのが、本来の使用方法というわけだ。


(こいつ、面白いかも?)


「・・ユート様?」


 心配そうなヨミとウルに、この玉が護身用の魔導具だったことを伝えた。詳しい仕組みは分からないが、内部に蓄えた魔力が続く限り、自律して動く魔導具だ。


「上手く使えば便利そうだ」


 嬉しそうな俺の顔を、2人の美人さんが心配そうに見ているが・・。

 大丈夫です。この玉の中身はきっちりと把握しました。使えませんけど。


「さて・・」


 アンコの言う、"頭を載せて動く人"というのが見当たらないが?


『アッチ イッタ』


「む・・逃げたのか」


 俺はアンコに誘導されるまま白い壁面に指を這わせた。


(また・・なんかの魔導の装置だなぁ)


 嫌な予感がする。

 俺は、ウルとヨミを呼んで俺にしがみつくように言った。もちろん、美人さんとひっつこうとか、身体に触ろうとか、そういう妙な下心では無い。落ちるとか飛ばされるとか、そうなると離ればなれになる。それでは困るじゃないですか?俺1人とか、襲われたら死んじゃうでしょ?


 ヨミとウルが俺の腰へ手を回して抱きついた。くうっ・・想定外の御褒美いただきましたぁ!


「アンコも俺の影に入ってろよ?」


『オヤブン ワカッタ』


「よし・・」


 俺は壁に指を這わせると軽く魔力を流して魔導装置を動かした。


(ほらねぇ・・)


 一瞬で周囲が暗転し、落下するような腹腔をくすぐる感覚と共に広々とした空間に途着していた。


 みんな無事に同行できている。


「ユート様っ!」


 鋭く声を発して、ヨミが前に出るなり、腰の三日月剣を抜き打ちに振った。

 激しい金属音が鳴って、火花が辺りを瞬かせ、焦げた臭いが鼻を突く。


 俺は何が起きたか分からないままヨミの背へと隠れた。

 立て続けに2度、3度と金属音が鳴ったが、いずれもヨミの剣が弾き返したようだった。


「敵です」


 身構えたまま、落ち着いた声でヨミが告げた。

 実に頼もしい護衛役である。


「・・私には残像しか見えませんね」


 ウルが周囲へ視線を走らせながら呟く。

 

 そうなのだ。少し薄暗いが十分に周囲が見渡せるのに、それらしい姿はどこにも見えなかった。いや、ウルには残像とやらは見えているのか。何にも見えないのは、俺だけらしい。


 またヨミが動いた。何を斬り払ったのか。

 

 チュイィィィ・・


 こそばゆいような金属の擦過音が間近に響いて、俺の耳の横を何かが奔り抜けて行った。さっきの熱線と違って、今度は硬い物を飛ばして襲ってきている。


「把握しました。防陣で対処できます」


 ウルが短く告げる。

 

 直後に、今度は右上辺りで何かが動いた。

 しかし、ウルの防陣だろう。不可視の壁にぶつかって弾かれたらしい。


「姿隠し・・視覚を阻害する術ですね」


「御師様?」


 ヨミが剣を構えたまま背中越しに問いかける。


「防御はお任せなさい」


「はい」


 ウルの言葉に、ヨミが身体の力を抜いて剣の構えを解いた。代わりに長銃を構える。


 ヨミは長銃で狙いをつけているらしく、俺には見えない何かを追って銃口を動かしていた。


「お・・?」


 ヨミの銃弾が何かに命中したらしく、硬い音を立てた。それで見えない相手の動きが乱れたのか、立て続けに数発の銃弾が硬質の金属音を響かせた。


 直後、ヨミの長銃が青白い貫通光を放った。通常弾を撃ちながら、一瞬で貫通魔術を付与してみせたのだ。器用なことをする美人さんである。


 一瞬だったが、やたらと大きな丸い頭部をした小柄な人影が壁面に映った気がした。

 その胴体中央をヨミの貫通光が撃ち抜いて壁に大穴を開けている。


(この美人さん達、優秀過ぎます)


 見ると、見えなかった敵が姿を現していた。姿を隠す術を解いたという事なのだろうが・・。


「なんか・・頭がおっきいね」


 それが、床に倒れ伏した人影を見て感じた第一印象だった。

 どう見ても生活に無理がありそうな巨大な頭部、それに比して、首から下は子供かと疑いたくなるくらい小柄で細身だった。


(あぁ・・)


 どうやら身体の方は、普通の生き物では無さそうだ。恐らく、作り物だろう。作り物の身体に、アンコが言ったように、"頭"を載せて動かしていたわけだ。


「ヨミ、頭を撃ってくれ」


「はい」


 俺の言葉に即応して、ヨミの長銃が銃声を轟かせた。

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