短歌

・感情

歌になる恋はできぬと悟りけり 歩み行くわれ 二十歳はたちの悲しさ



けふもまた決まり文句で朝の来る ラジオ英語の講師に苛立ち



咳ひとつ労られどもわずらわし 喉のくすぶる夜はわずらわし



湯冷めする身を映さんと曇りゆく鏡眺むるもどかしさかな



鏡見る心地に何のあてもなし ただ所在無く 心もとなく



仏像の影踏む足を恥じ入りて後ずさる午後 日短かけれど



茫漠たる砂漠の朝に押し出され 夢の浅瀬は遠ざかりたり



またひとつ誰かの真似と知りつつも 詠まずにはおれぬ 遣る瀬無ければ




・香港にて

驟雨来る灰色の街見渡せば苦力クーリーの裸体ほの光りたり



ひとり旅 物を忘れし唇に歌をのぼらせ屈んで歩く



禍々し波の一つを飛び越えて 息をつきたりサンパン船の上






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