第3話 コロッケ
さて、何を作ろう。
どうせなら魔族連中が普段食べていないような料理を作ってあっと言わせてやりたい。
材料は……基本的なものは一通り揃っているようだ。肉、野菜、卵、牛乳、スパイス、油。日本のレストランとほぼ同じである。
調理器具も、鍋やフライパンといった日本人にはお馴染みの道具が揃っている。魔族が使っているものなので俺が使っていた道具よりは一回りほど大きいが、この程度なら俺が扱うにも特に問題のない大きさだ。
何でも作れる環境があるなら……そうだな。
日本食の定番、コロッケなんてどうだろう。
材料を混ぜて油で揚げるだけだし、そこまで時間もかからないからまかないにはぴったりだ。
うん、そうしよう。
そうと決まれば早速材料の準備だ。
挽き肉。ジャガイモ。玉葱。卵。
パン粉はないので固めのパンで代用することにする。
まず、鍋に水を入れて皮を剥いたジャガイモを茹でる。この時ジャガイモを丸のままではなくある程度の大きさに切っておくと後の作業が楽になるぞ。
ジャガイモを茹でている間に玉葱をみじん切りにする。コロッケに入れる野菜は玉葱だけではなく人参やグリーンピースなんかを使ってもいいが、今回はシンプルに玉葱だけのコロッケにすることにした。
玉葱を切ったら、フライパンに油をひいて炒めていく。
玉葱がしんなりしたら挽き肉を加えて更に炒め、塩と胡椒で味付けをする。
ジャガイモが茹で上がったら鍋から上げて丁寧に潰していく。この時、多少ジャガイモの塊が残ってもいい。食感の好みで綺麗に潰すかどうかを決めれば良いだろう。因みに俺は綺麗に潰す派だ。
潰したジャガイモに玉葱入りの挽き肉を入れて、具にむらが出ないように混ぜ合わせる。
混ざったら平たい小判の形に整形していく。コロッケといえば小判型だけではなく俵型とか丸いものもあるが、その辺はお好みだ。
次に、パン粉作り。パンをおろし金で摩り下ろして粉の形にしていく。柔らかいパンだとこの作業ができないので、食パンなんかを使う時は予め凍らせておいたものを使うといいだろう。
卵をボウルに割り入れて、よく溶いたらコロッケを小麦粉、溶き卵、パン粉の順にくぐらせる。
鍋に油を入れて熱し、中温になったらコロッケを入れて揚げていく。
表面がきつね色になり、出てくる泡の音が変わったら上げ時だ。
これで、完成。お手軽コロッケの出来上がりである。
我ながらいい出来だと思う。しばらく料理はしてなかったけど、腕は鈍っていなかったな。
大皿にコロッケを並べていると、別の場所で部下たちに指示を飛ばしていたシーグレットがやって来た。
「何だ、こりゃ」
やはりコロッケはこの世界の連中にとって馴染みのない料理だったようだ。眉間に皺を寄せてコロッケに注目している。
俺はコロッケを並べ終えた皿をシーグレットの方に差し出して、答えた。
「コロッケだ。俺の世界じゃ定番の料理なんだぞ」
「ほう」
シーグレットはコロッケをひとつ手掴みで取ると、匂いを嗅いでから控え目に齧りついた。
さくっ、と軽い音が鳴った。よく揚がっているみたいだな。
コロッケを齧ったシーグレットが、目をかっと見開いた。
「うおっ!?」
コロッケを目の前に掲げて、驚愕の声を上げる。
「こいつは──外側はさくっとしているのに内側はほくほくしていて柔らかい! 一体どういう作り方をしたらこんな料理ができるんだ!?」
あぁ、こっちの世界では揚げるって調理法はないんだな。
そういえば俺がこの世界に召喚された時、仲間と一緒に食べた料理は焼き物とか煮物ばかりだったような気がする。
これは、フライドポテトみたいな料理でも驚かれそうだな。
「美味い、こいつは美味いぞ!」
シーグレットは手にしたコロッケをあっという間に完食してしまった。
二個目に手を伸ばそうとしたので、俺は慌てて止めに入った。
「全員分のまかないだから、そんなに食べたら他の奴の分がなくなるぞ」
「もっと作れ! こいつは一個じゃ足りねぇ、オレはもっと食うぞ!」
いい年しておねだりか。恥ずかしくないのかよこいつ。
まあ、魔族に人間の常識を問う方がナンセンスか。
俺は肩を竦めて、追加のコロッケを作るべく足下の箱からジャガイモを取り出した。
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