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その後は特にめぼしい物や面白い物が見つからなかったので片付けてから布で指紋を拭き取り、部屋を後にする。



「…結局手に入ったのはこのカードキーだけか」


「せめて書き置きや仕事の指南書や説明メモでもあれば良かったのだがな…」



カードキーが入った透明なケースを手に式部の前を歩きながら一階へと降りて行く。



「…残り時間はあとどれくらいだ?」


「…おおよそ二時間ぐらいだろう、それより早くは戻って来ないハズだ」


「上等、そんだけいっぱいありゃ楽勝だろ…っと、ストップ」



式部と会話しながら階段を降りてると下から誰か上って来てるので合図をして俺もその場で止まった。



「あ、お疲れ様ですー」


「お疲れ様でーす」



俺は変装してるので職員の挨拶に営業スマイルで返し、式部は顔を見られないように後ろを向いて無視する。



そんな態度を取られても職員は不審がる事も気にする事もなく普通に上がって行った。



「…こっからどうする?」



階段を降りて一階に着いたはいいが、フロア内に出るとなると絶対に人に見られてしまうためとりあえず式部に問う。



「先ほど式神を飛ばして探索をさせたから場所は分かっている、問題は誰にもバレずにソコまで行く事だが…」



…どうやらカードキーを使えそうな場所は既に把握しているらしい。



が…変装はしてないので人や監視カメラにと厄介だと考え込んだ。



…コイツに変装の技術は無いから変装してこい、とは言えんし…



俺が変装させてやったところで挙動が合わないから結局怪しまれて無意味に終わりそうなんだよなぁ…



しかも目的の場所を知ってるのがコイツだから俺だけ先に行く、って方法も取れないっつーね。



…はぁ…どうしたもんか…



「…しょうがない、この方法で行こう」


「ん?なんか案が出た?」


「ああ」



式部がため息を吐きながらそう告げたので…



その案とやらの中身を聞くことに。








「…マジで?お前頭大丈夫か?」



式部の案を聞いて流石の俺も若干ヒいてしまう。



だって……今から女装してこの場を切り抜ける、って…



だったら最初から女装しとけよ、って話じゃん。



なんで今更女装するの?しかもお前、変装のスキルも無いのになんで更に難しい女装の選択肢を選ぶ?



そもそもお前、俺と違って男らしいイケメンなんだから女装に向いてなくね?



…つーか女装に必要な道具はどっから持って来るんだよ。



「…俺も本意ではない…が、それしかあるまい」



俺が内心疑問に思いながら馬鹿にしてると、他に案が無い…と呟く。



「いやいや、ソレするくらいならまだ俺のジャンパーを頭から被った方がマシだろ」


「それだと怪しまれるのでは?」


「…逆に半端な女装で怪しまれないとでも思ってんのか…?」



流石に余計目立ちそうな逆効果感がありありと出てる案を一蹴し、思いつきの代替案を言うも疑うように聞いて来たので呆れながら聞き返す。



「…だがそんな犯人扱いのような…」


「そうか、犯人を装ってフロアを抜ければ良いんじゃね?」



俺は式部の苦言のような呟きを聞いて新しい案を思いつく。



…下向いてジャンパー被って手を縛られてたら疑われはするけど顔はバレなくね?



「犯人を装う…?」


「科学班の実験台とか嘘吐いきゃこの場は凌げるだろ?」



別に嘘がバレても顔がバレてないんだからどうとでもごまかせるし…と、良く分かってないような式部に説明する。



「…そうか、そうだな…ではその方法で行くとしよう」



他に代替案が出なかったのか俺の案に賛同したので、俺はジャンパーを脱いで式部に被せ…



式神から変化した紐で両手を軽く縛り犯人を連行するかのようにフロアへと出た。



「…そこを右だ…」


「インド人を右へ?」



フロアに居た人達は不思議そうに俺らを見るも特に声を掛けたりはせず、式部の小声での案内を聞きながら目的の場所へと移動する。

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