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…さて、先ずは一匹…あと何体いるか分からんけども、そう多くはないだろうよ。



世界トップクラスの遺伝子技術を持つユニオンでさえ、人魔の成功例は一桁なんだから。



……お、二体目発見。



この家の主を探して家の周りをぐるぐる回ってると上の方で変な気配が。



二階にいるのか、屋上にいるのか…まあどっちでもいいけど。



俺はコソコソと家の中に入り、誰も居ないことを確認して二階に上がる階段を探す。



…あ、やべ…



探索中に誰かが近くの部屋の中から出て来そうな気配を感じた俺は、すぐさま隣の部屋に入って隠れる。



…こっちの部屋に来んなよ……まあ半妖じゃなくて人の気配だから入って来ても速攻で気絶させられるけど。



「…鷹見」


「はっ」



何故か人の気配は部屋のドアの前で止まり、誰かの名前を呼ぶような声が聞こえるとソレに応えるような声と共にいきなり変な気配が現れた。



…三、体目…?…上の気配はそのままだから降りて来たワケではない。



…俺と同じく気配を消してたのか?ずっと?なんのために?



…まあ声を聞く感じでは女が男を呼んだっぽいから使用人か家政婦のどっちかか?



「…どうやら原口組に引き続き飯塚組でも死体が見つかったようだ」


「…どこかの組との抗争でしょうか?」


「いや、全員が刃物で首を刎ねられていたらしいからその可能性は無い」


「…全員が刃物で首を…?」



俺が疑問に思ってると何故かドアの前で立ち止まりタイミング良く二人が話し始める。



…この会話を聞いてる限りでは家政婦でも使用人でも無いな。



男の方は半妖だから当然だとして、女の方も黒幕と関係がありそうだ。



「原口組の事務所付近では銃刀法違反と疑われた忍者が居たとの情報も入っている」


「…ではその忍者の仕業、と言う事ですか?」


「まだ断定は出来ないが、おそらくは…」



二人の会話に聞き耳を立てて俺がまさかの話題に挙がるっていう。



「何故このタイミングなのでしょう?」


「分からん、防衛省が動くとしても…だ、今回のは前の時のように私の所に情報が入って来ていないのが不思議だ」


「…もしかして…忍者の暴走、でしょうか?」



…甘いな、読みが甘すぎるぜ。



なにも刀剣を使うのは忍者だけではない。



ソレに今の暴力団は昔のヤクザと違って周りに怨みを買いまくる因果な商売…



敵は警察や同業者だけじゃなく至る所に居るだろうよ。



…昔のヤクザは一般人には迷惑をかけないで、薬物に手を染めず、人身売買もしない…用心棒やトラブルバスターだけで金を稼ぐ良い職業だった、って聞いたのに…



時代の流れか教育の悪化か人間性の劣化か…



昔は裏の職業ながら人に慕われてたのが、今やこんな落ちぶれて人に嫌われる職業になったってのが悲しいぜ。



一体いつからそんなに落ちぶれてしまったのやら。



「…いや、暴走だとしても手際が良すぎる」


「…?手際が良すぎる、とは…?」


「原口組と飯塚組は秋山会の中でも関係が近い、半日も経たない内にその二つを壊滅させるにはそれなりの計画性が必要になる」



ヤクザの過去、現在について考えてるとなにやら良く分からない明後日の方向に話が進む。



…計画性って馬鹿じゃねぇの?



大きな組織とかを敵に回すんならともかく、こんな雑魚の集まりを潰すのに計画も糞もなくね?



「…つまり単独ではなく、複数で行動してる…という事ですか?」


「その可能性が高い…だが忍者が複数で行動するとなると、やはり行動前に私の耳に入ってもおかしくはない」


「ですが、事前に把握出来なかった」


「…不思議だ…今回のは今までにない、得体の知れない何かが関わっているような気がしてならない」



…ふーむ、話を聞く限りこの女の人は結構重要なポジションに居るっぽいなぁ…



式使のお姉さんがそう簡単に自分勝手に行動出来ない、って言ってた理由が分かったわ。



忍者の行動が筒抜けになってんなら上からの圧力とかウザそう。



一応日本トップレベルの実力者だから露骨に圧力はかけてこないだろうけど…



ネチネチなんか小言みたいのをずっと言われたら嫌だし。



忍者である以上組織に縛られるのはしゃーない事だよ。



縛られたくなければ一般人に落ちるか、逆にトップに登りつめるか…の二択じゃね?



あ、第三の選択肢として俺みたいに人間を辞める…ってのもあるか。



何にも縛られる事が無いからこそ、何にも守られる事も無い…完全実力主義の世界。



…あのド変態や式使のお姉さん達は一族を背負って守らないといけない以上、俺みたいに自由になる事は難しいかも。



…でも俺だって自由になる代償はハンパねぇ感じだったけどな。



だって自由を手に入れるためには、圧倒的で、化物的な強さが必要だもの。

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