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とりあえず原理は教えたから後は本人の努力次第だろうよ。



やり方なんて教えられないから俺はただココに居るだけで、本人になんとかしてもらうしかないし。



…リザリー達なら手取り足取り分かりやすく効率良く教えられるんだろうけど…



凡人の俺にソレを求められてもな。



一応イメージ的な事ならば教えられるし、多少のアドバイスならできるけども。



「…うーん……」



流石に擬似的な強化魔術と違い擬似的な治癒魔術は回復させるイメージとかが湧かないのか…



一時間経っても進展無さげにクレインは困ったように首を傾げていた。



「どうした?」


「…いえ、やっぱり手本を見ないと何をしていいか分からないなー…と思いまして…」



…そりゃそうだ。



遊びでも仕事でも、スポーツにしろゲームにしろ…なんでも先ずはやり方っつーのが分からないとどうにもならない。



「…しょうがない、一回だけだぞ?」


「…え…?」



俺はため息を吐いてポーチから黄色と緑色の魔札を一枚取り出し、無名を抜いてクレインに突き刺す。



…おっと、当然胸の辺りで臓器を傷付けないように隙間を通して…だよ?



「…な、にを…?」


「ロックオン、レスト」



剣を抜くとクレインが愕然としたような表情で俺を見ながら膝から崩れたので魔札で回復させる。



原理を説明して、実際に治癒魔術の効果を体験した……多分コレでもう大丈夫だろう。



「…え…!?痛みが…!」


「コレが治癒魔術の効果だ、学校では怪我とかしなかったみたいだな」



養成系の学校には必ず一人、治癒魔術を使える人が派遣されてるハズなのに…



それでも手本が欲しいってんなら未だに大きな怪我をしてこなかった、って事なんだろうね。



治癒魔術のお世話になってんなら効果を体験してるハズだから手本なんていらねぇと思うし。



無名で刺した胸の辺りを触って驚いているクレインにそう言うも聞いてないみたいだった。



…まあいいか。




それから三時間後。



多少なりとも回復できるようになってきたらしいが、とりあえず昼飯の時間なので研究所に戻る。



「…あれ?どこか行ってたの?」


「ああ、ちょいとクレインを鍛えにな」



廊下でショコラに遭遇し、不思議そうに聞かれたので適当に返す。



「…とか言っていかがわしい事してないよね?」



身体を柔らかくするためのストレッチだ~的な、と意味不明なイチャモンをつけられた。



「おお、その手があったか…だが残念だな…教えてるのは魔術関連なんだ」



ショコラに乗っかりつつも否定して修行の内容を伝える。



「…魔術?ていとが?」


「不思議だろ?俺も同じだ」



ショコラが虚を突かれたように驚いたので俺は問いかけて賛同した。



「…じゃあなんで?」


「俺が聞きてぇよ、クレインに頼まれてしょうがなくやってる感じだし」


「ふーん…ナターシャちゃんも物好きだね」



魔術が使えないていとに魔術を教わるなんて相当切羽詰まってるのかな?と、ショコラは不思議そうに呟いてトイレに入って行く。



…擬似的な治癒魔術を教えてるなんて知られたら面倒だから黙っとこ。



「…お、戻ってたのか」


「ああ、今日の昼飯はなんだ?」


「ラーメンだ!」



ショコラと分かれて廊下を歩いてると…



紙を片手に会話してるハルトとエリアに遭遇。



ハルトが俺に気づいて片手を上げて挨拶して来たので昼飯のメニューを聞くと、何故かエリアが答える。



「…ラーメンねぇ…」



出前なのかカップ麺なのか、乾燥袋麺なのか生麺の袋タイプなのか…



「カップ麺と袋麺どっちが良い?」



俺の言い方で何かを察したのかエリアがわざわざ聞いてきた。



「どっちでも」



食えればなんでも良いんだからカップ麺だろうが生麺だろうが関係ねぇ。



「だったらカップ麺にするか」


「だな、一応野菜でも炒めて入れようぜ」


「…まあ任せるよ」



昼飯が決まったところで俺は手を洗うために近くの休憩室へと入る。



「あはは、そうなんですか?」


「そうそう意外と…ってあれ、村さん?」


「ちょいと手を洗わせてもらうよ」



どうやら数人の女子研究員がちょうど休憩中だったらしくソファに座って雑談していた。



邪魔しないように端から移動するも普通に見つかったので、用件を伝えて洗面所へと入る。



そして休憩の邪魔したら悪いと思い手を洗ってすぐさま休憩室から出て行く。

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