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その後。



式部の居場所を聞いてから電話を切り人気の無い路地の中に入って影移動。



カオスなファッションのまま式部の本家のインターホンを押して中に入る。



「おお、久しいな」



式使の本家とは違い、車の出迎えは無く代わりに式部が出迎えてくれた。



「…わざわざこんな所まで出迎えご苦労だな」


「どうせ何処かに行くのであろう?ならば玄関で待ってた方が早いと思ってな」



さあ行こう、と用件も聞かずに歩き出す。



「…どこ行くか分かってんのか?」


「梅崎組の本家だろう?」



何も説明していないのに目的地が分かってるとか…



コイツ、藍架が囲まれて危ない状況を知ってて放置してやがったな!



「お前藍架が危ないの知ってて放置したのか?」


「まさか、助太刀に行こうと思ったら電話してると聞いたのだ」


「…もしかしてその時から?」



頭の回転が早く勘の良い者同士の会話だと主語が無くても通じる不思議。



「ああ、黒に起こしてもらってから今か今かと待ちわびてたぞ」


「待ちわびるほどの時間は経ってねぇだろ」



式使のお姉さんが最初の会話の時点で式部を起こしてたとしても約10分ぐらいしか経ってないと思う。



「つーか、無いとは思うが万が一という事があるかもしれんから聞くぞ?…まさか藍架を監視してないだろうな?」



藍架がヤクザ狩りに派遣された、って情報を聞いて心配だから様子を見に行かせたら…っつーのが俺の予想だけど。



「はっは、何を馬鹿な事を…生憎と自殺志願する程人生に絶望などしていない」



むしろ逆だ、と鼻で笑われる。



…なんだろう、コイツに鼻で笑われるとこう…ゾワッとするっていうかなんというか…



とりあえずかなりイラつく。



まさかしてゾワッとするのは殺意が湧いてるからなのかね?



「そうか、ならいいが…」


「梅崎組の情報を集めていたらたまたま遠間藍架の情報が来た、だからもしもの時のためにと一時的に見張らせてだけだ」


「そりゃありがたい事で」



にしても藍架が電話してる相手が俺だと良く分かったよな。



そんで式使のお姉さんに電話が来たから自分の所に来るだろうって予想して行動に移した…と。



まあ俺らはさっきの会話だけでソレが分かってたけど、一応分からない人達への説明という意味合いも込めての心理的描写?的な?



「ところで…歩いて行くのか?」


「は?いや、別に目的地に着けば移動手段はなんでもいいけど?」



本家から少し歩いた所でそう聞かれたのでどうでもよさ気に返す。



「ふむ…なら…」



式部は着物の袖から薄っぺらい変な形の紙を取り出すと目の前に放り投げる。



そしてブツブツ呟くと地面に落ちた紙がでっかい鷲の姿になった。



「…いつ見ても凄ぇな…にしてもなんで鷲?」


「空から行った方が障害物が少ない」


「そりゃもっともだ、でもこんな2mもある大鷲じゃ目立たんか?」



普通は鷲っていったら大きくても50cmとかそこらだろうに…



「…それもそうだな…ならば普通に馬にしよう」



またしても着物から紙を取り出すと放りなげて呪文的な何かをブツブツと唱える。



すると大鷲が紙に戻り、紙が赤い馬になった。



「こんな街中で馬かよ…」


「なに、顔を隠せばバレんよ…というワケでそのお面を貸してくれ」


「仮面の方が視界は良好だぞ?」



頭に乗せてるお面を指差されたので着けてる仮面の方を勧める。



まあこのお面もマジックミラー的な原理で外からは分からんが、被ると結構視界は良好なんだよなぁ。



それでも普通にしてる時よりは視界の端の方が狭まるけど。

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