37

時刻は夕方。



次の場所やその次の場所まではなんとか時間内に間に合って支給できた。



残るは最後の場所のみ。



そこは貧民街の中でもゴミの掃き溜めと言われるような場所。



クズになった子供達の集落。



その集落の中には3歳から16歳までの子供しかいなく…貧民街のヤバい犯罪者でさえ足を踏み入れないらしい。



理由は簡単、何十人単位の子供達に襲われるから。



食事を支給した人達の話によると子供だからって侮ったらいけない、との事。



鉄パイプや角材、ナイフや包丁といった武器で襲ってくるんだと。



主な生活手段は強盗に万引きで、子供達が食べ物を盗んではその集落に逃げ込む。



盗人を追いかけて集落に入ろうもんなら死体となって出てくるんだって。



…結局大人でも子供でもやる事は変わらんね。



どんな治安が良い街にもそういう場所の一つは存在する。



犯罪者のるつぼである貧民街も例に漏れずってか?



「なあ…本当に行くのか?今ならまだ引き返せるんだが…」


「当たり前ですわ、ココに居る子供達はみんな…この街の犠牲者なんですもの!」


「犠牲者…ね」



皇女殿下の綺麗事を鼻で笑って集落に向かって車を走らせた。



「…すでに囲まれたか…マキナ」


「うん、失礼します」


「えっ!?またですの!?」



人影は見えないが左右を結構な人数で挟まれたので突破するためにアクセルを踏む。



万が一子供を轢いた時の保険に皇女殿下にはアイマスクとヘッドホンを着けさせる。



車を走らせる事10分、集落のど真ん中にあたる広場に到着した。



すると退路を断つように薄汚れた格好の子供達が出てきて広場の外側を囲う。



…バカだなぁ、あんなん轢かれない事が前提のバリケードじゃねえか。



実際はなんの役にも立たないぜ。



「とりあえず皇女殿下は俺たちが合図するまで車から出ないで、危ないから」


「わ、分かりましたわ」


「カバーは任せて」


「頼んだぞ?」



アイマスクとヘッドホンを外して皇女殿下にそう言ってトレーラーを開けてマキナと一緒に外に出た。



「あー、あー…こちら人道支援団体のGPMの者です!」



続々と武器を手に集まってくる子供達に向かい拡声器を使って話しかける。



「身寄りの無い子供達や住む場所も無く今食べる物にも困っている人達…社会的弱者の方々に食事の支給を行っております!」


「食事の支給だと!?そんな施しを誰が受けるか!」



ガキどもの特攻部隊なのか…複数のガキ共が鉄パイプやらチェーンやらを持って走ってきた。



「ぐふっ!」「がはっ!」「うぐっ!」



が、すぐさま俺の放った改造ボウガンのゴム弾に当たり地面に転がる。



「我々が行うのは食事支給という名の一時的救済だ、支給を受ける受けないは個人の自由だが…歯向かう者には容赦しない!」



まるでどっかの軍のお偉いさんにでもなった気分だ…皇女殿下のお望みとはいえマジでキツイなぁ。



「しょくじしきゅうってなぁに?」



子供達みんなが緊張して警戒してる中4、5歳ぐらいの女の子が指を咥えながらトテトテと歩いて来た。



「この場合は飲み物と食べ物をプレゼントするって事だよ」



可愛らしい舌足らずな質問に一旦物腰を柔らかくして答える。



「ぷれぜんと?」


「そ、はい」



俺は女の子に野菜ジュース二本と子供用の食料が入った袋を渡した。



「ただでくれるの…?」


「ん、それが食事支給だよ」


「わあーい!!やったー!!」


「ナゼル!騙されるな!もしかしたら毒が入ってるかもしれないだろ!」



大喜びして集団に戻って行った女の子を少年が叩いて食料を奪い地面に投げ捨てる。

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