27
5分もしないでこの部屋には俺とお姉さんと首無しのおっさんだけになる。
「せいっ」
棒読みな掛け声と共にドラゴンの腹から胸にかけての皮膚を斬り裂く。
今回は痛みを無くしてないから、痛みで目覚める前に速攻で終わらせないといけない。
素早く無名で中の肉を斬り裂いてドラゴンの心臓を剥き出しにした。
「な、何を…?」
「コレを…」
ポーチから小型ナイフを取り出してカバーを外す。
俺はソレをお姉さんに見せてドラゴンの心臓に突き刺した。
「が!?が、がああ!!き、さま…!いったい、なに、を…!?」
急に首無しのおっさんが苦しみだして倒れる。
「はっはっはー、コレは魔力を断つ特殊な鉱石で出来てるんだよ…と言っても既に聞こえてないと思うがな」
首無しのおっさんは体がビクビクと痙攣し胸から大量の血を流していた。
やっぱり禁魔術とやらが打ち消されたら死んだか…予想通りだねぇ。
お姉さんがヤバい魔術を使いそうになった時用に持って来たのがまさかこんな場面で役に立つとは。
まさに備えあれば患なし。
『憂い』じゃないよ?『患』だよ?
いや…まあ、字にしないと分からないぐらい細かい事だけどさ。
しかも、結局どっちの言葉…字?を使っても意味的には似たようなもんだから変わらないけども。
っと…早く治療しないとドラゴンが失血多量で死んでしまう。
俺はナイフを取り無名を鞘に納めておっさんの死体の足を掴み、ドラゴンの近くまで引き摺った。
「?何を…?」
不思議そうな顔で俺の行動を見ているお姉さんを無視しつつドラゴンの周りにおっさんの血で円を描く。
…何回も書いてると適当にやっても綺麗な円になるなぁ…
軽く感慨に浸りつつおっさんの死体を円の外に投げる。
そして今度はドラゴンから出てる大量の血を使って魔法陣を描いた。
わずか3分で治癒魔術の上級版な魔法陣が完成。
「ねえ、ちょっと魔術の発動を手伝って」
俺はお姉さんに向かって片手を顔の所まで上げて頼む。
「え?」
「ほら、俺って見た目通り魔力が無いからさ…術式は書けても発動ができないってば」
髪を触り自虐的な感じで軽く笑いながら言う。
「え!?魔力ないの!?」
チッ、髪の色を見たら分かる事だろ…なんでそんな事で驚いてんだよ…
「あ~、早くしないと…あと2分でドラゴンが失血死しちまう」
内心舌打ちしつつも困ったような演技をして急かした。
「わ、分かった!何をすればいい?」
「俺が今から詠唱する言葉を復唱してくれればそれでいい」
「復唱だけ?…とりあえずやってみる」
お姉さんはんん、と咳払いして喉の調子を確かめる。
「んじゃ、いくよ?我の存在するこの世界で」
「わ、我の存在するこの世界で」
いきなり始めたからかちょっと焦り気味で復唱し始める。
「傷つきし彼の物を癒すために」
「傷つきし彼の物を癒すために」
「森羅万象に干渉する力を我に…フルアレスト」
「森羅万象に干渉する力を我に…フルアレスト」
お姉さんが復唱し終わると血で描かれた魔法陣が輝き出す。
「え…!?」
するとみるみる内にドラゴンの体が治っていく。
お姉さんはもう驚きっぱなしだ。
…あの程度の傷なら5分もすれば治るだろ。
「あ、一応言っとくけど…あの呪文は治癒魔術のじゃないからね?」
「違うの…?」
「魔術を発動させるためのトリガーとしてだったから…魔法陣さえ書ければどんな魔術でも発動は、するよ」
ただし威力の類いは保証しないけどね、と言った後に肩を竦める。
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