09


あれから少し経って、俺は現国王の居る官邸の敷地内にいる。



時刻はすでに草木も眠る丑三つ時。



この言葉良く使ってるけど…何時だか分かる?



丑は十二支の二番目、つまり二時。



三つ時…一つ時が10分計算だから、30分。



おそらく2時30分だろう。多分。



一応言葉の意味を何回か調べてるが、その後すぐに忘れるから…当たってるかどうか不明。



テヘペロー(棒)



官邸の図面はさっきのうちに頑張って大体覚えた。



とは言えどこ国の官邸も似たような作りだから、すぐに覚えられる。



伊達に暗殺専攻してねえんだよ。



警備兵や警備員の配置に警報装置の設置場所も大体分かるし。



俺は監視カメラの死角をくぐり抜け裏の方から官邸の中に入る。



「うっ!?」



適当な警備兵を後ろから倒してトイレに引きずった。



両手足と口を縛り、制服を剥ぎ取って個室に座らせる。



「異常無し」


「りょうか…うっ!?」



服の上から制服を着て帽子を被り見回りの警備兵に成りすます。



そして報告がてらにみぞおちに一発入れて前のめりになった所を首に手刀を食らわし、気絶させる。



「よいしょっと」



相手の制服を破って両手足を縛り人目につかなそうなところに転がした。



そして官邸の中をグルグル回って同じ事を繰り返す。



30分もすれば官邸内を歩き回っても誰とも会わなくなった。



「よし、邪魔者の排除はほぼ完了」



俺は警備兵の制服のまま国王夫妻の居るであろう部屋に向かう。



コンコン、と一応ノックして部屋に入る。



「失礼しますよー…っと」



小声でそう呟いてコッソリと部屋に侵入した。



「居た」



何も知らずにぐーぐー寝てる現国王のベッドに近づき、なぜかサイドボードの上にあったガムテープを口に貼り付ける。


それでも起きない国王の手足をガムテープで縛って足を掴み、そのまま引きずって部屋を出る。



「むぐ!?むー!」



流石にベッドから引きずり落とされた衝撃で目を覚ましたのか、なんか言ってた。



「ふんふふーん…ふーふふん」



俺はむーむー言う国王を無視してある部屋まで引きずる。



官邸の中には何部屋か使われてない空き部屋があって…ソコに警備兵は見回りには来ない。



どうせベッドから国王の姿が消えてても、奥さんとかはトイレに行ったとしか思わないだろ。



しかもココは官邸の離れにある倉庫のような空き部屋だ。



異常が分かっても流石にココには来ないだろ。



だって…草木で隠されてるっぽい地下の空き部屋だから。



そこらの警備員や警備兵には存在自体知られてないと思われ。



官邸の見取り図を見た時に使える!と思ったし。



「そーれポーイ」



ブン、と軽く国王を投げるとゴロゴローと転がっていく。



「ケホッ、埃っぽいな…」



どれぐらい使われてないのか知らないが、部屋を転がった国王の体は埃まみれになっていた。



ついでに舞い上がった埃にちょっとむせる。



「むぐー!むぐー!」



国王がなんて言ってるなか分からないので、とりあえずガムテープを外す。



「うっ!貴様!何者だ!ゲホッゲホッ!」



叫んだはいいが、埃を吸って盛大に咳き込んでいる。



「ここじゃ落ち着いて話も出来ねぇな」


「なに!?」



俺は国王の足を掴んで埃まみれの床をズルズル引きずって、結局外に出た。



「ゲホッ!ゲホッ!…ゲホッ!!」


「静かにしろよ…人が集まって来ると面倒だろ」


「誰か!この侵入者を捕らえろ!」


「だから静かにしろって」



空に向かって叫ぶ国王の首に抜き身の無名を当てる。



「く…なにが目的だ、我が国はテロには屈しないぞ」


「目的?そうだな…てめぇの息子のやらかした責任を取って死ぬか、俺の娘に謝るか、だ」


「私の息子が…何をした」


「はっ!自分の血を分けた息子の事も知らないのか?」



俺は鼻で笑って剣を鞘に納め、国王の胸を軽く蹴り倒す。



「ぐ…!何を…!?」


「てめぇの息子に好きな女の子がいたのは分かるか?」



仰向けに倒れた国王の横顔を軽く押さえるように踏む。



「…!まさか!」


「そのまさかだ、先ほど餓鬼が俺の別荘に国軍の兵を1000人引き連れてきた」


「そんな事が!?」


「当然俺と長男の二人で返り討ちにしてやったが…兵が来る前、娘は泣いていた」



国王は歯を食いしばり、顔を踏んでいる俺の話を黙って聞いていた。



「これ以上家族に迷惑をかけたく無いから。家族を守るために自分を犠牲にしようとしてたんだぞ?」


「それは……すまなかった…」


「俺に謝ってもしょうがねぇ、息子のしでかした責任は親のお前が取れ」



俺は国王の両手足のガムテープを剥がして自由にさせる。

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