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プレハブごと養成学校に影移動して戻る事一週間。
戻ってすぐリザリーが勝手にドラゴンの肉を市場で競りに出す、と言う暴挙を働いた。
なんと1kg800万と言う恐ろしい値段まで釣り上がり新聞の一面やテレビの話題にまでなる事態に。
おかげで400kgあったドラゴンの肉も半分の200kgしか残らなかった。
肉の総売上は50億、だが当然俺の手元には一銭も入らない。
また売られる前に100kgは別荘のメイド達に渡し、残りの100kgは世界中の恵まれない子ども達に寄付した。
…マキナとリザリーが。
一応残った端数の3kgはクレインとリザリーのお姉さんの元に半分づつ配送済み。
食材は置いといたら腐るから仕方ないとして、材料にまで手を伸ばそうとしたのには俺もカチンときたね。
流石に半ギレの俺にビビったのか怯えながら手を引いてくれた。
その騒動の二日後にクレインからお礼の手紙がきてたらしい。
俺はその頃クレインの所に小箱を取りに行ってたけど…何も言われなかったぞ?
まあ学校生活は楽しいとの事。
問題があるとしたら魔術の実技授業が不安、という事だけらしい。
チャームの魔法は抑えてるとはいえ…いつ暴走するか分からないからな。
まず人間が魔法を使えるって事実がかなりあり得ない事なんだけど。
多分10億人に一人ぐらいの確率だと思うよ?
って事は世界中にあと数人は魔法が使える人間が存在するのか…
世の中はどんどん変わっていくなぁ。
まあそこらへんはさておき、クレインの事をリザリーとエルーに報告して今に至る。
俺は公園のひと気の無い木陰のベンチに寝っころがっていた。
ユニオンに帰るべき家は無いし、エコー・アルバトロスが落ち着くまで魔王城にも帰りたくはない。
むろん出身国の実家に帰るなんてもっと無い、論外だ。
親兄弟に魔物…妖怪になってるなんてどのツラ下げて言えばいい?
敵と仲良しこよしなんて俺の国ではありえねぇ。
忍者と呼ばれる特務部隊に命を狙われるのがオチやわ。
俺の出身国には侍とか剣豪とか呼ばれる人も存在したらしいけどな~…今は昔の話だ。
未だに妖怪退治してる世の中…まあ魔物が存在しない唯一の国ではあるけどさ。
いくら魔物でも妖怪と人間の両方を相手にはできんし。
そう言や忍者と呼ばれる者達が在籍する特務部隊って入るのが相当難しいんだよね。
俺も養成学校に入る前の三年間ぐらい訓練してたけど…
厳し過ぎて…いや、違うか。
俺に才能や能力…素質が無かったから、ついていけずに追い出された。
だからユニオン兵士養成学校に入る事にしたんだっけ。
俺が産まれ育った町には、妖怪を退治するためには強くならないといけない。っつー古臭い風習があってだな…
いや、必ず三人は町から輩出しないといけない。と言う国の政策の所為でもあったかも。
思えば運悪くくじ引きで決まったのが始まりだったか。
毎日毎日苦しくて辛く厳しい訓練。
…素質も才能も能力も無い俺が良く頑張れたよな~。
ま、今は良い思い出だけど。
やっぱどんなに辛く苦しい事でも過ぎれば良い思い出、だね。
「あら、こんな所にいたの?」
昔を思い出して感傷に浸ってるとリザリーがやって来た。
「…人違いだったかしら」
感傷に浸って上手く返事できないでいるとリザリーが困惑したように踵を返そうとする。
「いんや、ビンゴだよ」
「だったら…え…?泣いてるの?」
「は…?あ、ホントだ」
指摘されて目を擦ると少しばかり涙が出てるようだった。
「なにかあった?」
「ちょっと理不尽な人生を思い返してな」
まさか涙が出てたとは…感傷に浸り過ぎるのも問題があるな。
「そう」
「他人事のように言うな、一割はお前も絡んでるんだぞ」
「アレだけやってたった一割?…心が広いと言うか、大物と言うか…ただの馬鹿ね」
自覚してたんかい!余計にタチ悪いな、おい!
でも考えたら自覚してるだけマシなのか…?
「で?わざわざ何の用だ?」
「話があるわ」
「また面倒事か?」
「…そうね」
俺の質問に少し考えたあと肯定した。
ま、聞くだけ聞いてみるか。
とりあえずベンチから立ち上がりリザリーの後についていく。
着いた先はエルーとマキナの居る研究所。
どうやらエルーもこの研究所に住んでいるらしい。
そういや…リザリーとかマキナって実家に帰ってんの?
エルーはこの前クレインを連れて帰ったのは聞いたけど、リザリーとかマキナは聞いた事ないな。
「うーん…あとで聞いてみるか…な…?」
着いて早々トイレに行こうとしたら廊下で凄いものを目撃してしまった。
「な!て、テイト!ちがっ!これは…!」
「ふえっ!?て、程人君!?なんで!?これは…!!」
…エルーがマキナを押し倒した挙句に抱き合っている。
おお、小説でよく見るハプニングだ。
これはエルーが主人公って事でいいのか?
それともマキナか?
「…廊下でナニしてんの?まあだいたい予想はつくけどさ」
「俺は!マキナが転びそうになったから…!」
「そうそう!私が転びそうになったのを…!」
二人は抱き合ったまま俺の誤解を解こうと必死になっている。
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