21

「6年前…?」



6年前てぇと…まだ俺が死ぬ前、養成学校で6学年の時じゃねぇか。



「まさか、思い出せないとでも言う気ですか!?」


「うん、心当たりが多すぎて」



あの頃は暗殺学科にいたんだっけ?



暗殺の才能が無いから学年が上がると同時に諜報学科に異動させられたんだよな。



まあ才能云々よりも俺がちゃんと任務をこなさなかったのが悪かったんだけど。



「ラメズラ公爵…と言えば思い出すかしら?」



ラメズラ?ラメズラ…ラメズラ…うーん…思い出せん。



「私達を国外へ追い出しておいて忘れるなど…!万死に値しますわ!」



あ!国外で思い出した、へー…あのお嬢さんがこんなレディにねぇ。



「その顔は思い出していただけたようね」


「思い出しはしたけど、なんでわざわざ変なフラグ立てんの?」


「貴方から真実を聞くためですわ。なぜ何もしてない私達があんな仕打ちを受けねばならなかったのか…!貴方さえいなければ!」



うん、とりあえず良くある勘違いって所だな。



「ありゃ上の命令でな、腐った貴族を掃除するためにだよ」


「腐った貴族ですって!?お父様が一体何をしたと言うんです?」


「ん~と…他国への技術漏洩、闇ルートの麻薬売買の関与、後は他国のスパイの隠れ蓑の提供…その他諸々」


「なっ…!?」




消されるリストに入ってた貴族は100%やってるから罪状はそんなもんだろ。



幼い頃の切婦人に『止めて!お父様を殺さないで!』って泣きながら懇願されたから逃がしたんだよなー…確か。



「君が泣きながらお願いするから見逃してやったってのに…まさか恩を仇で返されるとはね」


「そんな…!嘘です!」


「嘘じゃねーよ、見逃してあげたおかげで任務不達成とか言われ懲罰房にぶち込まれたんだぜ?」



まあその後もぬけの殻になった屋敷を調べたら証拠品が出るわ出るわ…一斉検挙できたから少しは軽くなった。




全く…感謝されこそすれ怨まれる筋合いは無いっての。



「嘘よ…嘘…」



切婦人は取り乱したように剣をリングに落とす。



ん?そういやさっきから実況の声が聞こえんな。



『今明かされた驚愕の事実!!道化師のピエロ、昔はユニオン共和国のさる組織で暗躍していたらしい!!裏組織なのか?裏組織での貴族暗殺の任務についていたのか!?だからここまでの実力者なのかぁ!!?』



うるせーな…ヒートアップし過ぎ。



それに裏組織じゃねぇよ、兵士養成学校は国家公認の組織だろ。



実況席から切婦人に視線を移すとなんかブツブツ呟いていた。



「そうよ…!全部あの人が悪いんだわ…あの人さえ来なければ…!」



…うーん、なんかおかしな方向にイってるなぁ。



「俺以外が来てたら君のお父様は死んでたぞ、なんせ女に甘い奴は俺一人だけだったし」



粛清するハズの貴族を逃がすなんて下手したら背信行為と取られて逆に粛清されかねん。



ただ俺の場合は『女子供に甘い』ってのが周知の事実だったから懲罰房程度で済んだんだけど。



「うるさい!お前さえいなければ!」



切婦人は落とした剣を拾って斬りかかってきた。



「怒りで周りが見えてない」


「あっ…!」



当たるギリギリで斜め前に避けて剣の柄で首の一点を殴る。



技名で言えば一応ツボ押し拳一式昏倒急。



大会最後の相手なのになんともあっけない。



女の子だから仕方ないか、ここまで来て女の子に負けるとか恥ずかしいし。



『……は?ダウン…した?えーと…ダウンだぁ!!これは5秒以内に立ち上がらないと失格になってしまう!!』



おい、今実況のくせに素に戻らなかったか?



1、2、3、4、5。



『なんと!?あっけない幕切れ!!道化師のピエロの優勝だぁ!!!』



客席からは激しいブーイングの嵐。



物を投げようにもドーム状で覆われてるため、投げる事をできずに余計に怒りが溜まったらしい。



『ではコレより10分後に優勝賞品の贈呈を始める!!道化師のピエロはそのままで!』



10分もここにいんの?まあいいか。



俺はリングに腰を下ろして時間を待った。

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