09
小箱から剣と斧、そして砥石を取り出して研ぐ。
『午後の部30分前です。参加者は控え室にお集まり下さい』
「もう時間か」
武器を研磨してると時間が早く感じるぜ。
剣を鞘にしまって斧は小箱の中に入れる。
研いでおいて何だけど…今回は剣だけしか使わねぇや。
「コレ預かっといて」
「分かりました」
小箱をクレインに預けて個室を出る。
どうやら控え室に集まった参加者の中で俺が最後だったらしい。
部屋に入った瞬間みんなが注目してドアが閉められた。
「では!これで参加者の全員が集まりました!これより身体検査を行います!」
武具以外の道具は今の内に預けて下さい!とNo.の書かれたカゴを差し出す。
俺はポーチを外してカゴの中に入れた。
…コートはリザリーのミスでどうやら研究所と一緒に燃えてしまったらしい。
その代わりに魔札を入れるためのポーチを貰った。
因みに言うと5個のポケットに分かれているサバイバル用に近いやつだ。
「失礼します」
持ち物をカゴに入れると係員が体を弄り始める。
うわお、かなり徹底してるな。
もしかしたら前に誰かが道具を持ち込んだ…とかか?
「異常なし、OKです」
係員が俺から離れると他の所からも同じセリフが聞こえてきた。
「全員OKと言う事で…荷物は終了後にお返しします。あと20分後に始まります!」
係員達はカゴを持つと隣の部屋へと移動する。
…ちょっ…!魔札見られたら厄介な事になるんだけど!
まさか勝手に他所様の荷物を漁るなんてこと…しないよな?
「へイ、そコのyou」
「ん?」
係員が入っていったドアを見てると頭にバンダナを巻いた男が話しかけてきた。
「youは何者だイ?」
「は?」
質問の意味が理解できずにそのまま疑問系で返す。
「おっと、言葉が足りなかったか…ココにいる大概はお互いの名前ぐらいは知ってる程ノ知名度の奴らダ」
ああ、そういう事ね。
「今回はyouみたイな一般人が面白半分で参加できル類いノ大会じゃナいゼ」
「心配してくれてんの?」
「アぁ、なんせ今回ハ魔物が相手だカらナ…手加減無しノ戦いで死人モ出タらしイ」
死人ねぇ…こいつの言うように面白半分で参加した奴らなんだろう。
「一日に一人ハ必ず知らなイ名前の奴がいル…が、残念なガら漫画のよウにダークホースが強いトは限らナいのサ」
「あんた…名前は?」
わざわざ忠告してくれるとはなかなか優しいバンダナじゃないか。
名前ぐらいは聞いてやるか。
覚えれるかどうかは別だけど。
「リチャード、リチャード・ラナ・エルグリズだ」
「リチャード…ね」
「因みニ今大会でハ通り名の『猛将グリーズ』で登録しテいる…youは?」
「俺には名前が無くてな…みんなからはピエロと呼ばれている。登録名は『道化師のピエロ』だ」
もちろん8割嘘。
偽名での登録が可能だったから道化師のピエロで登録してる…のだけ本当。
「道化師のピエロ…縁起の悪い登録名ダ、youさえ良けレば間違って死ナないようニ色々と教エてやろウ」
「マジか?時間まで暇だし頼む」
こうして俺はバンダナからココに参加してる奴らの素性?を教えて貰った。
魔物が相手と言っても倒して勝ち上がるのは一名だ、どうしても人間同士での戦いは避けられない。
色々と札付きの奴から裏社会で名を馳せてる奴、どっかの国で名を上げてる騎士団長的な奴までいる。
バンダナは隣の国から人魚を取るように依頼されてきたらしい。
なんでも優勝賞品である人工人魚を調べれば、遺伝子技術がユニオンと並ぶとか。
槍はそのついでに…みたいな事らしい。
「youの目的ハなんだイ?」
「当然美人なチャンネーだ、遺伝子云々は知らん」
「youは動機が不純だナ」
『開門です!午後の部、開催!』
バンダナが笑うと同時にアナウンスが控え室に響きわたる。
「さテ…行くトするカ、youも死にそうニなったラ逃げろヨ」
「ありがとよ、バンダナ」
みんなが歩いて行くのを見て俺は軽くストレッチをした。
『では閉門!』
危ねっ!急がねぇと失格だ!
アナウンスを聞いて走り、なんとか閉まり出した門をギリギリで通り抜ける。
「ハハッ!逃げ出したカと思ったヨ」
直径100mはある円形のリングの上でバンダナは俺を見て笑う。
…表情とは対象的に目は全く笑っていなかったけど。
参加者は俺を合わせて全員で12名、俺以外の参加者は武器を手にして向かいの鉄門を見ていた。
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