33
「分かった。話を進めよう」
「隊長!」
なんか一番離れた所に居た奴が偉そうに近づいてきた。
隊長…ねぇ。
「我々は軍事技術審査会の者だ」
「軍審会の…?なぜ?」
軍事技術審査会?なんだそれ?
「なあエルー…軍審会ってなんだ?」
「ユニオンの軍事技術の研究を管理する役割を持つ政府直属の組織だ」
名前のままってわけね。
「他にも医療技術の医審会、機械技術の機審会もある」
「いろいろ分かれてるんだな…」
「そうだ。だが…軍審会がなぜ研究所に?」
「知らんよ」
普通なら審査官が現場に来るなんてありえないよな。
完成品を見て評価するのが仕事のハズだし。
「今回はリザリー・クレイン、マキナ・クルシェイルの研究引継ぎの件で参った」
「研究、引継ぎ…?なによそれ」
「今の貴女方では短期的な完成は難しいと判断し、我々が推薦する研究者に委託する事にした」
隊長と呼ばれた男は淡々となんの感情も込もってない声で告げる。
「どういう事?」
「さっき言った通りだが?」
「委託?なんで?もう少しなのに?」
珍しくマキナが動揺していた。
「貴女方の研究は他にもある。同時に複数の研究を進めるのは感嘆の一言に尽きる…が!状況が少しずつ変わってきてるのだ」
「状況?そんなの関係ないじゃない」
「研究は大方8割程完成していると聞いた。『ならば実績のある研究者に任せれば直ぐに完成するだろう』と言う上の考えだ」
「何をそんなに急いでるの?」
「…魔物の大軍が…攻めてくる日も近いと言う予想がでている」
「!隊長!それは国家機密では…!」
隊員達が慌てるが隊長はうろたえるな!と一喝する。
「程人」
「ん?」
「ちょっと聞きたい事があるわ」
リザリーはいつものように上から…高圧的な言い方では無く、珍しくしおらしい…謙虚的な言い方で質問してきた。
「近い内に魔物が攻めてくると言うのは本当なの?」
「近い内…かは分からないが多分な」
「近い内かは分からない?」
「魔王が魔界に里帰り中だから…帰ってくるまではまだ平和だと思う」
魔王様も久しぶりの魔界だからそう早くは戻って来ないだろ。
里帰りって言うか強制送還に近かったけど…
まあ兄弟?とかとも会ってるだろうし。
「里帰り?魔王が?」
「まあなんつーか…魔王城に敵が攻めて来たわけよ、その時はエルーと一緒に悪魔将軍と戦ってたんだけど…」
「悪魔将軍?」
如何にも胡散臭い言葉ね…と眉をしかめた。
「ココで言う魔神級の悪魔だ」
「将軍…ね」
「続けるけど、魔王様がピンチ的なアレで急いで魔王城に戻ったわけよ」
なんか軍審会の人達は、何言ってんの…こいつ?みたいな可哀想な子を見る目で俺を見てるんだけど。
「それで?」
「勇者だか英雄だかにやられそうになってる魔王を魔界に逃がした」
「「「はあ?」」」
三人の声が見事にかぶった。
軍審会の人達は少し驚いたらしくビクッてなってる。
つーかさ…さっきからクレインが蚊帳の外過ぎるんだけど。
エルーがちょくちょく話しかけてるから居心地悪い…みたいにはなってないかもしれんけどさ。
それでもなんか可哀想やわー…
「あんた重大な大戦犯じゃない!」
「よりによって魔王を逃がすなんて…!」
いやいやいや…なんで責められてんの?分かるけどさ、でも俺魔王軍だし……ねぇ?
「あんたねぇ…立場ってのを弁えなさいよ!」
「そうだよ程人君!せっかく世界平和の一歩手前まで行ったのに!」
「いや…でもさ?」
女の子二人に詰めよられジリジリと後ろに下がる。
「言い訳は聞きたくないわ」
「程人君見損なったよ」
フン!と二人揃って俺を部屋の角に追い詰めた挙句にソッポ向いて椅子に向かった。
えぇー…なんで?せめて理由ぐらい聞けよ。
「リザリー、マキナ、落ち着けよ」
「あんな話聞いて落ち着けるわけないじゃない」
「全くだよ、人類に対する重大な裏切りに他ならないよ」
エルーがなんとか宥めようとするがその言葉にすら二人は噛み付く。
「人類に対する裏切りか…マキナ、今の言葉を良く考えろ」
急に真顔になり温度を感じさせないような声で言う。
「何を?本当の事でしょ」
「そうね…コレばっかりはマキナの言う通りだと思うわ」
「お前ら…冷静に考えろ」
エルーの声が心なしか冷たくなっていく。
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